02.嵐あらわる?!
それは、朝のホームルームにやってきた。
最近のホームルームは、というよりも席が良くないせいで、朝からブルーだ。なんで、紅ちゃんと近くないんだろう。お昼まで、休み時間まであの姿を凝視できないなんて…はぁ。よりにもよって一番角の後ろ。お隣は居ないので、悠々自適なのはいいけど。ちなみにハルは私の前の席だ。一緒に紅ちゃんと近くない同士、傷を舐めあおうじゃないか。と言ったら怒られた。だって、紅ちゃん対角線上なんだよ!あ、でもなんか繋がってる感じがするよね、うん。
「起立、礼」の日直の号令に慌てて立ち上がる。ハルに「ぼーっとしてんな」と言われながら、席に着くと先生はいつもとは違う事を口にした。
「転入生を紹介する。入ってきていいぞ」
ガラリと開いたドアと一斉に湧き出す悲鳴。……悲鳴というか叫び?紅ちゃん以外にときめくなんてと思ったが、ちょっと待って、え!?
かつかつと歩いてきてピタッと止まり、真正面から見るとますます分かる。
紅ちゃん?!
いや、紅ちゃんは前に座ってるし、でも、機嫌悪そうな紅ちゃん、しかも男装姿が立っている。乱視かな……擦っても紅ちゃんが二人いる。
「見ればわかると思うが、光遠寺の双子の弟だそうだ」
「光遠寺 碧です。よろしくお願いします」
表情を崩さず、声もなんだか紅ちゃんに似てる。変声期っていうのがまだなのかな……紅ちゃんとそっくりだから、男子としては背は小さいけど、身長と変声期って比例するのか?
「席は……後ろでいいか」
「構いません」
「先生、弟は転入してきたばかりですし、私が変わりに後ろにいきましょうか」
席を譲ろうとする紅ちゃんは、姉心だね!惚れ直すよ!!
「いえ、ご心配なく。貴方には迷惑かけませんから」
「そう……」
仲悪いのか、ヒンヤリとした空気が流れる。さっきの熱狂的な叫びはどうした?!
などと思っていると、つかつかと紅ちゃんの弟君は私の隣の席に座った。
「私、桜井 朱音。よろしく」
「…よろしくお願いします」
「俺は、曽我ね」
「曽我……いつも父がお世話になっています」
「なってるのは親父なんだけど…いつも親父が世話になってます」
疑問符がいっぱいだったが、そういえばハルのお父さんは秘書さんなんだ。そうか紅ちゃんのお父さんの秘書だったのか…知らなかったな。世間は狭いな、うん。
ゴホンというわざとらしい咳きで、名前だけの紹介になってしまった。本当なら、もうちょっと話してみたかったんだけどな…紅ちゃんの昔のこととか。紅ちゃんとの親友暦は実に短い。まだ一年にも満たないんだな。片想いも一年満たないのか……そう思うと長い気もする。
「……」
「ん、どうかしたの?」
「いえ」
視線が気になり声をかけたが、そっけなく返されてしまった。なんだったのだろうか。
「朱音、教科書」
「え、ああ」
ハルの一言で、転入生に教科書がないのは典型的なパターンだ。机を寄せて、真ん中に教科書を置いた。一時間目は国語だから、教科書がないと辛い。私なら、寝ちゃう。
「ありがとうございます」
「困ったときはお互い様」
「そうですね」
無愛想にちょっと油断した笑み!同じ顔だけど、紅ちゃんじゃ見られない笑みだ!!
「……」
「?」
さっきから何を気にしているんだろう…実は視線が気になっているが、その視線がどうもハルに向けられている。…気がする。まさか、まさかその典型的続きで、紅ちゃんとハルの仲を引き裂きにきたとか?!だから、昨日紅ちゃんはあんな憂い顔だったの!?