40話 クラスメイト
シャルロッテ直属の部下に抜擢されてから、クラスメイトとはずっと会っていなかった。
みんなと合流するのは、一年ぶりだが、誰も僕のことを気に留めない。
それどころではないのだろう。
「ついに来たぞっ! この時がっ!」
無駄に大きな声で叫んだのは、生徒会長の片桐君だった。
「悪の追放者。仲間を殺して武器にしたその男を倒せば、俺達は帰れるんだな?」
「ええ、もちろんです。そのためにあなた達、救世主を呼んだのですから」
嘘だ。シャルロッテの言葉は嘘でまみれている。
彼女の側にいることで、そのことを嫌ほど実感した。
「やった、やっと帰れる」
「この一年、辛かったな」
「ああ、カップ麺、オレ、カップ麺が食べたい」
クラスメイトのみんなが騒いでいるが、僕は一人、気持ちが冷めている。
追放者の戦いを望遠鏡でずっと観察していた。
あれはもう人ではない。
城の中で特訓してきた温室育ちのクラスメイト達が戦うこと自体間違えている。
万に一つも勝ち目はないだろう。
なのに、何故だ?
シャルロッテはとても期待に満ちた目をしている。
彼女は一体、何を期待しているのだ?
「片桐、先に俺に行かせてくれ。透明になれる俺のスキルで暗殺を狙ってみる」
クラスでも目立たない存在だった影野君のスキルは、不意打ちに特化していた。
「ダメだっ、そんな卑怯な手を使ってどうするっ。俺たちは勇者だぞ」
「いや、しかし……」
「正々堂々、戦線布告の後に戦闘を始めるっ。相手が降伏すれば手は出さない。いいかっ、俺たちが行うのは暴力ではない。追放者に正義を貫くのだっ!」
そんな綺麗事を言っている場合ではない。
やはり、ズレている。
「全軍、正面より行進っ! これより、正義を実行するっ!!」
片桐君の奮起スキルが発動した。
彼の声を聞けば、身体の底から力が溢れ、戦闘力は二倍以上に膨れ上がる。
クラスメイト達が片桐君の声に答えるように雄叫びをあげた。
城の城門が開かれ、40人の行進が始まる。
「死なないでね」
僕にだけ聞こえるようにシャルロッテが呟く。
「できれば生きて帰って、またスキルを報告してね」
死の行進がはじまった。
「今から我々は貴様を拘束するっ。少しでも動けば、攻撃の意志があるとし……」
「伸びろ、『加藤』」
一瞬で伸びた長槍『加藤』が眉間に突き刺さり、片桐君は台詞を最後まで言えずに絶命する。
血を撒き散らしながら倒れていく片桐君の姿に、クラスメイト達の悲鳴が上がった。
そんなことで動揺する者達が、この化物相手にどうやって戦えるというのか。
ほとんどのクラスメイトはスキルを使うことなく逃げ惑う。
追放者はボウガンを取り出し、逃げるクラスメイトを背後からめった撃ちにしている。
「十個目のスキルを確認。長槍スキルの『加藤』。伸びる槍の距離は20メートル以上」
クラスメイトの一番後ろで、追放者を見ながら呟く。
「さらに十一個目のスキルを確認。光の矢スキルのボウガン『矢沢』。当たった箇所は光とともに溶けてなくなる」
光の矢を撃たれ、次々に溶けていくクラスメイト達。
僕と追放者の間に道が開ける。
目があった。
僕を覚えていたのか。
追放者が自分の右瞼の上をとんとん、と叩く。
撃ち抜いたのにどういう事だ、という意味だろう。
「もう一度試してみろよ」
そう言うと追放者が笑った気がした。
実際、そこに笑みは無かったが確かにそう感じたのだ。
ボウガン『矢沢』を持った追放者の右腕が僕に向けられる。
だが、その矢が放たれることはなかった。
ボウガン『矢沢』ごと、追放者の右腕がちぎれ、宙に舞う。
「ああ、なんだ、そこにいたのか」
まるで腕を失ったことなど気に留めず、追放者はそう言った。
借り物屋で、影野くんの透明になるスキルを借りていたのか。
透明だった姿が徐々に色付いてくる。
追放者の右腕を刀で斬り飛ばしたシャルロッテが僕の前に立っていた。




