12話 休息
丘を越え、川沿いを進行していた。
教会を出てから一度も魔物と遭遇していない。
先程の戦闘で近くの魔物が全滅したのか、夜行性ではないのか。
とにかく皆が疲弊している今、魔物が現れないのは有り難かった。
「全軍、止まれっ」
小日向くんの声が聞こえて来たのは、夜が明け、薄っすらと日が昇り始めた頃だった。
月はないが太陽のようなものは存在していた。
だが、地球のそれとは違い、その太陽はまるで血のように真っ赤な色で染まっていた。
「ここで、二時間の休息を取る。各自、身体を休め、次の進軍に備えよ」
大きな川の周りの岩場で、八つの部隊はそれぞれ別れて休息をとる。
歩き疲れていたクラスメイトたちは、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
もう一歩も動けない。
そう思っていても、また二時間後、小日向くんの命令で歩いてしまうのだろう。
今は少しでも体力を回復することに努めなければならない。
「んぐ、んぐ、んぐ」
デブの森山くんがペットボトルのジュースをがぶ飲みしている。
「ね、ねぇ、お願い、一口でいいから」
「触んな、ビッチがっ、川の水でも飲んでろよ」
森山くんがぶりっ子の河合さんを振り払う。
泣きそうな顔で名波さんを見る河合さん。
水を分けて貰えると思ったのだろうが、名波さんは首を振って空になったペットボトルを逆さに振った。
「ごめんなさい。私ももうないの」
「ふぇっ」
水は食料よりも重要になる。
ちなみに俺も飲料はバスに置いたままで持って来ていない。
「なあ、ここの水、飲めるのか?」
何故かずっと第八部隊についてきているシャルロッテに尋ねてみる。
「私は飲めるわ。救世主のあなた達が飲めるかどうかはわからないけど」
まったく役に立たないアドバイスをもらう。
遠隔操作の本体でないシャルロッテが飲めたところで安全かどうかなどわからない。
「普通に飲めるぞ。何を気にしているんだ」
見ると隊長の田中くんは、すでに川の水をすくって飲んでいる。
「どうせ、水がなければ死ぬんだ。喉が渇いて死ぬより、潤って死ぬほうが、まだマシだろ?」
確かにその通りだが、田中くんが言うと説得力がまるでない。
死んでも構わないと思って飲んだだけだろ、とツッコミたくなる。
今は大丈夫そうだが、どんな寄生虫がいるのかわからないので、せめて熱湯消毒してから飲もう。
そう思った時だった。
川の上流から、ペタペタと巨大なトカゲが二足歩行で歩いてくる。
長い鈎爪。鋭いキバ。爬虫類特有の縦長な瞳孔。鱗におおわれた肌と太い尻尾。
リザードマンだ。
人型の爬虫類は間近で見ると悪夢以外の何物でもない。
何処から湧いてきているのか。
川を覆い尽くすように、次々とこちらに向かってやってくる。
休息は失われ、再び魔物との戦闘が始まろうとしていた。