29話 ノイズ
敵の部隊を大砲『名波』で壊滅させた後、城の天板に立っていた男の眼球から頭を狙撃銃『暁』でぶち抜いた。
隣にいたシャルロッテは、俺のほうを見て微笑み、そのまま姿を消す。
(待っていろ、最後にお前の頭をぶち抜いてやる)
砦の影で身を休める。
スキルを連続して使いすぎたため、消耗が激しい。
「……休ませないつもりか」
城の門が開き、新たな部隊が現れる。
さっきの倍、2つの部隊が左右に分かれて、こちらに突進してきた。
「全体、止まれっ!!」
『小日向』のスキルで向かってくる部隊の動きを止め、『八千代』と『焔』で左の部隊に斬りかかる。
さすがに十秒で、二つの部隊を同時には潰せない。
左の部隊を潰している間に、『小日向』の拘束時間が終わり、右の部隊が攻めてきた。
『小日向』が一分間の冷却期間に入る。
シャルロッテの息の根を止めるまで、なるべく強力なスキルは温存しておきたい。
俺は背中の大剣『大吾』を抜いて、倍率を五倍にした。
(肉弾戦でどこまでいけるか、試してみるか)
ある程度のダメージは覚悟して、そのまま敵に突っ込んでいく。
怒声と血飛沫が飛び交う中、俺はただめちゃくちゃに大吾を振り回し続けた。
「少し舐めていたか」
思っていた以上にダメージを喰らった。
左腕は肩からちぎれかけ、皮一枚でつながっている。
身体中の骨もかなり折れた。
右耳と左目は気がついた時にはなくなっていた。
随分と無茶をしたが、それでもリザードマンの巣穴に一人で向かった時よりは、だいぶましだ。
本当にあの時の俺は、どうしようもないくらいの馬鹿者だった。
だが、今は違う。
生き残りさえすれば、どんなダメージも関係ない。
「ゔ、ゔぅ、ゔぅっ!」
猿ぐつわをかませ、全身を拘束した女兵士を砦に運んできた。
敵の生き残りはもうこの女しかいない。
床で芋虫のように転がりながら、憎しみを込めた目で俺を睨んでいる。
「俺が憎いか?」
「ゔーーっ、ゔーーっ」
当然だと言わんばかりに、激しく身をよじりながら暴れだす。
「そうか、だったらいつか俺を殺しに来い」
「ゔゔゔぅっ」
胸にかけた逆さ十字架のペンダント、『河合』を取り出す。
『超怖かったし、痛かった! もう二度と使いたくない、このスキルっ』
初めて河合さんがスキルで俺を助けてくれた時の言葉を思い出す。
もう二度と使いたくないといったスキルを彼女は俺や仲間の為に何度も使ってくれた。
『河合』を女兵士のおでこに付ける。
「ゔゔゔぅっゔゔゔぅっいィぃ」
俺が負った全ての痛みが移動する。
右耳と左目が回復し、かわりに女兵士の耳と目がちぎれ飛ぶ。ちぎれかけていた左腕は綺麗に繋がり、折れていた骨も回復した。
逆に左腕がちぎれかけ、全身の骨が折れた女兵士はのたうち回る。
溜息が出た。
「この程度の痛みで、痛がるのか」
河合さんの最後を思い出す。
「わたしの分まで頑張ってね」
痛がりの彼女が、全身に酷い傷を負いながら、最後は笑って死んでいった。
俺に傷を移すことが出来たのに、彼女はそれをしなかった。
身体に受ける痛みなど、仲間を失う痛みに比べたら、蚊に刺された程にも感じない。
女兵士の猿ぐつわを外す。
「痛い、痛い、痛いっ! 助けてっ、助けてぇっ!!」
泣きながら血を流す女兵士の頭を踏みつける。
「お前に復讐は無理だ」
頭を潰そうと足に力を込めた。
その時、ザーーと頭にノイズが走る。
なんだ? 今まで記憶になかった思い出がノイズの向こうから突如現れる。
「えー、テステス、聞こえますか? うっさーです」
「さ、さっさんです」
「とっきー、です。三人合わせて、うざっときです」
こんな会話、過去にはなかった。
テレビ画面のような所から三人が俺に話しかけてくる。
「敵の女兵士の頭を潰したくなる、そんな時が来たら」
「やめといたほうがいいと思います」
「後味が悪くなりますよ。ではまた来週」
再びノイズが走り、記憶が消えていく。
まさか、過去から未来に干渉してきたというのか。
時任さんのスキル、予知だけではこんなことは出来ないはずだ。
未来を見て、時間を飛ばし、メッセージを送る。
予知、飛翔、偵察、三人の三つのスキルが合体したのかっ!?
女兵士の頭を踏む力をゆるめて、手で顔を隠す。
涙など枯れ果てたものだと思っていた。
「みんな、ごめん」
あの時と同じ言葉を言う。
「助けてっ、お願いっ、殺さないでっ」
再び頭を踏む足に力を込める。
女兵士が泣き叫んだ。
「でも、もう止まれないんだ」
全力で力を込めて、女兵士の頭を踏み潰した。




