39話 開戦
学生服を着た男女が城から並んで出てくる。
その部隊は今までの部隊とは明らかに違っていた。
ゴーグル『安藤』でその人数を確認する。
40人。
そうか、また救世主を呼んだのか、シャルロッテ。
「追放者に告ぐっ! ただちに降伏せよっ!!」
先頭に立っている男が叫ぶ。
まだこちらまでかなりの距離があるが、その声は地鳴りのように響き渡る。
そうだ。俺たちが城についた時も、小日向くんが叫んでいた。
『魔王に告ぐっ! ただちに降伏せよっ!!』
全く同じセリフに思わず笑ってしまう。
俺はまさにあの時の魔王と同じということか。
シャルロッテの城を侵略し、魔王と呼ばれていた男は、ごく普通の人間だった。
黒いマントを羽織っている男は、玉座に座り、静かに俺たちを眺めている。
二十歳前後に見える若い男だった。
「君達が新しい救世主か……」
男が立ち上がり、俺達は警戒する。
だが、男から戦う意志は感じられない。
その顔は今にも泣き出しそうな悲壮感に満ちていた。
「ここに来るまでに魔物を倒してきたんだろう。おかしいと感じなかったかい?」
男が話しかける問いは、確かに疑問に思っていたことだ。
「地球のゲームやアニメに出てくるような魔物ばかりだっただろう。なんでこんな惑星にそんな魔物がいるのか、考えてみたかい?」
疑問には思っていが、考える余裕などなかった。
俺たちは生き残ることで精一杯だったからだ。
皆はただ黙って男の話を聞いていた。
「答えは簡単だ。アレらは全部、僕の知識の中にある魔物だからだ。そうだ、僕も君達と同じ救世主なんだよ」
「馬鹿なっ! そんなことっ!!」
信じられるか、という言葉を小日向くんは飲み込んだ。
男が携帯を取り出し、その画面を俺たちに見せる。
『出席番号 男子4番 王馬 勇人』
『スキル 創造主』
『死んだクラスメイトを魔物に変えることができる』
今まで倒してきた魔物たちは元人間だったのかっ。
その衝撃は計り知れないものだった。
クラスメイトたちは嗚咽と共に涙を流し、気が狂ったように泣き喚いた。
いくつもの絶望をくぐり抜け、ようやくたどり着いた場所。
だが、そこには更なる絶望しか存在しなかった。
背負い袋『森山』から長槍を取り出し、救世主の集団に向かって、砂漠の真ん中を歩いていく。
「止まれっ! それ以上近づくと攻撃を開始するっ!!」
先頭の男との距離は20メートルくらいか。
そこで止まり、長槍を構える。
どことなく小日向くんと似た雰囲気を持つ男がさらに大きな声で叫ぶ。
「今から我々は貴様を拘束するっ! 少しでも動けば、攻撃の意志があるとし……」
「伸びろ、『加藤』」
一瞬で伸びた長槍『加藤』が、叫んでいた男の眉間にが突き刺さる。
『加藤』を引き抜き、元の長さに戻すと、男の頭から噴水のように血が飛び出し、そのまま後ろに倒れていった。
「悪いな、話をするつもりはないんだ」
残った救世主たちが何かを叫んでいる。
だが、それはただの雑音となり、耳には届かない。
俺や、あの魔王と同じ、ただ巻き込まれただけの救世主たち。
それでも復讐を果たすためには、全部殺すしかないのだ。
絶望、絶望、絶望、どこまでいってもこの世界には、絶望しか存在しなかった。




