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質問は竜神様に?  作者: 岩塩龍
きっかけは幼い頃に?
5/17

 ―竜神様―


「で、今日も来たわけか」

「はい、今日も来ました」


 例の少女は今日も来た。これで三日連続だ。まぁ、だが、当分は来るんだろうな。

 そうだな……具体的には来年くらいまでは来るだろう。冬は流石に来ないだろう。寒くて外に出たくもないだろうし、雪も降るだろうし、積雪の森を通ってまでここへ来るはずがない。雪の積もった林や森では、大の大人でも遭難して、最悪の場合死に至る。そのような環境下を大の大人ですらない、ただの子供で、小の小人であるあいつが、この洞窟に来るわけが無い。




 そう思っていたのが、今年の夏の事だ。今は気温も下がり、建物の中ですら寒さを感じる真冬の季節だ。本当に寒い。

「竜神様、竜神様、今日も訊きたいことがあります、おはなししましょう」

 結論から言えば、少女は来た。

 そういえば、最近は雪とか全く振ってこないのだった。というよりも、そもそも、この辺の土地自体それほど雪が降らない。ここに住もうと決めた理由の一つでもあるのに……なぜそのことを忘れていたのだろうか。

 それにしても、半年でだいぶ成長したな。言葉遣いも随分としっかりしてきたし、子供の成長という物は早い物である。人間ですらそう思うことも多いのだ、なら私はなおさらそう感じてしまう。

 それにしても、どうしたものか……この子は一体いつまでこのままここへ来続けるのだろうか……いや、そのうち飽きるか。きっと大丈夫。そう、きっと大丈夫だろう。

「今日は何だ?」

 と、どんな質問を持ってきたのか訊いたつもりだったのだが。

「えーと、お話しましょう」

 と、何をしに来たのかを訊いたかのようになってしまった。というか、お話しに来たって、お前……。

「お話ってな……お前は私を一体なんだと思っているんだ?」

「うーん、優しいお姉ちゃん?」

 違うだろう。

 本当にそう思われているのだとしたら、威厳も何も無いんだが……私。

「でも、いろいろ教えてくれるから、えーと、その、凄いと思う。……凄いお姉ちゃん?」

 言葉が出てこなかったな、こいつ。

 思えば、この半年、大部この少女との距離も縮まったものだ。本当にそれでいいかどうかは知らないが、それにしても、半年もお互いに名前も知らない相手と話し続けられるな、私なら無理だ。お互い名前を知らないまま、半年も話し続けるのなんてな。

 ………。

 …………。

 ……………。

 よくよく考えてみたら、私もそのうちの一人じゃないか、話し続けられているな、私。この少女と違い、流石に毎日のように、名も知らぬ者の元へ行こうとは思わないだろうが。

「今日は、大根を持ってきました」

 またしても単体で貰っても困る物を持ってきたか……。

 この少女、最初こそは飲み物やおにぎり、菓子などと貰ってもあまり困らないもの……そのまま食えるものを持って来ていたのだが、最近は大根やじゃが芋、人参というような単体で貰った所でそのまま食うのは遠慮しておきたいようなものが多い。だからといって、調理はやらないし、出来ないので、正直にいうと貰っても困る。だが、この少女は貰っても困るような生野菜ばかり持ってくる。どうしようかとも考えた事もあるが。

 どうしようもない。

 このままでは食べられないだろうし、洞窟内に日光が差し込む場所が一ヶ所あるから、そこの地面を削り取り、その辺の山の土を召還して、根菜類はそこに植えておいた。きっとまだ成長するだろ、土壌とか栄養とか詳しいことは全く知らないし気にもならないけど。

 植物の生命力という物は凄いから、いや、ヤバいからな。

「竜神様、あの、竜神様は、今、何さいですか?」

 少女は口を開いたかと思えば、そんなことを訊いて来た。

「それはまたどうした急に……気になったのか?」

 少女はこくりと一回首を縦に振った。まぁ、それは気になるかもしれないが……それは、人間的には失礼な話だったような気がするから、一応教えておくか。

「女性に歳を訊くとは、失礼な」

「え、ご、ごめんなさい」

 少し強めに言っただけなのだが、少女は早くも瞳に涙を溜めている。泣き出す一歩手前のようだ。そういえば、今までこの少女相手に怒ったことはなかったな。私を怒らない者だと思っていたから急に強めに言われて、少し驚いてしまったといった所だろうか……などと考えている場合では無いな。このままでは泣かせてしまう。

「冗談だ、そんな謝ることもない、まぁ、ただ嫌がる人もいるということだけ覚えていればいい……まぁ、私からすれば、それもよく分からないものなのだがな」

 それは、私の年齢故にだろう。人とは違い過ぎる。そんなことを人と同じスケールで見てなどいられないからな。

「で、あの、竜神様のとしは、今いくつなのですか?」

「うーん」

 少し悩む。言い渋っているわけではなく、単純に良く覚えていないのだ。

 そうだな……大体いくつだったか……

「大体、二千四百歳くらいだったかな? 実はいうと私もよく覚えていない、歳というのは取れば取るほど、取った回数に興味が無くなっていく物だからな。実はよく覚えていないが、だいたいそれくらいだ」

「へー、そうなんですか、分かりました、ありがとうございます」

 それにしても、この少女、最近は私についての質問をよくするようになったな。ついに私自身に興味を持ち始めたのか? だとしたら、また当分はここに来るだろう。

 私も少し楽しくなってきたとも思っているし、別に良いと言えば良いのだがな。一人でここに居てもあまりすることもないし。

「えっと、じゃあじゃあ、その、竜神様は何の仕事をしているんですか?」

 なんだその質問は。

 歳を訊いたり、仕事を訊いたり、これは噂の合同コンパというやつなのか?意味が分からないな、色々と。

 こういう風に最新の知識は役にたったりするものだ……役に立っているのか?まぁ、役に立っているとしていいか。今の時代、いや、何時の時代も知識を持った者が勝つ。だから、私は知識を求め続けるさ。今風に言えば、情報を求め続けると言った方がいいのか。情報化社会とも言うしそっちの方がいいかもしれんな。

 そう考えると私は全然世を捨ててないな。何が世捨て人だ。物凄く世の中を求めているだろう。確かに求めて手に入れたのは情報だけ……あと、飲食物か……ああ、全くと言っていいほど世を捨てていない。捨てられていないな。むしろ、世を楽しんでいる。殺パイほど楽しんでいる。

 インターネットというのはかなり広大な情報の塊だ。この条菅手が手に入ったなら、も凄い、いや、物ヤバいんだろうな。うーん、物ヤバいって語呂が悪いな。口に出しても、文字にしても、どっちにせよあまり良い感じでは無い。えーと、ああ、イケてないと言うのだっけな、こういうのを。イケてないから物ヤバいという言葉は無かった事にしよう。我が頭よ、忘れるがよい。

「中人様、次の質問いいですか?」

「あ、ああ、悪いぼんやりしていたやもしれん」

ついつい頭の中で考えてしまうのは良い癖であると同時に悪い癖だな。

 少女は、メモ用紙を指差して、上から下へと指をゆっくりと動かしている。次の質問が書いて有る場所を見失ったのだろうか。まだ三つ目だ、そのくらいで見失うな。

「あ、これだ」

 どうやら、次の質問を見つけたようだ。

「なんだ?」

「えっと、その、お酒とたばこって、なんで子供はダメなんですか?」

 以外と言ったら意外だが、自分が絶対に持てない権利を無条件で持つことの出来る人間がいたら、それは気になるだろうし、普通の事なのかもしれない。まぁ、子供だし、単純に気になっただけなのかもしれないが。

「さあな」

 私はそう答えた。

 酒、たばこがダメな理由?

 知らん。

 少女は、何か期待しているような目をして訊いて来たが、知らんものは知らんから、そう答える事しか出来ん。

 結論だけで言ってしまえば、「法によって規制されている」で済むし、その理由も健康に害を及ぼすなどの説明で済んでしまうが、じゃあ実際には、何故悪いのかとなると、私は知らない。

 でも。

「まぁ、なんだ、大人も特権くらい欲しいんじゃないか?」

 私は、適当にそう答える。実際は、子供の将来を心配した大人たちが差しとめているだけなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。実際正しい理由なんて知らない。だが、子供に物事を納得させるときに、「理由なんてない」と言うのは良くない。物事には理由が必要だ。それが、獲ってつけたようなものでも良い。実際の社会ではそうはいかないかもしれないが、子供であるうちくらいは理由がちゃんとあった方がいいに決まっている。

「?」

 私の答に対して、少女は首を傾げていた。

 ………。

 …………。

 ……………。

 ああ、特権が分からなかったのかもしれない。私の理由付けに納得していないのではないかと、少し戸惑ってしまった。戸惑うと思考回路が少し止まるのも私のいけないところだな。

「特権という言葉が分からなかったのか?」

「うん」

 元気な声だ。子供は元気が一番だ。元気すぎて問題を起こすのは厄介だが、その問題の責任を負うのが親の役目だ。義務だ。

親は、子供の責任を取り、子供の我儘を聞いても、決して怒ってはいけない。子供を怒るのは絶対に駄目だ。だが、絶対に叱らなければいけない。親というのは、難しい生き物なのだ。だが、しかし、子供を本当に大事に思うのならばそれをするのが当然だ。きっとな。

 生憎、私は子も親もいない身であるからにして、詳しくは知らんのが実際のところだが、持論としては昔から変わらすこうだ。

 おっと、癖の悪い方が出てしまった。さっさと特権の意味を教えてやろう。

「特権というのはな、ある人や人達だけの権利……えーと、そうだなその人たちだけがやっても良い事という意味だ、この場合」

 少女はポケットから白紙と小さい鉛筆を取出し、描きこんでゆくがどうやら途中で追いつかなくなってしまったようだ。

 私はもう一度同じように特権の意味を出来るだけ伝わりやすく、藁に今度は各時間を考慮してゆっくり言った。こう言った事も半年続ければ慣れてくるものだ。良く考えれば、私は何時の間にか寺子屋擬きを開いていたが、ここは神社だから、神社子屋(じんじゃこや)なのか?またまた語呂が悪くイケていない。寺子屋でいいか、別に。いや、塾の方がいいかもしれないな。よし、じゃあ、塾にしよう。別にここを塾と言い張るつもりはないが、私の中ではここは塾だ。それで、私が教える役だ。

「竜神様、ありがとうございました」

 どうやら少女は私の言った事を書き終えたようだ。

「竜神様、えーと、次が最期です」

 少女はそう言うが、きっと最後にはならない。この後、派生の質問が続くだろう。

 さてと、今日も塾の講師として働くとするか。


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