9話 武器
あの頃、俺は小日向くんを恨んでいたな。
砦からわらわらと溢れ出る武装兵士たちを見ながら、彼の事を思い出していた。
首にかけていたマスクを装着する。
ガスマスクの口の部位だけ切り取ったような形状のマスク。
それは小型の拡声器で、声を大きく拡大できるマスクだった。
さあ、行こう、『小日向』、戦争の始まりだ。
銃や弓を構えて周囲を囲み、俺に狙いをつける兵士たち。
全員に聞こえるように叫ぶ。
「全体、止まれっ!!」
拡声器『小日向』の将軍スキル。
最初は、味方に指令を与えるものだったが、レベルが上がると敵にも命令が可能となった。
構えていた兵士たちが石像のように固まり、動けなくなる。
あの時、小日向くんは冷徹な判断を強いられていた。
クラスメイトを犠牲にしていいなど思うはずがない。
だが、一人でも多くの者を救う為に、自らが悪役になり、最善の選択をしてきたのだ。
あの時、それが分かっていれば、クラスメイトが全滅する未来は避けられたのだろうか。
今となっては、もうわからない。
蒼と紅の双剣、『八千代』と『焔』をそれぞれ右手と左手に持ち、動かなくなった兵士たちの群れに飛び込む。
『八千代』からは氷が、『焔』からは炎が噴出する。
『八千代』に斬られた兵士は固まった後、粉々に砕け散り、『焔』に斬られた兵士は燃え上がり、消し炭になる。
「あと五秒」
『小日向』の敵への効力は約十秒。
連続使用はできず、一分間の冷却期間が必要となる。
だが、十秒も無敵の状態が続けば、目に見える範囲ならほぼ殲滅できる。
「死ね」
死んでいったクラスメイトの顔が浮かぶ。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ねっ」
『八千代』と『焔』で斬りまくる。
あと一秒。
二人を腰に戻して、背負っていた袋から『名波』を取り出す。
優しい彼女は、魔物相手でも、最後まで一度もスキルを使うことはなかった。
その名波さんがクラスメイトの中で、最も破壊力のある武器になる。
禍々(まがまが)しい歪な形をした巨大な大砲。
それが武器になった名波さんの今の姿だった。
ゼロ。
ようやく動き出した兵士たちに向け、『名波』を構える。
名波さんの優しい顔が一瞬頭に浮かぶ。
だが、それをかき消すように『名波』から轟音が鳴り響いた。
砂漠の砂が一斉に吹き上がり、爆音と共に兵士たちの肉片が飛び散る。
壮大な復讐劇はまだ始まったばかりだった。