聖女様のお願い
「ンフッフ、私の治療費は高いですよ」
とは言ったものの私はお肉とワインで幸せ真っ只中だから特にほしい物もないんだよな、お金とかもらうのも気が引けるし。
そういえばガルムに腕を落とされたせいで服の右肩から先が無くなってしまっていた。聖女の私なら腕はいくらでも治せるけど、服までかはさすがに治せない。
「あのさっきの戦闘で服が破れてしまったんですが……」
「姐さんこれを使ってください」
ガルムはすかさず自分の羽織っていた毛皮の上着を差し出してくる。
「嫌です」
即答した。だってさっきまで着てたや毛皮なんて蒸れていて匂いもキツそう。拒否されたガルムはショックを受けつつ上着を着なおす。
「この辺りで服を調達できるような所はないですか、それとできれば旅の道具一式が揃えられればありがたいです」
教会の中では極力家出を悟られない為に魔法訓練以外の準備はしてこなかったが、せめてナイフと火打石くらいは欲しい、つかったことないけど……
服の方はできるだけ動きやすい物を探したい、多少の環境変化や外敵からのダメージは強化と回復の魔法でどうにかなるはずだ。
ガルムは少し考え込んでから口を開いた。
「この辺りでここから近く品ぞろえが良いのは聖都クラウディアですが、多分姐さんはクラウディアからきたんですよね。であれば、ここから街道にもどって1日半日進んだ所にあるクリル村あたりが良いかと、旅の中継地点としてよく利用されるのでそこそこの規模で宿屋や商店も充実しています。質や品ぞろえを求めるならクリル村からさらに三日北に進んだハーリアってのもありですが」
やっぱりこの辺りで高価な聖女の衣装を着ていればクラウディアのから来たとばれてしまうか。かつて女神アリシアが神になる以前、人間だったころに聖女として過ごしていたのがクラウディアの大教会、現在はアリシア教の聖地の一つとされている。他国には聖地としてアリシア様の出身地にある教会本部やアリシア様が世界を救う為女神となったとされる都市に大教会があるが、国内であれば大半の高位聖職者がクラウディアの大教会に所属する為だ。
腕を露出したままが嫌なのもあるが、教会からの追手に見つからない為にもクリル村で早めに服装を変えた方が良いかもしれない。
「じゃあ、とりあえずクリル村で服を買いましょう。ガルムさんが破いたんですから当然払ってくれますよね?」
「いや……それが残ってた金はほとんど今飲んでるワインに使っちまって……」
ガルムは気まずそうな顔をする。
なんて無計画な人だ。確かに質が良く美味しいワインだったがこれから心機一転始めようというときに全財産ワインにつぎ込むなんてバカの所業。
私も一文無し道具なしで飛び出して来たので強くは言えないが……
やっぱ回復魔法で稼ぐしかないかなー。でも教会にばれるとやっかいだし、よけいな連中も寄ってくるんだよなぁ。
あっマッサージ師とかいいかも、適当に揉んで疲労を魔法で回復、きっと評判になる。って評判になったらダメか。
「私も訳あって手持ちが無いんですよね。今と同等の物とは言わないので、どうにか服だけでも新調したいんですが。」
「村娘が着るような物であれば、牙イノシシの毛皮と牙を売って俺の残金を足せたりるはずだ。道具一式も俺の斧を売れば十分な額になる……」
「ガルムさん!?その斧は大事な相棒なんじゃ!?」
ダルが声を上げ、他の者たちからも驚愕がみてとれる。たしかにガルムは名残惜しそうに自らの斧をみつめていた。しかしわずかに頷くとその表情も消えて吹っ切れたような笑みを浮かべる。
「いや、足と目を治してくれた姐さんにはいくら感謝してもたりねえくらいだ。確かに大事な商売道具だが俺は素手だって弱くない、また稼いでもっと良いやつを買うさ。」
大事な斧を売ってとなると多少気が引けるが、そこまで言われては断るのも逆に失礼な気もする。
ここは素直に厚意を受け取っておこう、それにガルムの斧は使い込まれていたがなかなかの上級品のようだ。魔法の付与などはないが手入れも行き届いているようだし、割と良い道具が買えるかもしれない。
「では、遠慮なくいただいちゃいますよ。それではクリル村へ向けてしゅっぱーつ……いえまだ、お肉とワインありますね。これ飲んでからいきましょう」
うん、美味しい。ガルムが採取したという香草のおかげでよりさっぱりと食べることができて、いくらでも食べられそう、今日は一日歩くのだ。しっかり食べておかなければ。




