101話 大山 大吾 その4
走りながら、大きく息を吐く。
巨大化した身体が萎んでいく中、また大きく息を吸い込んだ。
巨大化が終わる前に、再び息を止めれば、短時間で元に戻る。
しかも、繰り返すたび、その身体は明らかに以前より大きくなっていた。
スキルが成長している。
僕はまだまだ強くなれるっ。
もはや、地中から襲い掛かってくるサンドワームなど、敵ではなかった。
出てきたと同時に、頭を足で踏み潰す。
少しでも、後からくるみんなが楽になるように。
なるべく多く、虫ケラどもを殺していく。
そして、ついに。
ついに、前方に、敵の本拠地である巨大な城を発見する。
「涼ちんっ、涼ちんっ! やるよっ、僕が全部終わらせてやるっ!!」
僕は調子に乗っていた。
今までずっと、涼ちんに守られてきたのに、強くなったと勘違いして、自分のことも、周りも見えてなかった。
だから、こんなにも。
自分よりも、遥かに大きな存在に全く気がつかなったのだ。
目の前が急に暗くなった、そう思った瞬間には、僕はもう吹っ飛んでいた。
身体全体に衝撃が走り、砂漠の上で悶絶する。
ずしん、と大きな地震が起こったように地面が揺れて、僕はなんとか顔を上げた。
巨大な、まるで樹齢何千年もの大木のような棍棒が見えた。
どうやら、僕はそれで殴られたらしい。
そして、そんな棍棒をまるでオモチャのように持つ一つ目の大巨人が、城の前にそびえ立っている。
サイクロプスだっ!
いままでの魔物とは比較にならないほどの巨大な魔物だった。
かつて、戦ったドラゴンでさえ、コイツの大きさに比べたら子猫サイズだ。
かなり大きくなった僕でさえ、その半分にも至らない。
「ふー、ふー」
そのサイクロプスが、砂漠に立つ城の前で、大切なものを守るように、構えている。
両手に力を入れて起き上がると、胸のあたりに、ずきんっ、と痛みが走った。
肋骨にヒビが入ったか、最悪、折れているかもしれない。
「そうだよね。君たちも、必死に守っているんだね」
そんな当たり前のことを忘れていた。
強さに溺れて、敵に敬意を払わず、虫ケラと呼び、殺してしまった。
振り返れば、僕が通ってきた道に、無数のサンドワームが無惨な姿で転がっている。
後にサイクロプスがいるけど、僕は両手を合わせて、祈りを捧げた。
そうしないと、前に進めない。
そう思ったからだ。
サイクロプスは僕が祈る間、じっ、と動かずに待ってくれていた。
「ありがとう。じゃあ、はじめようか」
「ふーーっ!!」
言葉はわからない。
いや、言葉などいらない。
僕たちは、同じなんだ。
大切なものを守るために、みんな必死に戦っているんだ。
ゴンっ!! と、サイクロプスの大棍棒が僕の頭に直撃したが、大きく息を吸って、なんとか耐え凌ぐ。
右拳にスキルを集中させ、そこだけ大きく膨らませる。
「あああああアアアアアアぁあぁあぁぁっ!!」
すべての想いを込めた、僕の拳が、サイクロプスの目玉を貫いた。




