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質問は竜神様に?  作者: 岩塩龍
きっかけは幼い頃に?
3/17

―竜神様―


私はいつも通り、自分の部屋一つで構成された建物の、一つしかない部屋である私の部屋で寝ていた。

 わけでは無い。

 今日は、色々と調べている。世捨て人もとい、世捨て竜というのか、もしくは、世捨て神というのか。神が世を捨てたら世は終わりだろうし、私がもし世を捨てていたとしたら、私は紙であるかどうか怪しい物でもあるのだが、まぁ、今回も人型という事に(あやか)って、いや、肖ってしまっていいのか?

 別にいいか。

 と、肖らせてもらって、世捨て人と言わせてもらうことにする。

 竜神と呼ばれているだけはあって、私は飲み食いの必要が無い。ちょっと特殊な世捨て人が寝転がるわけでもなく、何をしているかと言えば、今の日の本である日本を見ていた。

 現代の一般的な言葉は十数年前に見た気もするのだが、今は、その時と比べて見ても更に変わっていた。

 言葉の移り変わりがとてつもなく早いな、というより、世界の成長がかなり早い。チョベリバはもう使えないのか。少し気に入っていただけに少々残念だ。

 ナウでヤングな武士(もののふ)共は、そんな言葉使わないで、別な言葉をいろいろ使っているようだな。そもそも、もう武士自体いるのかどうか知らんが。多分いないか。別に調べるためにわざわざ占うつもりもないが……。

 物事は成長すれば成長するほど、成長が早まる。だからこの世界の成長速度も上がってきているはずだ。世捨てをした隠者が、なぜ今更になって世界を見渡そうなどと思ったかと言えば、それは間違いなく、昨日ここへ来た幼女に原因がある。

 原因というか要因というか。

 服装とか喋り方とか、いろいろと細かい要因はあったが、一番は彼女のしてきた質問内容だ。

 言ってしまえば、私は私の知識の中からだけではまともに答えられなかった。インターネットとかいろいろ頼らざるを得なかった。そのインターネットを作ったのも人間だ。私が彼女にしてやったのは検索代行といったところだろう。

 私はもう、人間には勝てんのだろうな。

 これほどにまで成長した、もはや進化と言っても差し支えないほどの成長をした人間達に勝つことは出来ないだろう。だから、人が私に肖るのでは無く、私が人に肖るのは、なんらおかしいことでは無いのだ。と、随分と長い後置き前置きとなったが、私が結果的に何が言いたいかというと……。

 人の問いには人間が答える。それで十分なはずであって、私が答える必要性は全く無いに等しいはずだと言いたいのだ。

 今の生物の頂点は人間だ。

 間違いない。

 人間は自然と対等な立場にいるが、もしかしたら、そのうちに自然ですら人間に抗うことが出来なくなるかもしれない。

 そうなった時、生物でもなく、自然でもない人間は、神にでもなるのかもしれない。そうして、きっと対等な敵がいなくなったその時が滅びの時なのかもしれない。だとしたら、滅びの時はさして遠くは無いのかもしれない。

 私は、静かに占い道具の片づけを始める。

 今日は、もう止めだ。続きは明日にしよう。

 世界は見ているだけで十分なほど暇つぶしになる。

 水晶玉を残し、そのほかの占い道具は片付け終えた。別に水晶玉を出しっ放しにして、放置しておこうというわけでは無い。

 すぐに使うタイミングがきそうだったからな。

 片付けなかっただけだ。

 なんせ洞窟に人が入って来たからな。結界の張り直しを忘れていたため、人物像までは分からなかったが、大方昨日の幼女が私とこの洞窟のことを家族にでも話したといった所だろう。

 だとしたら、面倒だな。

 あまり広めないでほしい。私はこっそりと、一人で一生をここで過ごしていたいんだ。ただ静かに過ごしていたいんだ。

 放っておいてほしい。来たのは一人。

 どうやら、洞窟周りの結界はまだ機能しているようだな。

 まぁ、今、分かることは一つ。

 私は拗ねているな。

 自分で自分がどういう状況なのかくらいは判断できる。

 あとは、嫉妬か。

 竜神優位が無くなったからな。自己否定に走るだろ。走ってもいいだろう。あとは自己承認欲求か。表面上の感情は好きに表せても、内心的感情までは自由に出来ない。そうなると、心とは一体誰の物なのだろうな。

 自分の意志とは関係なく動き回る。一般的には個人の物らしいが、どうなのだろうか。

 もしかしたら、自分の心の持ち主は4次元にいる誰かの物なのかもしれない。

 もし、そうだとして、3次元からじゃ全く干渉ができない世界であるから、確かめようは無いがな。自分の体は自分の物として、自分の心が高位次元に住まう者が持っていると説明されて私は否定しきれないな。

 まぁ、私は全能神ではないからな。全てを知っているわけでは無いのだ。そもそも3次元に存在している時点で、神ですらないのかもしれない。自称神でないにせよ、他称的神であったとして、一般的に『神』と呼ばれている存在とは違う物なのかもしれない。

 私は神ではなく、ただの竜神だからな。いや、もう竜人と言った方がいいくらいなのかもしれない。

 今日の私は随分と自虐的だな。小さくため息をつく。

 ため息をついた理由は二つ。

一つは。

 私の心内環境の事もあって、来た人間の相手をするのが面倒くさかったから。


二つは。


 来たのが、昨日来た幼女と全くの同一人物だったから。


 私は本当に少しとはいえ、嫌味ったらしくこう言った。大人気ないというか竜神気ないのが、恥ずかしい限りだが、言ったものだからもうどうしようもないだろう。

「何の用だ、質問はもうないだろう?」

「?」

 質問の答えは、右斜め23度くらいに傾けられた首だった。

 いや、首を傾げられてもな。私も困るのだが……。

 いったいどこに疑問が発生する点があったのかは分からないが、少ししてから、幼女は口を開いた。

「きょうもたくさんききにきました」

 返答ではなく、話を先に進めるための言葉だったので、先ほどなぜ首を傾げていたのかは分からないが、どうやら、今日も色々と聞きに来たらしいという事は分かった。

 何を疑問に思い首を傾げていたかは少々気になるが、良かろう。やるときはやらねばならんだろう。一応、人の問いに答えるのが私の仕事だしな。

 そうそう、それと、幼女幼女いうのもあまりよくないらしいな。男尊女卑は形の上では終わっているみたいだしな。そうだ、少女とでも言っておこう。少女というにはいささか歳が足りないような気もするが、他にいい表現が思いつかない以上そう言うしかない。

「今日はおにぎりを持ってきました」

 少女の手には、小さい不恰好なおにぎりがいくつかあった。

 形が崩れているのは、最初からか、持ってくる際に崩れたのかはわからないが、大きさからして、このおにぎりは目の前にいる少女が握ったものだろう。

 おにぎりは透明な布に包まれていた。たった今、少女には分からぬようにコソコソと調べてみたところ、食品用ラップフィルムというものらしい。これが食品用という事は、別の用途で使う物もあるのだろうが、今は大して興味を持てないから、調べることでは無いな。

 それにしても、もう二度と来ないと思っていたのだがな。子供とは一度楽しみを見つけたら、飽きるまでずっと野路事をし続けるものなのかもしれん。いや、そうだろう。きっとそうだ。

 一度面白いうと思ったことは、内容をエスカレートさせつつも、本質的にはずっと同じようなことをして、否やことが起きるか飽きるかしたら、それをやめる。そして、また別の楽しみを探し、それをし続ける。

 こんなものだろう。

 本当にそうかどうかは誰も分からないだろうな。人の心の中の覘くことは出来ないし、皆、子供で会った時期があるのにも拘らず、昔の自分の心の中も知らんのだから、分かるのは現時点での子供だけだ。だが、子供にはそんな難しいことが分からんだろうし、もしわかっていたとして、それを説明するだけの語彙が無い。能が無い。だから、本当に誰も知らないのかもしれない。

 簡単そうで難しいことは、難しそうで難しいことよりも難しい。それを、人の子供ごときが分かる通りが無かろう。

 実際に子供の本質を知るためには、子供をずっと観察して、推測して、それを統計してみる他にない。しかも、そこまでしたところで、十割分かるわけでもない。凄く良くても、九割八分だ。

 そんなものだ。

 これに限らず、物事を十割知るという事は難しい。ほぼ不可能と言ってもいい。私にだって知らないことは沢山あるし、気になることも山のようにある。それでも、私が全て知っている神で、どんなことでも答えてくれるとでも思っているのか、人間は昔からよく私に物事を訪ねてきた。

 まぁ、それも今となってはこの少女だけだが……。

 確かに、今までに聞かれたことは、全て答えてきたが、そのうち半分は勘であるし、それが本当に当たっているかどうかは確かめようがない……というわけではないが、確かめる気は更々ない。

 二度以上訪れる人はほぼ皆無であるし、縁の無い人間の将来など心配をする必要もなかろう。そいつが私の占いや勘である、答えを聞いてどのような行動に出たかなんで(まった)(もっ)て興味がない。

 そもそも、私は人間自体に興味はない。

 確かに、人間のやっていることや、技術や作品などには大変興味があるが、人間自体に大した興味はない。

 人間は私に興味があったようで私を訪ねてくる人もいたが、先ほどの通り、今やそれも目の前の一人を除けば、誰もいない。

 そのうち、この一人というのもいなくなるはずだ。いなくなるまでの間くらいは、この子供の質問に答えるだけの、寺子屋擬きに付き合ってやろう。




 と思っていたのが先週だ。

 しかし、あいつは毎日来た。

 ヤバいな。

 ちょっと、覚えたての言葉を使っていたが、合っているのだろうか。合っているだろう、多分。だって私は竜神であるが故に間違えるはずがない。

 そう、合っている。

 現代の人を相手にしているのだから、現代の流行り言葉を取り入れて行かないとな。それにしてもヤバいという言葉は便利だな、かなり色々と使い道がある。

 何かに困った時には。

 ヤバい。

 凄いものを見た時にも。

 ヤバい。

 喜怒哀楽全てにおいて。

 ヤバい。

 その他諸々にも使えるし、されには何か伝える時に形式主語の動詞版や形容詞版みたいに使うことも出来る。

 ヤバいな。

 便利便利。物凄く便利である。この言葉があれば、『いみじ』なんてもういらないな。

「マジいみじ~」とかなんとかいろいろと言っていた時期もあったが、今思うと何をしていたのだろうな、私は。

一人、部屋で、ノリノリでそんなことを言うなど正気とは思えない。

 忘れよう。

 それにしても、この少女、まだ来るのか。

昨日まで少女が毎日来ていたことからして、きっと今日も来る可能性はあるとは思っていたから、昨日にその少女自身が持ってきた西瓜を私の部屋しかない建物のすぐ近くにある川と呼べるかどうか怪しい水辺で冷やしておいてあるが、まさか本当に来るとはな。

 案の定、今日も少女は来たようなので、少女がこちらにたどり着くまでに西瓜を水辺から取ってくる。

 包丁が無かったので、少々切り難かったが私の持っている唯一の刃物である刀で、八等分に切り分けて、皿に乗せ、お盆に乗せ、私の部屋しかない神社擬(もど)きの床の上にそれを置く。

 こういう風に食べ物を置くときは、神社擬きの高い床の上に置くと、地べたに直接置いている気がしなくて良い。実際のところは大差ないのだが……。

「竜神さま~、竜神さま~、今日も、ききたいことがあってきました」

 最初に来た時より、少しは賢くなったのか?あの時と比べて見れば、言葉からも少しは幼稚さが抜けているように感じられる。と、言ってもほんの少しだけなのだが。

 私じゃ、何とかして刀で切った西瓜を指差しして、子供をあしらう様な言葉を使って言う。まぁ、実際子供だし、問題は無かろう。

「はいはい、今日はお前が機能持ってきた西瓜を冷やして切っておいたから、食べるとよい」

「わーい、西瓜だー」

 見事にあしらわれてくれたな。いつもは私の前へ一直線に来るのだが、今日は西瓜の置いてある、私の横に一直線で来た。

 少女は西瓜を両手で持ち、一番西瓜の一番甘い部分からシャクシャクと音を立てて(かぶ)り付いていた。

 今、自分で食べている西瓜が、自らお供えに持ってきたものであることを気にしないあたりから、この少女がまだまだ子供であるというのが窺える。なんだかんだ言ってもここに来たのが、大人ではなく子供で良かったのかもしれない。大人だったならば、色々と厄介なことが起きそうだからな。

「今日はね、その……」

 少女は八等分した西瓜の内の一切れを食べ終えると、手に付いた大量の西瓜の汁を自分の服に拭ってから、ポケットの中を探り始めた。

 恐らく、メモでも探しているのだろう。白い服が薄く赤色に染まっている事も気にせず、一つの事に集中するのも実に子供らしい。これほどの集中力は大人にはなかなか出せないものだ。大人になると、どうも周りが気になるものだからな。

 私が、何故、この少女がメモを探していると推測したかというとこの少女は、初日以降は毎日質問を数個書いたメモを持ってここを訪ねて来ていたからだ。メモと言っても、書かれているのは本当に数個だけで、少女の質問の大半はその数個の質問に対する答えから派生したものだったりするのだが……。

「あ、これだ」

 少女は片方のポケットにないことに気付いた反対側のポケットを探し始めた直後にメモを見つけたようで、それを取出し、自分の頭の上に掲げる。

「えーと、まずは……」



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