24話 野田 文香
リザードマンの強襲にあって、川原から山の上にある草原まで移動していた。
真壁くんのスキルで作られた壁をテントにして、私達は部隊ごとに分かれてキャンプする。
……頭がおかしくなりそうだった。
私はごく普通の女子高生だ。
それが、いきなりこんな惑星に連れてこられて魔物と戦うことになるなんて。
しかも何故か女子だけで構成された第七部隊の副隊長に任命される。そんな事態を受け入れられるはずがない。
実際、私達の隊長である暁さんは、もう正常ではなかった。
川原で単独行動していた時に、何かあったのだろう。
今、彼女は目の焦点が合わず、宙空を見つめたまま、ブツブツと一人でなにかをつぶやいている。
(私の名前は野田 文香。17歳。趣味は読書。好きな作者は伊坂幸太郎)
正気を確かめるために心の中で自分のプロフィールを復唱した。どうやら私はまだ正常のようだ。
「野田さん、ちょっといいかな? かな?」
名前を呼ばれて振り向くと、小動物のような可愛らしいクラスメイトがいつもと変わらない口調で話しかけてくる。
宇佐 伊都子さんだ。
小さい身体に反して、その声は馬鹿みたいにでかい。
「ど、どうしたの? 宇佐さん」
「うん、今から三人で話し合いするんだけど、野田さんも入らない?」
「え? なんの話し合いなの?」
「へへ、内緒なのだっ」
こんな時でも、まったく同じテンションの宇佐さんがちょっと怖い。
「ごめん、ちょっと気分が悪いの。休ませてくれないかな」
「そっかぁ、残念っ。またねっ、気をつけてねっ」
元気いっぱいなまま、宇佐さんが残り二人の所に帰っていく。
背が高くてボーイシュな佐々木 翔子さんと不思議系女子の時任 未来さんだ。
この三人はクラスでも有名な仲良し三人組で、宇佐、佐々木、時任の苗字を合体させて、クラスのみんなから「うざっとき」というあだ名で呼ばれていた。
「さっさん、勧誘失敗しましたっ」
「バカだな、うっさー。もっといい誘い方があっただろ。やっぱりボクがいけばよかった」
「うざっとき」の中では佐々木さんがリーダー的存在で、いつも二人を仕切っている。
女の子なのにボクといったり、男勝りなところがあって私はちょっと苦手なタイプだ。
「多分どっちでもおんなじ。無駄無駄無駄、ウリィィィ」
まったく表情を変えずに、アニメのようなセリフを時任さんがつぶやく。
「うるさい、とっきー。それで、うっさー、あっちの方はどうだった?」
「ダメだよ、大山くん、がっつりマークされてて、連れ出せないよっ」
宇佐さんの近くを小さな虫が飛んでいた。
よく見ると、それは機械で作られた蝿だった。
どうやらそれは宇佐さんのスキルで、虫型偵察機のようだ。
「他の部隊は?」
「焔ちゃんの第二部隊はダメ。曲者の集まりで連れてきたら混乱しそう。八千代ちゃんの第三部隊も、みんな合理的だから賛同しないよっ」
佐々木さんの質問に答える宇佐さん。
引き込む? 連れてくる?
彼女たちは一体何を話しているのだろうか。
「第四部隊から第六部隊は?」
宇佐さんがゆっくりと首を横に振る。
「第四部隊は論外。第五と第六は今のところ、まだ小日向派が多いみたい。隊から抜けて、こちらに来る人はいないと思うよ」
「残念無念の助」
三人の中では、比較的大人しい時任さんだが、たまの一言が強烈なインパクトを持っていた。
……この三人の、「うざっとき」の会話はもしかして?
「ねえ、あなたたち……」
私は「うざっとき」の三人に近づき話しかける。
「ん? やっぱり野田ちゃんも、話に混ざる?」
宇佐さんがどうぞどうぞ、と私を引き込もうとする。
「混ざらないわ。でも、その話って」
「そうだよ」
答えたのは佐々木さんだった。
「ボクたちは、この部隊を抜けて、置き去りにされた第八部隊のところに行くんだ」
「どーーん!」
時任さんが効果音を叫んだので、シリアスな空気は台無しになった。




