42話 カウントダウン 36
すでに久米くんがスキルで作った分身の数は3人になっていた。
ある程度のダメージを受けると分身は消えるようだ。
鳥人間は分身が消えるまで集団で襲いかかり、消えると次に向かう。
まだ久米くんの本体は無事のようだ。
「がぁあああぁっ!」
鈴木くんを背負いながら鰐淵くんが吠えていた。
左目がえぐられ、腹から血を流している。
それでも加藤くんや佐藤くんに比べればまだマシなほうだ。
佐々木さんと二人で、鰐淵くんの所まで駆け寄った。
「おまえら、何しに来た」
「助けにだよっ!」
「かがんでっ! 持ち上げて、飛んで逃げるからっ!」
しかし、鰐淵くんは首を横に振る。
「俺様はいらん。コイツだけ連れて行け」
グッタリとして動かない鈴木くんを渡してくる。
彼も負傷し気絶しているが、身体中にスキルで作った糸が巻かれていてダメージは少なく見えた。
「俺様はまだ戦う。仲間がやられて逃げられるかっ! アイツら絶滅させてやるっ!」
逃げる気はない、といったように鰐淵くんは、久米くんの分身に群がる鳥人間たちの所へ向かおうとする。
「ダメだ、あの二人と約束した。連れて行く」
「行かねえって言ってるだろっ、ボケがっ、ぐはっ!」
鰐淵くんの腹を思い切り殴った。
「て、テメエ、覚えてろ、よ」
残った右目がぐるんと上に向いて鰐淵くんが前に倒れ、それを支える。
「佐々木さんっ」
「む、無茶するねっ、でもありがとう。二人を持つから後ろから抱きついて」
周りの重力をゼロにして、佐々木さんが飛ぶ。
「久米くんはっ?」
「あそこだ、ヤバい、もう一人しかいないっ」
最後の分身が攻撃を受けて消滅した。
残った本体の久米くんを鳥人間が囲んでいる。
消えていく分身に腹をたてたのか、久米くんに群がる鳥人間たちは異常に興奮していた。
「ダメっ、もうあそこに行けないっ!」
「そんなっ」
鳥人間に囲まれる久米くんと目があった。
手を挙げて久米くんが笑った。
その手が二本の指を立てる。ピースサインだ。
元から、注意を引いて仲間を逃すつもりだったのだ。
「行くよっ、もう見ないで」
「久米くんっ!!」
鳥人間が一斉に久米くんに襲いかかる。
鳥人間の山が積み上がり、久米くんの姿が見えなくなった。
だが、その時。
どんっ、とその山に槍が突き刺さった。
長い長い槍。その先を見る。
加藤くんと佐藤くんが二人で支え合うように立っていた。
手に槍が握られている。
その槍も二人で一緒に握っていた。
とても立てる状態ではなかった。
二人で足が二本しかない。
手も二人で二本だ。
一人では立つことは出来ないボロボロの二人が一人になり、そこに立っていたのだ。
久米くんに群がっていた鳥人間の山がばっ、と飛び散って加藤くんと佐藤くんに向かっていく。
全身から血を流した久米くんの姿が見えた。
「今よっ」
久米くんの元に向かって飛ぶ。
「捕まってっ」
佐々木さんの正面から久米くんが抱きついた。
そのままスピードを落とさずに佐々木さんが上昇しながら飛んでいく。
もう振り向きはしなかった。
携帯にラインの通知を知らせる音声が鳴る。
『カウントダウン あと36』
「行ってきたよ、二人とも」
「おう、ご苦労さん」
「オレらもちょっと行ってくるわ」
加藤くんと佐藤くんのいつもの声が聞こえた気がした。
形はなくなっても彼らの想いを忘れることはなかった。




