2話 スキル
「ちょっと、あたしのスキル、魅了だって。相手の目を5秒間見たら、惚れさせますって、そんなもの無くても大丈夫だっちゅうの」
クラス1のわがままエロボディの宗近さんがエロいポーズを取りながら話している。
普段ならその大きな胸をチラ見するのだが、今はそんな余裕がない。
クラスで自分だけがスキルがないのだろうか。
訳の分からないまま、訳の分からない所に連れて来られ、なんの特典も与えられない。
もしかして、俺はかなりヤバい状況じゃないのか?
「だ、大吾はどんなスキルだった?」
「ん、これ」
大吾に尋ねると携帯の画面を見せてくれた。
『出席番号 男子3番 大山 大吾』
『スキル 巨大化』
『息を吸い込むと吸い込んだ分だけ大きくなります』
今も充分に大きな大吾。まだ大きくなろうというのか。
「はーーい、みなさん、スキルは確認しましたか? もうすぐ戦争が始まりますよーー。急いで下さいねーー」
シャルロッテにスキルがないことを伝えようか悩む。
もし、俺にスキルがないことがバレたらクラスのみんなからお荷物扱いされて、追い出されるのではないだろうか。
そんな考えが心によぎり、言い出せない。
「戦争? どこと戦争するというのですか? そもそもここは地球ではないのですか?」
委員長の本元くんの質問に、シャルロッテが少し嫌そうな顔で答える。
「時間無いんですけど、仕方ないですわね。戦争は敵とするに決まっています。私達の国を侵略してきた魔物共を一掃して頂きます」
「魔物? 人じゃないんですか?」
「そうです。救世主のみなさんの星では、大人から子供まで魔物を倒すシュミレーション訓練をされていますね。その影響でここに来た時にスキルを獲得できるのです。これまでも過去に優秀な救世主の方々がこの星を救ってくださいました」
シュミレーション訓練? それってRPGとかのゲームのことだろうか?
そういうゲームをしなかったから俺にはスキルがないのか?
「ここはみなさんが住む地球という惑星から387億光年離れた惑星エミネマです。現在魔物の大量発生により国土の99パーセントを奪われた状態です」
300億光年以上離れた辺境惑星に拉致されたのか。
正式な手続きをしていない違法な惑星間移動装置を使ったのだろう。
「もうすぐこの教会の結界が解けて、魔物達が雪崩れ込んできます。是非、みなさんの力で軽く壊滅してください」
異様な説明にクラスメイトの動揺はさらに大きくなっていく。
「なんで俺達がそんなことをしなくちゃいけないんだ?」
不良の矢沢くんが前に出てくる。
見ると右腕がぼんやり光っている。
その右腕をシャルロッテに向けて何かを唱える。
ぼんっ、と腕から光の矢が放たれて、シャルロッテの顔をかすめ、背後のマリア像に突き刺さった。
「今すぐ俺達を地球に帰せ。でないと殺す」
教会が静まり返る中、シャルロッテは笑顔を崩さない。頬からは俺たちと同じ赤い血が流れていた。
「残念ですが出来ないのです。救世主のみなさんを地球に帰すには、奪われた城にある返還装置が必要になります」
「ふざけるなよ」
再び矢沢くんが右腕をシャルロッテに向ける。
「当てても大丈夫ですよ。この身体はダミーで遠隔操作をしています。ただ、中に爆弾が入ってますので、気をつけたほうがいいと思います」
「や、矢沢くん」
本元くんが矢沢くんを止める。
矢沢くんはちっ、と舌打ちをして右腕を下ろした。
「納得いただけたようで良かったです。さあ、みなさん、作戦を練ったり、パーティーを組んだり、色々準備して下さい。私は後方から応援させて頂きます」
「あ、あの」
説明を終えた所に、一人の女子が話しかける。
図書委員で大人しい感じの眼鏡っ子。名波さんだ。
「まだ、なにか?」
「私達の他に先生と運転手さんとバスガイドさんがいたはずですが、どこにいるんですか?」
「ああ、スキルを持てるのは年齢制限がありますので、あの者たちは廃棄...... いえ、連れてきませんでした」
いま、確かに廃棄と聞こえた。
名波さんにも聞こえたのだろう、青い顔で固まっている。
その時だった。
「来るっ。敵が接近してるっ」
探知系のスキルを持っているらしい誰かが叫んだ。
それと同時に、ぱりんっと、天井のステンドグラスが割れ、ガラスが降り注ぐ。
「ドラゴンだ」
誰かがつぶやく。
ゲームでは終盤近くしかでてこないような強敵。
巨大なドラゴンが侵入してきた。