41話 加藤と佐藤
子供の頃、大吾と公園の砂場で城を作っていた。
何時間くらいたっただろうか。
もう日が暮れて空がオレンジ色に染まってきている。
「もう帰らないと怒られるよ、涼ちん」
「あと少しだ、だいちん。これを完成させてから帰ろう」
「涼ちん、それ、明日には崩れてるよ。なんでそこまで頑張るの?」
「いいんだ」
両親が事故で亡くなって、俺は全てがなくなったと思っていた。だけどそれは違ったんだ。
「たとえ、形はなくなっても、想いはずっと心に残っているんだ」
分裂した久米くんの分身に、鳥人間が一斉に群がった。
その隙に、倒れていた加藤くんと佐藤くんを渓谷の外に運ぶ。
鳥人間に身体中を食べられた二人は人の原型を保っていなかった。
「佐々木さんっ! 先に二人を連れて帰ってっ!!」
そう叫ぶが佐々木さんは首を横に振る。
「ダメっ。もうほとんど息していないっ。間に合わないっ!!」
「いいから、運んでくれっ!」
「違うっ、彼らを諦めて、他の三人を救わないとっ」
加藤くんと佐藤くんを見る。
不良グループの中で彼ら二人はいつも二人一緒にいた。
同じ位置で二人は重なって倒れていた。
加藤くんを守ろうとしたのだろう。佐藤くんは身体の上に覆いかぶさっていた。
「助けたいんだっ! 二人ともっ!!」
分身した久米くんの数が減っていた。
ハーピーがこちらに気づくのは時間の問題だ。
鰐淵くんが、グッタリした鈴木くんを肩に担いで運んでいた。
だが、負傷しているため、その速度はかなり遅い。
『全員は助けられない。残酷な二者択一を迫られるかもしれない。覚悟はしておいて』
時任さんの言葉を思い出す。
だが、動けない。
その言葉を聞いた時、覚悟をした気になっていた。
だが実際に、まだ生きている仲間を見捨てることの重みを理解していなかった。
「い、行って……」
それは蚊の鳴くような声だった。
「お、おれたち、を」「お、置いて」「いって」
加藤くんと佐藤くんが振り絞るように声を出す。
「大丈夫だっ、帰ったら治せるんだっ、一緒にっ」
パーーン、と頬を叩かれた。
佐々木さんが泣きながら叫ぶ。
「二人の意志を無駄にしないでっ!!」
頭が一瞬、真っ白になった。
そうだ。このままでは誰も助けることが出来ない。
加藤くんと佐藤くんを見た。
「おまえ、生意気だなぁ」
「オレらのこと舐めてねぇか、あぁ」
矢沢くんたち不良グループとは、大吾のこともあってよくもめていた。
二人とは顔を合わせれば、お互い嫌な顔をして、まともに話したことなんてない。
理解しようとも、されようとも思わなかった。
そんな二人と今、初めて向き合う。
「ちょっと行ってくるよ」
俺がそう言うと、二人は、ほとんど指が残っていない手でグッドのサインを送ってくれた。
「じゃあな」
「あと、よろしく」
元気だった頃の二人の声が聞こえた気がして「まかせろ」と答える。
それが二人との最後の会話になった。




