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97話 東堂 兵助 その3

 

 俺に向かって突進してきた吸血鬼ヴァンパイアの頭が突然、弾けるように吹っ飛んだ。


 狙撃。

 そうか、あかつき 弥生やよいが復活したのか。

 自然と口元に笑みが浮かぶ。


 頭がなくなった吸血鬼ヴァンパイアが、それでも爪をたて、俺を切り裂こうと動く。


 どんっ、とまるで発泡スチロールを砕くような、そんな感触が腕に伝わった。


 狙撃の前に全力で突き出していた俺の拳は、吸血鬼ヴァンパイアの胸を貫いて、背中を突き抜ける。

 心臓のようなものを砕いたからか。


 吸血鬼ヴァンパイアは、ぐしゃり、と力なく地面に落ちて、そのまま動かなくなった。


「や、やったの?」

「よかったぁ、東堂とうどうくん」


 近藤こんどう 沙也加さやか嶺岸みねぎし 富士子ふじこが、安堵の声を上げた時だった。


「まだだっ、まだ、終わってないっ、上空に敵っ、多数っ!」


 索敵さくてきのスキルを持つ安藤あんどう 優一ゆういちの声が響く。


 ばっ、と空を見上げてると、そこには無数の吸血鬼

(ヴァンパイア)が、ぐるぐると俺たちを囲むように挽回はんかいしている。


「くるぞっ! 気をつけろっ!!」


 安藤 優一の後から、回復のスキルを持つ音峰おとみね なぎさもついてきている。

 常に小日向こひなた つかさの側にいた二人が俺たち第五部隊の救援にきたのか。


 いままでなら、こんなことはしなかった。

 効率を考えれば、俺たちを見捨てて、敵の本陣へと切り込んでいたはずだ。

 それでいいと思っていた。

 全員が全員、生き残ることなんて虫のいい話はない。

 機械のように、冷静な判断を下す小日向 司に畏敬いけいの念さえ抱いていた。


「そうか、小日向 司、最後に人に戻ったか」


 敵の本拠地を目の前にして、欲がでたのか。

 これ以上、犠牲者を出したくなかったのだろう。

 だが、それはおそらく間違った判断だ。

 一匹ですら手こずった吸血鬼ヴァンパイアの集団に、ここにいる誰一人、生き残れるとは思えなかった。


「……それも、またよし」


 覚悟を決めて、上空に向かって構える。

 五匹の吸血鬼ヴァンパイアが俺に向かって同時に急降下している。

 一匹だけでも多く、道連れにできたらいい。


 そんなふうに考えていたが……


 ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱんっ、と五発の銃声がほぼ同時に鳴り響く。

 急降下していた五匹の吸血鬼ヴァンパイアすべてがきりもみ状になりながら、砂漠に向かって撃ち落とされた。

 銃弾はすべて正確にその心臓を貫いている。


 あのスピードで動く物体を? 五匹同時に?

 バカな、人間になせる反射速度じゃない。


 そう思ったときだった。


 音峰 渚の歌が聞こえてくる。

 いつも戦いの後、歌っていたような穏やかで安らぐ歌ではない。

 小学校の頃、運動会で聞いたことがある。

 元気が湧き出てくるような応援歌だ。


 身体の底から熱いものが込み上げてきた。

 さらに、五感が研ぎ澄まされ、肉体が強化されていくのがわかる。


 古橋ふるはし 雅彦まさひこ渡瀬わたせ のぞみの二人が死んで、気力を失っていた近藤 沙也加と嶺岸 富士子がスキルを発動させたのだ。


 二人で支えあうように立ち上がり、絶望にあふれる空をにらんでいる。


「アツいな、古橋。お前もいればよかったのに」


 そう言った時、背後から肩に、ぽん、と手が置かれた。

 いつも古橋が俺を励ます時にするクセだ。

 慌てて振り向くが、そこには誰もいない。


 しかし、そこに確かに、古橋の存在を感じていた。


「そうか、お前もいるんだな。かっこ悪いとこ、見せらんねぇな」


 俺は再びスキルを発動させ、ゆっくりと正拳突きの構えをとる。


 砂漠にハレルヤが鳴り響いた。





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