98話 カウントダウン28、そして27
カウントダウンを知らせるライン通知の音がなる。
一回聞こえた後、すぐに二回目が聞こえた。
……12人のクラスメイトが死んだ。
誰も死なせたくないと思っていたのが、ずいぶんと昔だったように思えてくる。
「……はぁはぁはぁ」
重い足取りで、前に進む。
降り始めた雨は強さを増し、視界を奪っていた。
水分を吸収した学生服も、進行を妨げる。
それでも、止まるわけにはいかない。
河合さんに貰った命を無駄にすることはできなかった。
ぱきぱき、と枝を踏む音がだんだんと近づいてくる。
ゾンビたちだ。
ほとんどが、教会で最初に倒したゴブリンのゾンビだが、リザードマンやハーピーのゾンビも混ざっている。
どれも想像以上に素早く、ノロノロしていたらすぐに追いつかれてしまう。
森を抜け、再び砂漠の入り口に戻ってきた。
雨は森にだけ集中豪雨のように降り注ぎ、砂漠には満天の星空が輝いている。
天候そのものをシャルロッテが演出しているのではないか。
そんなふうに思えて、反吐が出た。
必ず、報いを受けさせる。
死んでいったクラスメイトたちのために。
それまで、俺は死ぬわけにはいかない。
まずは、はぐれた仲間と合流する。
そのあと、小日向君の本隊を見つける前に、なんとかゾンビを片付けないといけない。
このまま、ゾンビたちを引き連れていけば、さらに犠牲が増えていく。
どこかに、大量のゾンビを操っているやつ、死体をゾンビに変えたボスがいるはずだ。
そいつを見つけ出して、倒すことができれば……
「あ」
後ろの森林からゾンビたちが近づく中。
たった一人だけ、まるで俺を待ち構えるように、そのゾンビは、砂漠に立っていた。
見たことのあるシルエットに、思わず足を止め、そのゾンビに魅入ってしまう。
頭の中で、否定する。
違う。彼女じゃない。
彼女のはずがない。
彼女は、俺の知ってる彼女が、こんな姿になるはずがない。
彼女がっ、名波さんがっ、こんなっ、こんなことにっ!!
「あぁああああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁっ!!!」
叫んだ。
ずっと溜まっていたものを吐き出すように、黒いドロドロした何かを吐き出すように、大声で叫ぶ。
「い、ず、み、ぐん」
ゾンビになった名波さんが、人間のものでない声で、俺の名前を呼ぶ。
シャルロッテだ。
あの女が、名波さんをここに連れてきたんだ。
確信すると同時に、激情のまま、名波さんに向かっていく。
「シャルロッテぇえええぇぇっ!!」
許さない。絶対許さない。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。
どこまでも追いつめて、絶対に殺してやるっ!!
だけど、今は、先に。
先に、名波さんをゆっくり休ませてあげないとっ。
田中くんが作ってくれたリザードマンの鉤爪を改造した短剣を右手に握って、振りかぶる。
ゾンビになった名波さんは、まるでそれを受け止めるように、両手を広げた。
教室で名波さんと二人で花の世話をしている。
会話はない。
だけど二人で同じ花を見ていることに、俺はちょっと楽しくなり笑ってしまった。
名波さんも少しだけ笑って俺を見る。
「おやすみなさい、泉くん」
名波さんが最後に笑ってそう言った。
椎名ユズキ 様
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大変励みになります!
なかなか更新できなくて申し訳ありません。
少しずつ書いてますので、完結までよろしくお願い致します。




