10話 追放者
「第十三部隊 、壊滅しました」
城の天板の上、望遠鏡越しに部隊が全滅するのを目の当たりにした。
あっ、という間の出来事だった。
噂に聞いていた追放者。
悪鬼羅刹の如く。まるで紙をちぎるように、人が簡単に引き裂かれていく。
思わず鼻を押さえていた。
ここまで匂うはずのない血の匂いが漂っている気がしたのだ。
兵士たちの残骸が砂漠の砂を赤く染めている。
「どう? 今のでいくつ確認できた?」
「五つ確認しました」
僕の後ろから、黒いドレスの女が話しかけてくる。
シャルロッテ・シャルル・シャリア・デン・シャトーブリアン18世。
頭のイカれた女。
シャルロッテに対する俺の第一印象はそれだった。
地球から呼んだ救世主に直接アドバイスを与える者はほとんどいない。
高確率で殺されるからだ。
救世主に殺されるか、魔物に殺されるか、生存率はゼロに近い。
だが、シャルロッテは40人もの救世主と一年以上も共に過ごし、生き延びた。
それもハッタリのみで、だ。
『遠隔操作で操っているので、この身体は本体ではない』
『その身体には強力な爆弾が埋め込まれているので、死んだら皆を巻き込んで爆発する』
その二つのハッタリのみで、生き延びたという。
遠隔操作などなく、本体が一緒に行動していたし、強力な爆弾など製造すらされていなかった。
異常だ。僕なら頭がイカれていても、そんなことはできない。
「一個中隊全滅で五つか、まずまずね」
シャルロッテが笑みを浮かべている。
「あなたは武器になる前のスキルを知っているのでしょう? これ程の犠牲を出して確認する意味があるのですか?」
「馬鹿ね、効果も威力も変わってるのよ。持続時間や
冷却期間も全然違う。全部別物よ」
スキルの発動を感知し、詳細を確認する鑑定スキル。
僕はそんなスキルを持っていた為に、シャルロッテに雇われたのだろう。
「第十二部隊と第十一部隊を出すわ。続けて確認しなさい」
「……わかりました」
断れば、僕も追放されるのだろう。
魔物の拠点に追放され、生き延びることができるのは、あの男ぐらいだろう。
仲間の魂を武器に変え戦う男。
望遠鏡ごしにもう一度、その姿を確認する。
砂漠の真ん中を死体を踏み散らしながら、黒い鎧を身に纏った男が真っ直ぐこちらに向かってくる。
背中に巨大な大剣。腰に青と赤の双剣。手には大砲を持ち、顔には拡声器のマスクを装備している。
紅いマントが風で大きく揺れていた。
「何故」
ずっと疑問に思っていたことをシャルロッテに聞く。
「何故、あの男だけ殺さずに追放したんですか?」
聞かなければ良かったと思った。
本当に嬉しそうに笑ったシャルロッテの顔は、どんな凶悪な魔物よりも恐ろしかった。
「そんなの」
シャルロッテの両端の唇が釣り上がる。
「面白そうだからに決まってるでしょ」
ああ、コイツ早く死なねえかな。
僕は心底本気でそう思った。




