23話 大山 大吾
(行かないでっ!)
いつも彼の背中を追っていた。
身体が大きいだけの僕は、彼に離されないよう、ついて行くだけで精一杯だった。
(待って、涼ちんっ!)
引き離されそうになり、叫ぶ。
同時に足が絡まって転んでしまう。
気がついた時には、もう涼ちんの背中は見えなくなっていた。
(涼ちんっ!)
泣きそうになって叫ぶ僕の目の前に、手が差し伸べられる。
「ほら、立てよ、だいちん。一緒に行こう」
いつもの夢だった。
子供の頃の夢。
笑っている涼ちんの手を握って、僕は立ち上がる。
……いつもならそうなるはずだった。
だが、握った涼ちんの手が根元から、ひきちぎれる。
僕は、その手を握ったまま、尻餅をついて後ろに倒れた。
(りょ、りょ、りょう、ちん?)
いつのまにか、涼ちんが大きくなり、高校生に変わっている。
腕はちぎれたままで、そこからドクドクと血が流れている。
「いつも待っていたのにな。まさか置いていかれるとは思わなかったよ、だいちん」
(違うんだっ、涼ちんっ、僕はっ!)
僕の叫びは声にならなかった。
「うわぁあああああああああっ!!」
夢から覚め、飛び起きる。
あまりにリアルな夢に汗がびっしりと流れていた。
いつの間に眠っていたんだろう。
確か、リザードマンとの戦闘で呼吸を止め過ぎて、酸欠になり気を失ったんだ。
あの時、小日向くんが言ったんだ。
第八部隊を置いて撤退する、と。
僕は感情を表に出すことが得意でない。
人と上手く話すこともできず、そんな僕を涼ちんがいつも隣でフォローしてくれた。
そんな僕が感情を剥き出しにして叫んだのは、生まれて初めての事だった。
「涼ちん達を見捨てるっ? ふざけるなっ! そんなことはっ!」
そこで意識がブツリと途切れる。
酸欠状態で頭に血がのぼったからだ。
そして、目覚めた今、そこはもう川原ではなかった。
あたりを見渡すと、すでに日が暮れている。
真っ暗な草原。だが、そこにいくつもレンガ造りの壁が見えた。
自分の周りにも、守られるように四方に壁が立っている。
「簡易キャンプだ。真壁二等兵に作らせた」
壁の向こう側から小日向くんの声がした。
大声を出し過ぎたのか、枯れたガラガラの酷い声だ。
「小日向くんっ! 第八部隊はっ! 涼ちんったちはどうなったんだっ!?」
「落ち着け、大山一等兵。彼ら5人は無事だ。まだ川原で待機している。安藤三等兵が確認した」
よかった。まだ涼ちんたちは無事なんだ。
早く、早く助けに行かないと。
「動くな、大山一等兵」
小日向くんの声で身体が止まる。
力をいれても、指先一つ動かない。
「彼らに合流することは許されない。近づけば、シャルロッテを狙撃して爆発させる」
「ど、どうしてっ? なぜ、そこまでっ!」
「危険だからだ。あの女も。足手まといも。腐った果実は他の果実も腐らせる」
クラスでいつも矢沢くん達にいじめられていた小日向くん。
もはや、その面影はどこにもない。
完全に別人になってしまった。
「今、我々がすることは、一刻も早く敵の城を殲滅することだ。そうすれば泉五等兵以下、第八部隊も助けることが出来る」
唇を噛みしめる。
本当にそれしかないのか。
走っていく涼ちんの背中が脳裏に浮かんだ。
どんどんと離れていく背中に僕は心の中で名前を叫ぶ。
だけど、涼ちんが振り返って、僕に手を差し伸べることはもう二度となかった。




