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92話 東堂 兵助 その2

 

 古橋ふるはし 雅彦まさひこの頭が砂漠を転がっていた。


 橋下はしもと かなめの頭を見た時とは、また違う。

 砂漠が真っ赤に染まり、一瞬、何も見えなくなる。

 親友の死とは、これほど心をえぐられるものなのかっ。


東堂とうどうくんっ!!」


 前方にいる渡瀬わたせ のぞみの声で、意識が覚醒する。

 そうだ。今は親友の死に動揺している場合じゃない。

 俺が冷静にならないと他のみんなも死んでしまう。


「渡瀬っ、反射スキルに反応はっ!?」

「ないわっ、左右からの攻撃はなかったわっ」


 ならば、敵は古橋の特攻スキルを正面から突き破って頭をちぎったのか?

 いや、古橋が止まってからも、スキルはしばらく残っていた。

 突き破られた訳ではない。

 ならば、台風のように風をまとった古橋を攻撃した敵は……


「上かっ!?」


 ばっ、と上空を見ると、真っ赤な太陽の中心に、翼を持った黒い影が浮かんでいた。

 その影が、俺たちに向かってものすごいスピードで突っ込んでくる。


「渡瀬っ! 反射スキルを上に向けろっ!!」

「えっ?」


 間に合わなかった。

 再び、すぽんっ、とビンの蓋が抜けるような音がして、渡瀬の頭がなくなっていた。


「クッ、クククッ」


 上空を旋回する黒い影から笑い声が漏れる。

 渡瀬の頭を掴み、コルクをねじるように首を回して、いとも簡単に引きちぎった。


 蝙蝠コウモリのような翼に、鋭い牙。

 眼球は真っ赤に光っている。

 これまでに見たやつとは明らかに違う人型の魔物。


吸血鬼ヴァンパイアかっ!?」


 つかんでいた渡瀬の頭を、力任せにぶん投げる。

 まだ状況がわかっていなかった近藤こんどう 沙也加さやか嶺岸みねぎし 富士子ふじこに向かって飛んでいく。


 渡瀬 望。

 柔道部で活躍する彼女は、クラスの女性の中で一番、体格がよく、たわらちゃんというあだ名をつけられていた。

 いつも明るく、彼女がいるだけでクラス全体の雰囲気が良くなるムードメーカーのような存在だった。


「近藤っ、嶺岸っ!」


 二人を同時につかんで、後ろに倒す。

 渡瀬の頭が俺の顔面にぶつかる寸前まで接近した。


「すまないっ、渡瀬っ!!」


 俺は、さっきまで生きて笑っていた渡瀬の頭を、サッカーボールのように蹴り飛ばす。


「えっ、えっ、俵ちゃん!? きゃっ、きゃああっアアア!!」

「い、いや、いやいやいや、いやぁああああぁっ!!」


 半狂乱になり泣き叫ぶ二人から、補助スキルは期待できない。

 背中を預けられる親友も失った。


 だけど、それでもコイツを他へ行かせるわけにはいかない。

 たとえ、死ぬことになってもこの敵だけは、俺がここで食い止める。


 吸血鬼ヴァンパイアが、唯一立っている俺に狙いを定め、笑みを浮かべた。

 俺はスキルを発動させ、正拳突きの構えをとる。


 一点集中のスキル。


 全ての力を右手だけに集中させ、一撃必殺の威力を得ることができるが、防御力はゼロになる。


 一撃で仕留めるか。一撃で死ぬか。


 それでいい。

 空手だけに打ち込んできた俺には、ピッタリのスキルだ。


 吸血鬼ヴァンパイアが今までにないようなスピードで、俺に向かって突進する。


 何も考えず、俺はただ全力の拳をそこに向かって突き出した。


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