19話 再会
今、思えば携帯の画面を見せた時からシャルロッテは、俺だけを生かそうとしていたのかもしれない。
カウントダウンがゼロになれば、何が起きるか知りたい。
そう思っていたのだろう。
それだけの為に俺を生かしたのだ。
あの女にとって、俺達は、本当にただの遊び道具みたいなものだった。
『遠隔操作で操っているので、この身体は本体ではない』
『その身体には強力な爆弾が埋め込まれているので、死んだら皆を巻き込んで爆発する』
『救世主ではないのでスキルなんてない』
それらは全部嘘だった。
「私、あなたのこと、愛してるわ」
最後に聞いた言葉を思い出す。
奥歯が砕けるほどの歯ぎしりをして、怒りと憎しみが充填されていく。
しばらくすれば、また『名波』に弾が装填されるだろう。
砂漠にある砦で身体を休めていた。
そこにいた部隊の生き残りはもういない。
砂漠には血と硝煙の臭いが充満している。
だが、感覚が麻痺しているのか、まったく気にならない。
念のため、背負い袋『森山』からゴーグル『安藤』を取り出して装着する。
半径2キロ以内に生体反応はない。
しかし、小さな違和感を感じていた。
誰かに見られているような、そんな違和感。
『安藤』のメモリをつまみ、倍率を上げる。
3キロ先の城の天板。
そこに二つの反応があった。
ああ、そこにいたのか、シャルロッテ。
背負い袋『森山』に大砲『名波』をしまう。
代わりに取り出したのは、狙撃銃『暁』だ。
生きている間、役立たずだと思われていた森山くんのスキルは、今や俺にとって無くてはならないスキルになっていた。
すべての装備を収納できる『森山』が無ければ、クラスメイトの装備は半分も持てなかっただろう。
暁さんに撃たれた森山くん。
その時、暁さんは何を思っていたのだろう。
あの日、俺は音楽の授業に必要な楽譜を忘れて、教室に戻ろうとしていた。
そこで決して人に自分の食事をあげない森山くんが暁さんにパンをあげているのを扉の隙間から見てしまう。
その時の暁さんの顔を今でも覚えている。
暁さんの笑顔を見たのは、その時が最初で最後だったからだ。
俺は楽譜を取りに入らず、そのまま音楽室に戻った。
『安藤』をずらして『暁』を構える。
『暁』のスコープ越しに確認する。
城の天板に立つ二人。
一人は望遠鏡でこちらを見ている男。
もう一人は間違いない。
あのくそ女、シャルロッテだ。
標準を男の方に合わせる。
お前は最後だ、シャルロッテ。
お前が俺にそうしたように、全ての仲間を殺してからお前を殺してやる。
今度は大丈夫だ、『暁』。
もう間違えて仲間を撃つことはない。
『暁』の引鉄にかけた指に力を込める。
「挨拶がわりだ。シャルロッテ」
螺旋回転しながら発射された弾丸は、望遠鏡ごと男の頭をぶち抜いた。




