30話 傷変換
目覚めた場所は城の天板ではなかった。
ベッドから起き上がって辺りを見渡す。
大きな試験管にホルマリン漬けにされた魔物や、人間の赤ん坊ががまわりに並んでいる。
部屋中にコードが所狭しと張り巡らされていて、見た事のない機械と繋がっていた。
城の地下にある研究室。
噂には聞いていたが、中に見るのは初めてだった。
「なんで、僕は生きているんだ」
追放者に銃で頭を撃ち抜かれたはずだった。
右目に弾丸が入ってきた感触を覚えている。
だが、右目を触っても傷一つない。
「大丈夫、痛みは変換したわ」
研究室の隅で、シャルロッテが椅子に座って笑っている。
「お陰で貴重な実験体を一つ失ったけどね」
彼女の背後にある試験管の中で、頭を撃ち抜かれた魔物の死体が浮いていた。
「あなたが戦えば、あの追放者に勝てるんじゃないですか?」
「まさか、借り物よ。回数制限もあるし、延滞料が馬鹿みたいに高いのよ」
シャルロッテのスキル、借り物屋。
その制限や制約はわからないが、僕が知る限り、最も強力なスキルだ。
だが、彼女は自ら戦うことを避けているように感じる。
「僕はどれくらい寝ていたんですか?」
「1時間くらいかしら。その間に第十一部隊と第十二部隊は壊滅したわ」
簡単に言う。何人死んだと思っているんだ。
「一人、生存者がいたので九つ目のスキルを確認できたわ。逆さ十字架の首飾り、名称は河合』。偶然にも、私が今使った傷変換のスキルよ」
本当に偶然なのか?
何かを感じずにはいられない。
追放者とシャルロッテ。
敵同士なのに、彼の事を語る時、シャルロッテは頬を赤らめ、高揚し、口調が変わる。
そう、まるで愛しい人のことを話す少女のように。
「はじめての生存者ですね。五体満足なんですか?」
「右耳と左目がなくなって、左手はちぎれかけてる。全身の骨折は32箇所だったわ。傷変換によるものね」
全然無事ではなかった。
「何故、生かされたのですかね」
「わからないわ。彼女の報告では、誰かと話した後、彼女の側にあった岩を踏み潰したみたい」
「誰か? 一体誰と?」
シャルロッテが少し考えてから答える。
「その場にはいない誰か、ね。未来が変わったわ。私が見た予知では、この戦いの生存者など存在しなかった」
予知スキルまで持っているのか。
本当に厄介極まり無い。
僕の計画がバレていなければいいのだが。
「もし何者かが介入してきたのだとしたら、許せないわね」
シャルロッテの顔が恋人を寝取られ、嫉妬に狂う女に見える。
「そろそろ、本番にいかないとまずいかしらね」
「本番、とは?」
嫌な予感がしてならない。
「ねえ、あなた、40個のスキルを持つ一人とスキルを持つ40人の集団だったら、どっちが強いと思う?」
「まさか、救世主たちを……」
正解と、言う意味だろう。シャルロッテが凶悪な笑みを浮かべる。
「第零番隊を出撃させるわ」
それは僕のクラスメイト達がいる部隊だった。




