06.思わぬ展開?
逃走した日の夜、二軒隣の家の呼び鈴をならした。ドアを開けてくれたおばさんは快く迎え入れてくれると、「何だか元気がないわね」と言ってお菓子をくれた。おばさん、大好きだ。
「ハル〜、ハル〜」
ノックをしつつ返事を待つが反応がない。こうなれば奥の手だ。
「晴太〜、晴太〜」
予想通りガチャとドアが開く。
「名前で呼ぶな、入れてやるから!」
不機嫌そうにハルは言う。ハルは晴太という名前が昔酷くからかわれたせいで、トラウマになってる。曽我晴太が空が晴れたに似ているからとか……一緒に遊んでて印象深い筈なのに、あれを言ったのは誰だったかな。
「ねえ、ハル。昔よく遊んでたのって誰だっけ?」
「は?ガキの頃ならお前はマキとかサチとかだろ」
椅子を指差され、ハルはベッドへと腰掛けながら答えた。小学校の時に仲の良かった女の子を教えてくれたが、小学校の時にはハルは晴太って呼ぶと怒ってた気がする。
「ん〜、もっと前?ハルと遊んでたの…兄妹だった気がするんだけど…」
「何だよ、アイツ等か」
「覚えてるの?!」
「未だにトラウマだからな。あ〜でもお前も思い出したくないだろ。何で今さら」
「え?」
「………いや、いいや。死にたくないし」
「なにその反応!気になる〜〜〜!!!」
「それより、お前何しに来たんだよ?!」
目先の疑問で、当初の目的を忘れる所だった。
「ラブラブ大作戦がね…」
「…お前のネーミングセンスは古いぞ」
「そこは置いといていいよ。ハルのセンスは聞いてないもん」
「いや、聞いとけよ。マジで古すぎだぞ」
「うぅ…」
「わかったよ。で、碧になんか言われたのか。お前、アイツ忘れて突っ走ってたからな」
「違う」
「じゃあ何だよ。1日しか見てないけど、悪い奴には見えなかったし」
彼女と別れさせられるかもというのに、元凶をそんな風に見てるなんて、優しすぎだぞ、ハル!
「ハルの言う通り、悪い人じゃないんだ。あの後、学校案内も最後まで付き合ってくれたし」
「すげぇ良い奴じゃん。お前の暴走に付き合ってやるなんて」
「暴走?」
「いや、こっちの話。で、そんな良い奴の何が不満なんだ?」
「…れた」
「は?」
「心配された。紅ちゃんとは友人としてでもやめた方が良いんじゃないかって」
「……俺もやめれるならやめたほうが良いと思うけどな」
「ハルまで今更何を」
「いや、この際だから言うが、アイツに大分依存してるって自覚してるか?思考が真っ先に“紅ちゃん”だろ。まあ、あの時は仕方ないと思ったけど、依存は治まらないし、アイツが好きとか言い出すし」
「だって好きだもん」
「それ、本当に恋とか愛でか?」
「だって、一目惚れだし」
「そうなのか」
「そうなのだよ。何て言うか、デジャヴ的な運命感じたんだもん」
「……やっぱり考え直せ。とりあえず碧と一緒にアイツをもう一回見直せ。それでも好きだって言うなら何も言わないから、な」
「それ、弟君にも言われたの。“あの人を俺に見直せっていうなら、貴女も見直してみて下さい”って。でも、紅ちゃんに嫌われたりしないかな?」
「それはないから安心しろ」
「本当?」
「俺が保証してやる。だから、アイツには言うなよ」
「何で?」
「直接言ったら…あ〜、今忙しいんだよ。生徒会の仕事持って帰らなきゃいけないくらい」
ハルの机の上には書類の束があった。紅ちゃんもこれを片付けてるの?!
「忙しいとこゴメン、ハル」
声掛けても反応しなかったのはこれやってたからなんだ。邪魔はお昼だけって思ってたのに…。
「気にするな。だから、二、三日はアイツも忙しいから。お前には言わないでいたのは俺だし。お前は悪くないからな」
頭を撫でてくれるハルはやっぱり優しいと思う。紅ちゃんが居たから立ち直れたけど、やっぱりハルも居たからだよ。当たり前のように頼ってたんだ。見直すってこういう事なのかな…紅ちゃんの事もきっとこういう事だよね?