13話 リザードマン
「魔物だっ!」
「いやぁ、気持ち悪いっ」
「トカゲ、トカゲだよっ!」
前の方の部隊から叫び声が聞こえてきた。
川から次々とリザードマンが岩場に這い上がってくる。
教会を出てから一度も魔物と遭遇しなかった事で油断していた。
どこかで、しばらくは大丈夫と勝手に決めつけていたのだ。
人と同サイズの巨大なトカゲの魔物。
本当にゲームでしか見たことのない魔物たちが、この惑星には沢山生息しているようだ。
この惑星の生態系はどうなっているのか。
自然に生まれた生物だとは思えない。
地球のゲームのモンスターをこの惑星で製造したのではないか、そんなことを考えてしまう。
「泉くんっ、田中( たなか)くんっ、川から離れてっ!」
名波さんの声で、慌てて川から離れる。
リザードマンが二匹、俺と田中くんに接近している。
「田中くんっ!?」
「あーー、オレ、もうちょっと水飲んでから行くわ」
「いいからっ、早くっ!!」
リザードマンとの距離がかなり近いにもかかわらず、まだ水を飲んでいる田中くんを名波さんが無理矢理引っ張っていく。
それに気づいた一匹のリザードマンが爬虫類の感情のない瞳孔で俺たちを見た。
川から上がりペタペタと尻尾で地面を叩きながら向かってくる。
その動きが思ったより早いっ。
逃げようとするが、田中くんを引っぱりながらではたいした速度がでない。
追いつかれるっ。
「泉くんっ!」
悲鳴のような名波さんの叫び声がした時には、もうリザードマンは鋭い鉤爪で、俺を引き裂く寸前だった。
だが、その爪はいつまでたっても振り下ろされない。
まるで映画のスローモーションのように、ゆっくり、非常にゆっくりとリザードマンの腕が動いている。
「あせらない、あせらない、ひと休み、ひと休み」
田中くんが非常に呑気な事を言っていた。
「これ、田中くんのスキルなのか?」
「ああ、対象の時間をゆっくりにできる。だけど同時に俺もゆっくりになるんだ」
便利だが、一人で使っても全く意味のない能力だ。
「運ぶから、スキルを使い続けてっ」
「あいあいさーー」
やる気のない返事をする田中くんを背負って走る。
名波さん、森山くん、河合さんの三人が岩場の影で手招きしている。
リザードマンと戦っている他の部隊と違い、誰も戦闘には加わらない。
ハッキリと実感する。
俺たちがお荷物部隊ということを。
逃げるしかない。
俺たちにはそれしか選択肢がないのだ。
「皆さーーん、私、死んだら爆発しますよーー」
そして、もう一人のお荷物、シャルロッテがリザードマンに囲まれながら、呑気に笑っていた。