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クラスメイトを全員殺された俺はその魂を武器にして復讐する  作者: アキライズン
第一幕

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18/121

16話 暁 弥生

 

 指先が震えていた。

 シャルロッテの額に標準を定めた時、すぐに撃てなかったのは、私に戸惑いがあったからだ。


 それは小日向こひなたの命令下でも、動作を鈍らせるほどのものだった。


 その遅れがすべてを狂わせる。

 スコープ越しにシャルロッテは、私に向かって笑いかけてきた。

 慌てて、引鉄ひきがねを引く。

 だが、シャルロッテはその前に身を屈め、銃弾は背後にいた森山もりやまの頭に命中した。


 大盛り山。


 彼のあだ名を思い出していた。

 いつも授業が終わるたびにパンを2個ずつ食べる。

 昼休みまでにパンを8個食べ、昼休みに巨大なお弁当を食べた後、食堂でうどんとカレーを食べる。

 相撲取りのように太った森山の事を、皆は森山と呼ばずに大盛り山と呼んで馬鹿にしていた。


「お前、お昼食べてないだろ」


 森山が私に話掛けてきたのは、後にも先にもその一回だけだ。

 その日、弁当を忘れた私は、昼ご飯を抜いて、モデルガンを磨いていた。

 教室には次の授業が音楽で、皆、音楽室に移動していたので、私と森山の二人しかいなかった。


「別に一食抜いたくらいで死なないから大丈夫よ」

「そうか、俺は一食抜いたら死んじまうけどな」


 そう言って森山は私の机にあんぱんを一つ置いていく。


「間違えて一個多く買ったんだ」

「えっ」


 森山は午後の授業の後もパンを2個食べる。

 いつも10個のパンを買っていることを知っていた。

 森山の机の横にある袋の中には、もう一個しか入っていない。

 多く買ったというのは嘘だとわかったが、私はそれについて何も言わず、礼を言う。


「あ、ありがとう」


 森山は無言で教室から出ていった。

 甘いものは苦手で、あんぱんは嫌いだったが、無理矢理口に入れる。

 なぜか、そのあんぱんはとても美味しくて、後日、同じ物を買ったが、次は不味くて食べられなかった。



あかつき一等兵っ。次だっ。続けて撃てっ!」


 小日向の声で目が覚める。

 あの時の森山の顔が消えて無くなった。

 パンをくれた時の森山はどんな顔をしていたのか。

 思い出せないっ。

 その顔は私が吹き飛ばしてしまった。


 スコープ越しの景色がボヤけて見える。

 私が泣いていることに気付くまで時間がかかった。

 私には、人を思う感情などまったくないと思っていた。

 いつも一人で生きてきたし、これからもずっと一人だと思っていた。

 それが思い上がりだと気がつく。

 私は全然一人でなかったのだ。


「ウワァアアアぁ!!」


 子供のように泣き叫びながら、引き金を引く。

 その銃弾はシャルロッテに届く前に、急速に速度を落としていく。


田中たなか四等兵のスキルかっ。田中四等兵と名波ななみ四等兵はスキルを使わないと思っていたが、誤算だったかっ!」


 いずみに引っ張られ、シャルロッテが岩影に隠れる。


「撤退だ、暁一等兵。これより、第八部隊は破棄はき。我々は彼らと一定の距離を置き、切り離すっ」


 最後に頭のない森山の姿を確認する 。


「……ごめんなさい」


 私は、二度と森山の顔を思い出す事はできなかった。




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