17話 形見
「も、もう大丈夫かな?」
ぶりっ子の河合さんがそっと岩影から顔を出す。
森山くんが撃たれてから1時間程経過する。
あれから狙撃は一度もない。
「まだ監視されていたら、頭ぶち抜きですね」
シャルロッテが小声で恐ろしいことを言うが、もう狙撃はなかった。
どうやら暁さん達はここから移動したようだ。
「森山くん、弔ってあげなきゃ」
名波さんがそう言って手を合わせる中、河合さんは真っ先に森山くんの持っていたカバンをあさり出す。
「河合さん、それはいくらなんでも」
「なによっ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。死んだ人はもうご飯を食べられないのよっ」
「確かにその通りだが、順序があるだろう。せめて名波さんのように祈ってから......」
「あっ!」
河合さんが声を上げて、動きを止める。
森山くんのカバンに、意外な何かを見つけたのだろうか?
「これ、見て」
河合さんが取り出したのは、上の口がくくられたコンビニの袋だった。その膨らみで中にペットボトルやカップ麺、お菓子などが入っているのがわかる。
森山くんのカバンから、その袋は五つ出てきた。
見るとマジックで名前が書いてある。
「名波」 「田中」 「河合」 「泉」 「シャルロッテ」
それは俺たち第八部隊全員とシャルロッテの名前だった。
「あいつ、最初から私たちに分けるつもりだったんだ」
河合さんが涙ぐんで袋をみんなに渡していく。
いつのまに用意したんだろうか。
たぶん、休憩してすぐの時だ。
森山くんは腹が痛いと言って、少し離れたところに行っていた。
「私の分まであるなんて、見かけによらず紳士ですね」
本当だ。普通ならこんな所に連れてきたシャルロッテを恨みこそすれ、貴重な食料を分けたりしない。
「多分、長く生き残れないと思っていたんだろうな。俺たちの分だけで、自分の分を用意していない」
田中くんが森山くんのポケットから携帯を取り出していた。
みんなにその画面を見せる。
『出席番号 男子19番 森山 太』
『スキル アイテム箱』
『かばんの中にいくらでもアイテムを詰め込める』
全く戦闘向きでないスキル。
だが、それは実に森山くんらしいスキルだった。
「いっぱい、食料持ち運べたのにね」
河合さんが泣きながら手を合わせる。
皆も並んで手を合わせた。
意外にもシャルロッテも手を合わせる。
「森山くんの鞄、俺がもらってもいいかな?」
「死んだらスキルは無くなるから、それ普通の鞄よ」
そう言うシャルロッテに首を振る。
「形見として持っていたいんだ」
「ふーーん」
興味がないのか、それ以上、シャルロッテは何も聞いてこなかった。
もしみんなで地球に帰れる時が来たら、森山くんの形見だけでも、一緒に持って帰りたい。
この時はまだ、俺が最後の一人になるなんて、夢にも思っていなかった。




