21話 準備
「出発は夜にしないか?」
教会から川原にくるまでの夜間、魔物には一度も襲われなかった。
偶然かもしれないが、少しでも生き残る可能性が高いほうを提案してみる。
話し合った結果、日中は移動をせず、日が暮れてから移動することになった。
それまで各自で必要なものを用意しておく。
焔さんが火をつけてくれたゴブリンの棍棒を使い、焚き火を作り、川の水を沸騰させる。
容器は森山くんの鞄に入っていたアルミの弁当箱を利用した。
燃えないように下に薄い石を引いて温める。
温めた水は空になったペットボトルに入れていく。
これで当分飲み水には困らない。
「松明はこれでいいだろ」
意外にも田中くんは面倒くさがらず働いてくれる。
十得ナイフを持ってきており、器用に木を切って松明を作ってくれた。
「ソロキャンプは好きなんだ。団体行動は苦手だけどな」
こんな状況でもキャンプ気分なんだろうか。
しかし、機嫌よく働いてくれているので、何も言わずにそっとしておく。
「またカバン見つけたよ。やった、お菓子入ってる!」
河合さんがはしゃぎながら戻ってくる。
彼女と名波さんは、他の隊が置いていったカバンを拾っていた。
休憩中にリザードマンに襲われたので、みんなの荷物がいくつも置きっ放しになっていたのだ。
戻ってくることもないし、必要なものはこちらで頂戴することにした。
「名波さんは?」
「トカゲの死体見て吐いたり、謝ったり、泣いたりしてる。ダメダメだね」
やはり、名波さんは今の状況に耐えられないようだ。この先、大丈夫だろうか。
逆に開き直ったのか、河合さんは随分とたくましい。
「水の番を代わってもらうよ、河合さんはまだ頑張れる?」
「もちろん、お菓子の為なら頑張れるよっ」
名波さんに、その十分の一でも元気があればと思う。
リザードマンの死体の横で泣きながらうずくまっている名波さんに近寄る。
「こっちはもういいよ、戻って水を見ていて欲しい」
名波さんの肩を軽く叩くとびくんっ、と彼女は震えた。
「ご、ごめんなさい。みんな頑張ってるのに、私、なにもできなくてっ」
首を振って、名波さんの言葉を遮る。
「大丈夫、こんな状況だからね。名波さんの反応が普通だよ」
それ以上は二人とも何も言わず、名波さんと焚き火の前に移動する。
「優しいのね」
そのやりとりをシャルロッテが後ろからニヤニヤしながら見ていた。
「私は何をすればいいかしら? なんでもするわよ」
「爆発しないでいてくれたら、それでいいよ。大人しくしといてくれ」
「あら、私には優しくないのね」
誰がお前なんかに、という言葉を飲み込む。
今はシャルロッテの相手をしている場合ではない。
「ナイフ貸してくれないか、田中くん」
彼女を無視して田中くんに話しかける。
「はいよ、何作るんだ?」
スキルのない俺には武器が必要だ。
リザードマンの鋭い鉤爪を見たときに一つの武器を思い付いていた。
「出来てからのお楽しみで」
これ以上は誰も死なせたくない。
俺は武器を作る為、リザードマンの死体にナイフを突き刺した。




