07.気付くべきコト
「弟君、なんで屋上なのさ」
向かいの校舎の生徒会室は肉眼でははっきりとは確認出来ない。割りと目は良い方なのにな。紅ちゃんはちょっと悪いらしくて授業中とかは眼鏡をかけてるけど、眼鏡姿も可愛いけど、それも見えない。
「…そうですし。桜井さん?」
「へ?!」
「今は現実のあの人を見ましょう。あまり飛びすぎてるとまたあの人の真似しますよ?」
「…気をつける」
やっぱり姉弟だね、弟君。笑い方似てる…って、まただ。どうやら紅ちゃんの事になると駄目だ!
弟君はたまにこうして注意してくれる。駄目なら駄目って言ってくれて、紅ちゃんとは違う優しさだと思う。因みに弟君呼びも良いってくれた。名前呼ばれるのがあまり好きでは無いらしいからそっちの方がいいんだって。名字はもっと嫌らしい。
「それで屋上の件ですが、前回の件もありますから、なるべく遠くから。双眼鏡もあります。表向きは俺に街を紹介してるとしておけば大丈夫でしょう」
「弟君、流石だね!」
「どうも。ここでピントを合わせてください」
手渡された双眼鏡はなんかよくわからないダイヤルとかあってちょっと重い。それを覗き込んだ。くるくる言われた通りに回すと、ボヤけた視界が元に戻る。
「紅ちゃんだ〜!」
窓際の…会長の席かな?会長、紅ちゃん信者って言ってたし、席を譲ってるのかな。
「あの人も曽我さんも気付いてないみたいですね」
「本当だ」
弟君も双眼鏡を手にしていた。二個持ってたのか。山の書類を抱えてきたハルが紅ちゃんに何か言ってる。馬鹿ハル!ハルの方向いたから紅ちゃんが見れないじゃないか!あ、なんか怒られてる?紅ちゃんは怒らないのに…やっぱりハルは彼氏だから特別なのかな……なんかまた紅ちゃんから書類の束貰ってるし…信頼されてるんだよね。
「羨ましい奴め…ハル」
「それ…本気で言ってます?」
「本気だよ!」
紅ちゃんから弟君に目線をうつす。なんか呆れられてる???
「…あれ、仕事押し付けられてますよ、絶対」
「紅ちゃんはそんな事しないよ〜」
「どうして?」
「だって、あんまり人に頼ったら駄目だよって」
「正論といえば、正論ですけど…その後は?」
「後?うーん、頼るなら紅ちゃんだけにしなさいって。紅ちゃんは親友だからいくらでも頼って良いって」
「……」
「弟君?」
「失礼を承知で聞きますが、桜井さん、高校入ってからあの人以外の友人出来てないんじゃ…」
「え、ハルも居るし、クラスの皆とも話してるよ?」
何だか紅ちゃん以外誰も友達いないとか思われたのかな…クラスで何かあれば、そこそこ話すし、放課後だって皆で遊びに行ったりする。
「例えば…あの人の居ない時は?」
「紅ちゃんと一緒じゃないなんて今までなかったもん、わからな」
あれ?そういえば、皆で遊ぶ時はもちろん紅ちゃんも一緒だ。クラスでだって、いつだって。紅ちゃんが居ない時はすぐ家に帰ってるし…。
「も、ももももしかして、これって変?」
「かなり」
弟君…ストレート過ぎる。クリティカルヒットだよ。
「今まで気付かなかったんですか?」
「気付かなかった」
「…どうして」
「ん?」
「どうしてそこまで依存してしまったんですか」
依存…やっぱり依存だよね。ずっと誰かに依存してるんだよね。
「どうしてだろうね」
私はそれしか言えなかった。もう昔に分かっていた事で、紅ちゃんに甘えて忘れようとしてた。
それは悲しいわけじゃないのに、どうしてか胸が痛んだ。