26話 時任 未来
さっさんに抱えられ、夜空を飛んでいる。
道しるべは、うっさーの機械蛍だ。
夜の上空には魔物の姿は見えない。
幻想的な光景に思わずうっとりしてしまう。
「あと五分程で燃料切れだな」
「えーー、頑張ってよ。早く行かないと心配だよ」
さっさんの飛翔スキルは自身の体重を燃料にしている。
長時間の飛行は彼女の脂肪を奪うので、こまめに食事を摂らないと命に関わる。
「いいじゃん、ダイエットだと思えば。名波ちゃんはまだしも、河合ちゃんは危ないよっ。泉くんの童貞、奪われちゃうよっ」
「う、うるさいっ。落とすよっ、うっさー」
下ネタが苦手なさっさんが怒っている。
「ぶーー、とっきーも早く行きたいよね」
「いや、別に」
本当は一刻も早く行きたいが、私はいつも思ったことを口に出せない。
うっさーとさっさんの二人が泉くんを好きだと騒いでいた時も、最初は全く興味がなかった。
でも適当に相槌を打っていたら、私も泉くんが好きということにいつのまにかなっていたのだ。
否定するのが面倒でそのままにしておいたら、毎日二人から泉くんの話を聞かされるようになる。
そして、その話を聞いているうちに、私もだんだんと泉くんに興味を持つようになってしまった。
だからだろうか。予知スキルを身につけて、最初に見たのは、彼の予知だった。
だけど、それはあまりにも残酷で、見るに耐えられないもの予知だった。
砂漠のど真ん中で巨大な大剣を振り回し泉くんが戦っていた。
他のクラスメートは誰もいない。
一人だった。
少し大人びた感じの泉くんの顔は、幼さの残る今の顔と随分と違って見える。
だけど、敵を倒して笑みを浮かべる泉くんの顔は、まるで泣いている子供のようだった。
その表情から確信する。
もう彼の側には誰もいない。
泉くんは最後の一人になって、戦っているんだ。
予知のスキルは、思い通りには発動しない。
ランダムでいきなり映像が頭に浮かぶ。
その予知には二つのパターンがあることがわかった。
未来を変えられる予知と変えられない予知だ。
変えられない予知のことを具体的に説明は出来ない。
感覚的なものだが、すでに最後は決まっている、そう感じるのが、変えられない予知だ。
私たちはおそらく決まった未来に向かって進んでいる。
だけど、その間にある多少の過程は改変することが出来るんじゃないか?
教会にドラゴンが現れた時、うっさーは死ぬはずだった。
あの時、発動した私の2回目の予知は、ドラゴンを携帯で撮影しようとして、踏み潰されるうっさーの予知だった。
その未来はうっさーの携帯を取り上げることで、簡単に回避することができた。
だけど、泉くんの未来は変えられないものだ。
クラスメイトが全員死んだ世界で、たった一人で戦う泉くん。
全てがそこに集約されるような、そんな絶対的な予知であることを私は感じてしまった。
ゴブリン戦の後、予知のことをさっさんとうっさーに話してしまった。
一人で背負うには余りにも重かったからだ。
さっさんは泣きそうな顔のまま、泣かずに無言で耐えていた。
しかし、うっさーは、いつものように平然とした顔でこう言った。
「だったらあれだね。それまでの泉くんの過程をめっちゃ幸せにしてやろうよっ。まずはあれだよ、男の憧れ、ハーレムをアタシたちで実現しよう」
「お、おまえ、馬鹿だろうっ」
真っ赤な顔で怒り狂うさっさんから逃げるうっさー。
「本当に馬鹿馬鹿大魔王」
相変わらず私は思ったことを口に出せない。
でも私はうっさーの提案に大賛成だった。




