100話 プレゼント
燃え尽きる前のロウソクの炎が、一瞬、大きく明るく燃え盛るように。
泉は、その力の全てを解放した。
目に止まらない速さで、研究室を駆け回る。
「二十個目のスキルを確認。レッグアーマー『早瀬』。走るほどにスピードが加速していく」
シャルロッテからの又貸しがなくなった僕には、もう鑑定のスキルしか残っていない。
泉のスキルを解説しても、もうシャルロッテは聞いていなかった。
ただ恍惚の表情を浮かべ、嬉しそうに泉を見つめている。
「いいわ、いいわ、ゾクゾクするわっ! きてっ、はやくっ、私をめちゃめちゃにしてっ!!」
「……ああ、そうだな。みんなで行こう」
泉もシャルロッテの言葉を聞いていない。
武器になったクラスメイトと話しているのか。
その顔は、なにかを悟ったように穏やかだ。
限界まで加速した泉が、その瞬間に分裂する。
「二十一個目のスキルを確認。タンクトップ『久米』。同じ行動を行う分身を十数人作り出す」
二つ同時にスキルを発動させたのかっ! いや、三つ同時かっ!!
泉の手に、いつのまにか吹き矢が握られていた。
分身体も含め、加速した十数人の泉が、一斉にそれを口に含む。
バババババっ、とそこから大量の針が飛び出し、シャルロッテに向かって降り注ぐ。
「に、二十二個目のスキルを確認。吹き矢『緑川』。千本の針を噴出させ、串刺しにする」
1000✖️10以上。
一万本以上の針がシャルロッテに突き刺さり、その身体は針で埋もれて見えなくなる。
「はぁーーっ」
ようやく加速が止まり、分身を解いた泉が、大きく息を吐く。
これぐらいで、シャルロッテを仕留めれるとは思ってないのだろう。
構えをとかず、そのまま次のスキルを使おうとしている。
だが、その一瞬の隙をつき、今度は針まみれのシャルロッテが、ぷっーー、と大きく息を吸い込んだ。
ぼんっ、とモデルのように美しかったシャルロッテの体系が、風船のようにぱんぱんに膨らみ……
「お返しするわね、泉くん」
突き刺さっていた一万本の針が逆噴射して放出された。
泉は、それを予測していたように、左手のガントレットで防御する。
その中心部から透明な板が円状に広がっていき、そこに当たった針が、そのまま反射して、シャルロッテに向かっていく。
「二十三個目のスキルを確認っ、ガントレット『渡瀬』っ、攻撃を反射させ、相手に返すっ」
巻き戻した映画をもう一度見るように、全ての針が、再びシャルロッテに突き刺さる。
「遠慮するなよ、シャルロッテ。全部受け止めろ。俺達からのプレゼントだ」
「本当、素敵ね。大好きよ、泉くん」
血まみれになったシャルロッテが、まるで朝のシャワーを浴びたような爽やかな顔で、笑っていた。