27話 巣穴
日が暮れてから俺は、みんなにバレないように、松明と武器を持って、一人で川原の上流に向かった。
朝に襲撃を受けた時、リザードマンは上流からわらわらと湧いてきた。
きっとそこに奴らの巣があるはずだ。
朝の戦闘でリザードマンの数はだいぶ減っている。
奴らが繁殖して増える前に叩くなら今しかないと思った。
だが、予定外のことが一つ起こってしまう。
「この近くね。足跡が残っているわ」
上流に向かうところをシャルロッテに見つかってしまったのだ。
「間違いないわ、ここがリザードマンの巣ね」
川原の上流に辿り着くと、そこに大きな滝があり、その裏に隠れるように洞窟はあった。
松明を持ったシャルロッテが洞窟の入り口を照らす。
奥深く続いているようで、全貌はわからない。
「本当に一人でやるの? そんな武器一つで」
「ああ、やれることはやっておきたいんだ」
田中くんと会話した後、城に行くことを諦めたことを名波さんと河合さんに報告した。
名波さんは予想通り、安堵の表情を浮かべたが、河合さんはヒステリックに文句を言ってくる。
しかし、たった一人で城に向かうことも出来ない河合さんも結局折れて、俺たち第八部隊は川原を動かず、ここで生活することに決定した。
「でもさ、またリザードマンとか来ないのかな? 次来たらわたしたち終わりじゃない?」
「その時はその時で考えるよ。とりあえず俺は寝る。あと隊長は泉に譲ったから、これからのことは泉に聞いてちょーだい」
河合さんの質問に適当に答える田中くん。
隊長を譲ったという話も、その時、初めて聞いた。
岩影に移動した田中くんは本当に疲れていたのだろう。
すぐに寝息を立て、爆睡した。
「で、どうするの?」
「朝までに考えておくよ」
そう言う俺を河合さんと名波さんは不安そうに見ている。
そんな中でシャルロッテは、嫌な笑みを浮かべながら俺を見つめていた。
「まさか、巣穴ごとリザードマンを殲滅しようなんて、考えるとは思わなかったわ」
「魔物の繁殖率はかなり高いんだろ。ここで安心して暮らすなら殲滅しかないだろう」
「安心して、暮らす、か」
まるで、そんなことは不可能だと言いたげなシャルロッテに俺は何も返答しない。
「あなたは不思議ね。まるで自分の為ではなく、仲間の為に頑張っているように見える。仲間はあなたを見捨てたのに、どうしてそこまで頑張れるの?」
似たような言葉を聞いたことがあるような気がした。
大吾のことで、不良の矢沢くんと俺が喧嘩した時だったか。
「自分が馬鹿にされても怒らないのに、友達が馬鹿にされて怒るとか、カッコつけすぎだな」
矢沢くんに返り討ちにあってボコボコにされた俺を佐々木さんが保健室に運んでくれた。
考えてしたことじゃない。自分がしたいからしたんだ。
あの時も今もその言葉は口にしない。
大切なのは、自分のしたいことを自分が知っていることだ。
俺がしたいからそうする。誰かのためじゃない。
シャルロッテから松明を受け取る。
持ってきた木屑に火をつけて、洞窟の中に投げ込んだ。
入り口付近に生えていた草に燃え移り、洞窟が紅く染まる。
一人だけの戦いが始まった。




