18 虚城
正月中は更新がまばらです。すいません。
今回から闇の精霊探しです。
「キャー。誰か私のお尻を触った」
「やめてよ。押さないでよ」
「うそうそうそ。手を離さないでー!」
「走って置いてかないでよー!」
ここはラストダンジョンと呼ばれる最悪最強ダンジョン。本来なら邪神がすむ神殿に続く凶悪魔獣や最強魔人の巣窟のはずだ。
しかし、このダンジョンでさえ,もはや死んでいるといっても過言ではない。
ありとあらゆる障害物はおろか対勇者用トラップといった精巧にできた罠さえ機能していない。
地殻変動による地震とマグマ流入のため魔獣や魔人も逃げることもできず死滅してしまった。
さらに悪い事に、普段は人を誘い込むためのダンジョンとして、生き物として食虫植物のように宝物や優秀な武器というものを排出したりもするのだが、もはやここは廃墟のような有り様になっている。
そして、人を呼び寄せるための明かりや松明さえ灯っていないのであった。
なおかつ蝙蝠さえもいない、ただの暗闇が広がる暗黒の洞窟以下になり下がっていた。
まったく生命反応といえる生き物の気配が感じられないとはいえ、ヒイロと少女化した精霊と幼女数人で進むにはあまりにも静かすぎであった。
「エフリートあんた、明かり代わりにならないの?」
「ヒイロちゃん。いいの精霊の力を使っても?」
「どういうこと、私は火の精霊だったのよ。ダンジョンで火の力を使えば洞窟内の酸素が少なくなるのよ。光の精霊であるウィル!あんた明るくしなさいよ。麒麟ちゃんもいるでしょう」
「「チェ‼ばれた。」」
光の精霊のウィルと麒麟から角獣幼女が悪い顔をする。真っ暗な洞窟ないでも魔神ヒイロならヒイロ自体は問題なかったがあまりにも不穏なパーティー編成にヒイロは疑いを持っていた。
「ははーん。あんた達も実はこの暗闇でも目が見えるんでしょ」
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」
「そりゃそうよね。精霊と聖獣だったんだもんね。もお、演技はやめなさい」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」
時折消える気配と無言の殺気とが入り混じる。どうやら、精霊少女と聖獣幼女との間には目には見えない、越えられない壁が存在するらしい。
ヒイロの左手はものすごい光を放つ。周りを囲んでいる洞窟の壁が青白い光に覆われると同時にヒイロの左手に卵を召喚した。
「何、殺気だってるのかしら。私をNPKしたいのかしら。それとも先に友達の大切な者を失ってもいいのかしら」
「「「「「「それだけは・・・・」」」」」」
「良い子の精霊と聖獣がそんなことしていいのかしらね。ああ。重くと落としちゃうぞ・・・」
「「「「「落とさないで!!ごめんなさい。許してください」」」」」」
精霊少女と聖獣幼女は自分たちが何をしようとしたかを後悔をした。ヒイロに許しを請うべく、一人また一人とへなへなとその場にへたりこんでしまった。
一斉にかかればなんとかなると甘く考えていたのかもしれないことに気付いた。
やはり、元魔神だったヒイロと精霊では角の違いは歴然。
暗闇に乗じて暗殺するために、暗器で麻痺や毒といったものもヒイロには通じなかった。ましてや、証拠の残るような下手な小細工をせず、自然な形で行ったのにも関わらず全てレジストしているヒイロに恐怖と畏敬の念を感じる始末であった。
ヒイロ自身も、あからさまな攻撃をくわえてこようとすれば当然、跡形もなく始末する気でいた。
だが、来る暗殺も迫りくる暗器もヒイロからすれば想定内といったものだった。
言い方を変えれば、NPKホイホイと自称しているヒイロからすれば、肌に触れる空気でさえ注意している状態を維持するのはたやすい。
いいかえれば、超空気を読めるいい女と自画自賛しながら、本当に常に警戒しているヒイロは幼少期に誘拐された経験があったからこそ、VRMMORPG内でさえ殺されることもなく、逆にNPK返しすることが生き残る術だとしっていたのだ。
「理由を教えて」
「・・・私たちは精霊・・・精霊の時は男とも女ともいえない中性的な存在なの・・・」
ぽつりぽつりと精霊少女たちは話を始めた。
創造主と言われる神様が、この異世界の生命の進化を早めるために動的要因として、私たちを具現化したのです。
神様は私たちがあらゆる自然に干渉することで、生物の進化を早めるだけではなく、ダンジョンやラビリンスの管理、そして、それに伴うトラブルを抑制する役割をお与えくださいました。
例えば異世界特有のトラブルなどの悪意などの過剰干渉したときに想定される、魔獣が蔓延り、魔人が台頭し魔王が現れるような時代の到来。人々は聖女や勇者や救世主といった英雄の降誕を望む時代・・・我ら精霊の役割は・・・その英雄のサポートをする役目があるのです。
聖女が闊歩するならば精霊は男の子に・・・
勇者が男の冒険者とならば精霊は美しい女性に・・・
この異世界が滅びそうな時、救世主があらわれたら、その御心にふさわしい女神になる運命を追っているのです。
同じように聖獣たちもダンジョンやラビリンスでガーディアンとなるものから異界からの召喚獣となるものもおりますが、一度、救世主の従僕となれば、人の姿になり厄災を取り除く守り神にもなるのです。
こんな精霊と聖獣の成り上がりのような話をされたヒイロはうずくまっている少女や幼女の頭をポンポンとやさしく叩いた。
「みんなヒー君が好きになっちゃったのね。妹ちゃんは人気ないのかなー」
「最初は聖女が現れた時は、みんな男の子になるんだと思ったんです。でも,あの圧倒的な邪神封じの神殺し様の前では・・・」
ヒイロは彼氏のモテっぷりに鼻が高くなる。そして、私の男を見る目は確かだと心の中で自画自賛をする。また、彼女の余裕を見せつける一言いった。
「みんな・・・ヒー君が好きになっちゃたの・・・」
「妹君の聖女様でさえ・・・いやなんでもありません」
「この中では一番、ヒー君との付き合いが長そうなエフリートちゃん!どういうこと」
この後は本来の目的を忘れて女子トークに華が咲いた。
咲いた。咲いた。それは咲いた。華が咲きまくった。お互い涙を流すぐらい恋愛トークで華が咲いた。そして、なぜか幼女たちもつたない言葉で胸の内を語った。
「そっか。ひー君鈍感だからな。早く童貞なんか捨て去ってハーレムでも作ればいいのに」
「でも、彼女さん一筋なんですもの。巨大な力をもっても少年の心を捨てず、純情でそれでいて懐が深くやさしくて・・・そこに惚れたっていうか」
「ヒー君のことみんな大好きだよね。良く理解してるもんね」
「わたくしたちなんかがおこがましいです。こんな彼女さんがいたら・・・わたしたちなんか・・・かなわないです」
すっかり忘れ去られた闇の精霊の復活はまだかかるかもしれないが・・・その頃・・・聖女ヒジリの方はといえば・・・
「暗黒神殿というより、古代からあった遺跡になっちゃてるよ」
「そうですね。あらかたヒデオ様が神殿を覆っていた火山灰や火砕流の塊や岩石は無くなっているけど、まさか、扉も家財道具も何もなくなっているとは・・・」
「燃えたり、穴が開いていたりして・・・ホントにマグマの影響が凄かったのね」
ヒジリは雷の精霊少女ボーちゃんと虎耳少女アイは神殿の周りの探索を終えた。
「先に神殿内部を調査している精霊ちゃん達のところに行きましょう」
ヒジリ達は神殿の入口の巨石が倒れている大広間を抜けようと試みたが、瓦礫の山が道を塞いでいた。
天井が抜けている部分の真下の床には大きな穴が開いていた。上からその穴を覗くと地下にある大聖堂につながるようだ。
「この穴から魔物や魔人たちが逃げたのかしら・・・」
「神殿自体に結界が張ってあるから隕石のような火砕岩が落ちたのよ。そして爆裂粉砕した火砕岩・・・中にいた魔物は・・・息もできず・・・燃え尽きるしかなかったのよ」
暗闇に包まれた地下聖堂にかすかな光だけが差し込んで何とか聖堂中の雰囲気がなんとなく割ってきた。
墓場となった暗黒神殿にひっそりとたたずむ魔人の石像・・・それが何体も何体も転がり崩れていた。もしかしたら、石化した魔人もいたかも・・・でも・・・手がもげていたり頭だけがころがっていたり・・・まともな石像もない・・・
そのとき真っ暗な地下聖堂を照らす光が・・・・
ドガーン!
何やら声が聞こえる。どうやら地下聖堂に誰か・・・いや、精霊たちが既に地下聖堂に降りていたのだ。
ヒジリ達は先行している精霊たちと合流するために地下聖堂に降りた。
「ヘーンシン 攻殻聖女!飛翔天使バージョン!」
ヒジリは天女の羽衣を纏った天使のような真っ白な羽と真っ黒な羽がゼブラ模様をした美しい女神の姿にな、地下大聖堂の天井に開いた穴から地下聖堂に舞い降りた。
降りたったヒジリを目視するわけでもなく、もくもくと精霊たちが何やら壁に向かって精霊魔法を詠唱をしている。
「無詠唱より威力が上がると思ったんだけど・・・駄目だわ・・・」
どうやら、地下神殿からいける秘密の部屋への扉を開こうとしているらしい。邪神が封印していた扉はどの精霊が解除しようとしても駄目みたいだ。
そもそも、地下聖堂の秘密に精通している氷の精霊はここにはいなかったことにようやくヒジリは気付いた。
「氷ちゃんたちはいないよ。どこいったの?」
「ここの秘密の扉のことを言って、その後あの子たちは宝物庫と魔導書の保管室に先に行くっていってたわよ」
「無理しても開かないなら、ここは後にして氷ちゃんたちのところに行きましょう」
ヒジリはムキになっている精霊たちを説得して、氷の精霊たちを探しに行くことにした。
ところどころ、光が漏れている神殿地下通路を通り、突き当りを右に曲がってしばらく歩いていると、ある扉の前にうずくまっている影があった。
その影はやはり氷ちゃん達であった。氷ちゃん達は泣きながら、ドアの前で経たり込み泣きながら、ドアを叩いていた。
「なんで、なんでこんなになっちゃうのよ・・・ウゥゥッ・・・」
「どうしたのよ。闇のルーちゃんに何かあったの」
攻殻武装を説いた雷の精霊少女ボーちゃんが聞くと、氷の精霊シーちゃんは恨めしそうに見上げた。
「ルーちゃんが邪神様の大切な部屋を・・・・精霊分裂して・・・封印してるの・・・」
「精霊封印してるの?シーちゃん、ルーちゃんは何部屋封印してるの」
「多分7部屋は確認したわ・・・地下聖堂の秘密の部屋には入れた?」
泣き崩れているシーちゃんの前では、入れなかったとは言えなかった。
ヒジリは目の前の精霊封印された扉をじっと見つめた。扉から闇の精霊が発している精霊の波動を感じている。
「どうにかならないの?」
「壊したら・・・ルーちゃんがもとに戻らなくなる」
「でも、封印なら解印の方法もあるはずよね」
「そうだ、部屋の封印なら邪神様がいない今ダンジョンコアにアクセスすれば!!」
何かをおもいたった氷の精霊のシーちゃんは涙をふきながら立ち上がり、今来たばかりの通路にもどり地下聖堂を目指したのだ。
地下聖堂に着くとさらに地上に出る階段がある通路に駆け込み、瓦礫を取り除きながら地上に出た。そして、神殿の端まで走るとシーちゃんは何もない大地を指さした。
「あそこにあるの!ダンジョンコアがあるダンジョンマスタールーム!」
氷の精霊はヒジリに邪神が管理していたラストダンジョンの話を始めた。
かつて裏ステージとも呼べるラストダンジョンを抜けたところにあった竜人の村。その村に住む強者たる竜人たちが信仰する教会。その教会には秘密があった。ラストダンジョンを制覇するほどの強者を祝福する教会の秘密。その教会が崇拝する神・・・邪神。
邪神自ら強者を見極める施設が教会の地下にあったのだ。
その地下にはダンジョンコアを管理する秘密の部屋がある。ダンジョンコアは本来この場所にはなかったが、邪神がこの場所にあった居城を地下移し、その上に竜人たちの村をたてさせたことからはじまったのだ。
邪神はこの地に住むことを許す代わりに、竜人たちにこの土地の守ることを約束させたのだ。
ラストダンジョンは氷の精霊。
邪神の暗黒神殿は闇の精霊。
邪神の虚城は火の精霊が管理していた。
しかし、竜人の村が立つ際に火の精霊は封印され、氷の精霊が代わりに地下に潜った虚城を管理することになった。
そのために氷の精霊は分裂してしまったのだ。
氷の精霊が分裂した影響とは言えないがいくつかの問題がダンジョンの管理にはあった。
だからこそダンジョンコアが3つもあると未熟な精霊たちには負担が大きいと、邪神はダンジョンコアを一つに統合してしまったのだ。
邪神はまさかラストダンジョンにも暗黒神殿と呼ばれるラビリンスにもダンジョンマスターもダンジョンコアもない虚無のダンジョンを演出していたのだ。
しかし、厄災といえるプラネットイーターの出現で、最後の要ともなる竜人の村地下にあった邪神の虚城さえ、邪神と封印された火の精霊もろとも崩壊させてしまったのだ。
氷の精霊のシーちゃんの話を聞きいりながらも、ヒジリは共に竜人の村があった場所に移動した。
そこには本当に村があったとは思えない程の平らな台地が広がっていた。
平らな台地の真ん中には大きな穴が広がっていた。
ヒジリはその大きな穴の前で立ちすくんでしまった。
地下空間がひろがっている、その穴の奥底には城が本当にあったのだ。
マグマが引いたのか、明らかにマグマに浸っていたと思われる城からはかすかに煙が上がっていた。
わずかだがマグマに浮いているような虚城。近寄ることさえ許されない。
ダンジョンの種がマグマのエネルギーを吸い取る力が弱くなったせいか、また虚城はマグマに包まれるようにも思えた。
「ここにダンジョンコアがあるの・・・ダンジョンコアはもう壊れてしまってるんじゃないの?邪神もいなくなっちゃたみたいだから・・・」
ヒジリが闇の精霊を助けることができないことを慰めるように精霊たちに言った。
言い終るや否やあきらめをもほのめかすその言い方に反発するように氷の精霊がマグマに飛び込もうとした。
「私のこの力でマグマを一時的に止める。だからお願い」
ヒジリは氷の精霊をダイビングしながら必至で受け止めようとした。片手で大きな穴の淵につかまりながら、片手で氷の精霊を引っ張りあげる形になった。
「なにしてるのよ。精霊でも死んじゃうよ!」
この体勢でもなんとか氷の精霊を説得しようとするヒジリを他の精霊少女と聖獣幼女たちも引っ張り上げようとしてくれた。
そのときだった。ヒジリの持っていたリックから闇の聖獣の卵がこぼれ落ちそうになっていた。
「やばい。落ちちゃう・・・よー・・・ヒデにー助けて・・・」
思わずヒジリは俺の名前を出した。多分オヤジの名前を出していたら、一瞬で助けに入っただろう。
何せ、ヒジリのバックアップ体制は万全だから。でも、この状態でも助けに入らないのは呼ばれるまで我慢しているのであろう。バカなオヤジである。みすみすチャンスを逃すアンチなヒーローである。
だがそのせいで精霊たちもこれから繰り広げられる奇跡を間近で見ることになるのだった。
ヒイロが背負っていた卵が真っ逆さまに落ちる。それを拾おうと氷の精霊が無理やりヒジリの手を解き、卵を受け止めようと飛び降りる。他の精霊も思わず、引っ張っていたヒジリの手を離して穴の中へ、卵めがけて飛び降りてしまった。
だが、誰も卵には届かない。
全滅・・・その言葉がヒジリの頭に浮かんだ瞬間!奇跡が起きた!
卵が孵化したのだ。
空中で博物館で飾ってあるようなごつごつした恐竜の卵が突然、爆発する光の珠のように輝き出した。
一瞬のうちに金の飛龍に変わったのだ。そしていつの間にかその飛龍の上に乗っているレオタード忍者風特殊部隊に抱えられている精霊たち。
そして、俺はヒジリを抱えている。
そのときのヒジリは間違いなく俺に恋している少女のように俺に抱きついたのであった。
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