33話 小日向 司
「小日向軍曹、失礼しますっ」
夜が明けた草原のキャンプ地。
我々の部隊は真壁二等兵が作った壁の中で隊ごとに分かれ、休息していた。
そこに安達三等兵が報告に現れる。
「隊員 宇佐 伊都子三等兵。
隊員 佐々木 翔子二等兵。
隊員 時任 未来三等兵。
以上、三名の離脱を確認しました」
問題児だった三人組が離脱するのは予定通りだった。
あえて、同じ部隊に入れることでそうなるように仕向けたのだ。
最初から十人近くを放棄すると、反乱する者も出てくるだろう。
自ら離脱という形をとってくれた三人には感謝しなくてはならない。
「残った二人。
暁 弥生一等兵を第一部隊に。
野田 文香二等兵を第二部隊に。
それぞれ配属せよ」
「サー、イエッサー」
全員が無事に帰れるなどあり得ないとわかっていた。
ドラゴンやゴブリンなど、架空の魔物が襲ってくる中、敵に奪われた城を取り戻す。
犠牲者ゼロで出来ることではない。
将軍スキルを獲得した時に我は決断した。
捨てるべき命と拾うべき命を分けることを。
「それと小日向軍曹、第四部隊の隊長、鰐淵 剛一等兵が謁見を求めています」
「謁見を許可する。通せ」
そろそろ来る頃だと思っていた。
「第四部隊
隊長 鰐淵 剛一等兵。
副隊長 鈴木 恭弥二等兵。
隊員 加藤 孝太郎二等兵。
隊員 佐藤 次郎二等兵。
隊員 久米 浩信三等兵」
第四部隊をこのメンバーで構成したのには意味があった。
もう一つの不穏分子。クラスの不良グループだ。
彼らも排除しなければならない。
「よお、小日向、いい身分じゃねえか」
「ここでは軍曹と呼びたまえ。鰐淵一等兵」
「悪りぃな、聞こえにくいんだ。大きい声で言ってくれ、チビヒゲ」
耳に何かを詰めているのだろう。
将軍スキルの弱点を早くも見抜いていた。
やはり、この男は危険すぎる。
クラスの不良グループのリーダーは、第二部隊の矢沢二等兵と言われているが、実際、喧嘩が一番強いのはこの鰐淵一等兵だ。
大山一等兵の次に大きい身体と、凶悪な性格、野生的な感も鋭く、指揮下に置くには最も手に余る。
「要件は簡単だ。女をよこせ。第七部隊の三人が抜けただろう。野田でも暁でもいい。男ばかりでむさ苦しくてやってられねぇ」
どこから情報を手に入れたのか。
鰐淵一等兵の部隊に女を与えたらどうなるか、簡単に想像ができる。
「いいだろう。ただし、報酬には代償が必要だ」
耳栓をしている鰐淵一等兵にメモを書いて渡す。
『第四部隊だけで、この先で待ち伏せしている魔物を掃討せよ』
その紙を見た鰐淵が豪快に笑う。
「いいね、燃えてきたぜ」
魔物と同時に第四部隊も殲滅する。
一人でも多くの者を生かす為なら、我は鬼にでも悪魔にでもなってやろう。
「健闘を祈る、鰐淵一等兵」
敬礼して鰐淵一等兵を見送る。
「先に地獄で待っててくれ」
耳が聞こえない鰐淵一等兵は振り返らず、そのまま戦地へ向かった。




