90話 命
真っ暗な闇の中で、微かな光を感じた。
閉じられていた重たい瞼を、無理矢理開けていく。
瓦礫だ。
爆発により、崩れた城の瓦礫に埋もれていた。
身体中の骨が砕けている。
「……レ、レンタル、自己蘇生」
シャルロッテに借りていたスキルが発動しない。
又貸しが終わっている。
どうやら、泉は地下室に向かい、最後の戦いが始まったようだ。
「……ごめんな、楓」
救うことが出来なかった。
いや、たとえ泉を倒したとしても、シャルロッテが楓を返すことはなかっただろう。
それでも、それでも、戦う以外に選択肢はなかった。
すでに身体に痛みはない。
長くは持たないだろう。
そして、もう僕にできることは、もう残っていない。
「う、ぐ、はぁ」
それでもだ。
それでも、自分に被さった瓦礫を少しずつ動かしていく。
何もできなくても見届ける。
死んでいったクラスメイト。
幼馴染の楓。
僕と同じ苦しみを持った泉。
終わらない戦いの螺旋を彷徨い続けるシャルロッテ。
最後まで見届ける。
たとえ意味などなくても、最後の最後まで、そこにいたい。
いくつかの瓦礫を動かして、這いずるように、隙間から抜け出した。
立ち上がろうとしたが、両足とも折れていて、立ち上がれない。
無事だった両手で、芋虫のように動いていく。
床に胸が擦れると、麻痺していた痛みが戻ってきた。
激痛だ。
肋骨が何本も折れて、臓器に突き刺さっている。
「は、はは」
思わず、口から笑みが漏れた。
同時に、ドス黒い血が溢れ出す。
又貸しの代償まで始まった。
「……それでも」
両手を交互に動かして、芋虫が這いずりまわる。
思った以上のスピードだ。
床に綺麗な紅い線を引いていく。
「それでも、僕は生きているぞ、シャルロッテっ!」
地下室に続く扉が開かれていた。
その向こうから、泉とシャルロッテの気配がする。
階段の前で一度止まった。
大きく息を吸い込んで、両手に力を込める。
階段を転げるように落ちていく。
さらに骨が折れていくが、気にならない。
すべての始まりで、すべての終わり。
血塗れの芋虫が、地下室にあるシャルロッテの実験室にたどり着いた。
「……ああ、すごいな」
シャルロッテと泉が対峙している。
楓の姿はもう無くなっていた。
完全に元のシャルロッテに戻っている。
やはり、最初から楓を返すつもりなどなかったのだ。
そんなシャルロッテを、満身創痍の泉が静かに見つめていた。
シャルロッテはそれを微笑を浮かべながら受け止めている。
複雑な感情が混ざり合い、絡み合い、剥き出しの命がぶつかり合う。
「……美しい」
ただただ、素直にそう思った。
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