37話 部隊名簿
日が暮れる頃には、体調はすっかり戻っていた。
あれだけの重傷が軽い貧血だけで済んだことは、奇跡に近い。
河合さんには、どれだけ感謝してもし足りない。
夕食が終わった後、皆には昨日のお詫びだと言って、一人で後片付けを買って出る。
河合さんや田中くんは喜んでくれたが、名波さんは、まだ怒ってるみたいで、ちょっと顔が怖かった。
「泉くん、ちょっといいかな?」
川原で洗い物をしている所に佐々木さんがやってくる。
後ろに宇佐さんと時任さんも見えた。
「うん、大丈夫だけど ……田中くん達は?」
「いいの、泉くんにだけ、話があるの」
なんだろうか。
第七部隊を抜けてきた3人は、これからどうするのか、まだ具体的に話していなかった。
このまま、第八部隊と合流して、一緒にいるつもりではないのだろうか?
一応、隊長を任されたけど、やはり俺には荷が重い。
できれば、田中くんに相談してほしいのだが……
「これ、みてほしいの。うっさーが作ってくれた」
「これは……」
佐々木さんが渡してきたのは、大学ノートだった。
松明で照らして、ページをめくるとクラスメイトの名前が目に入る。
「……部隊名簿か」
ただの部隊名簿ではなかった。
宇佐さんが書いた可愛い丸文字で、部隊ごとにコメントが書かれている。
「そう、小日向が分けた部隊の名簿。バランス良く配置されているようだけど、そこに、裏の意図が隠されている」
確かにそうだ。
宇佐さんのコメントを見ながら、改めて考えると、そこから小日向くんの考えがわかってくる。
『第一部隊。成績優秀者のみの優等生部隊』
『第二部隊。リーダー的存在者達による我の強い部隊』
『第三部隊。合理的な冷静沈着部隊』
『第四部隊。不良グループとパシリの問題児部隊』
『第五部隊。スポーツ万能体育会系部隊』
『第六部隊。 オタク文化系部隊』
『第七部隊。 個性派が集まる独立部隊』
『第八部隊。 お荷物部隊』
どう見ても明らかだ。この部隊の分け方は……
「半分だ」
思わず口にそうすると、佐々木さんがうなづいた。
「そう半分。小日向の部隊編成は、自分にとって邪魔になる部隊と邪魔にならない部隊とに分けている」
第八部隊だけではなかった。
小日向くんは全員を助ける道を諦め、最初から半分の命を救うことを考えていたのかっ。
「さっさんっ! 動きがあったよっ!」
佐々木さんの後に控えていた、宇佐さんが緊張した表情で、やって来る。その耳元に機械の蝿が飛んでいた。
「第四部隊が単独で出発したよっ! 鰐淵くんの部隊だっ!」
不良グループとパシリの問題児部隊。
おそらく、第八部隊と同じか、それ以上に小日向くんにとって邪魔な部隊だ。
「死にに行くようなもの」
宇佐さんに続き、時任さんもやってきた。
「このままほっとけば、すぐにクラスメイトは半分になる。でも今ならまだ、変えられるかもしれない」
予知スキルで未来を見たのだろうか。
「ど、どうしたらいいんだ? いや、俺なんかに出来ることなんて、あるのか?」
「違うよ」
時任さんが首を横に振る。
「泉くんなんかじゃない。泉くんしか出来ないことだよ」
俺にはその意味がわからなかった。
こんなスキルもない俺が、みんなの未来を変えれるなんて思えない。
「わかった。なんでも言ってくれ」
だけど、それでも俺は、みんなを見捨てるなんて出来なかった。




