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質問は竜神様に?  作者: 岩塩龍
慕情は、逆質問と共に?
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時は廻り、私もJC3。

 季節は夏になり、本格的に受験シーズンに移る頃だ。

 なんというか、私からしたら、受験シーズンだから特別勉強に専念するとかそういうのはないので、どうしても受験生という実感が湧かない。

 放課後は竜神様に会うために、部活に入っていなかったりして、部活引退なども経験していないので、それもまた理由の一つかもしれない。

 今日もいつも通りの日常を過ごすだけである。

 下駄箱に行って、内履きを取り出して、履き口を下に向けて軽く振って、中に入っている画鋲を下に落とす。

 どうやら、今日は入っていないようだ。

 私は靴に足を入れる。が、激痛のあまり立っていられず、後ろに転んでしまった。周りの視線が集まる。痛いな。いろいろと。

 靴の中には画鋲が入っていた。おおよそ、私が毎日靴を振って画鋲を出している所を見た誰かが、接着剤かなんかで固定したのだろう。推測では木工用ボンド。あの黄色い容器のあれ。

 私は、靴をゆっくり脱いで、靴下のまま、とりあえずは保健室に向かった。

 靴を手に持って、靴下で歩いているからか、歩いた後に血が残っているからか、私の足元に視線が集まって来るが、特段記することもなく、廊下を歩く。そして、何事もなく保健室に到着した。

「失礼します」

 誰もいないとは思いながらも、一応はそう言ってから、保健室に入る。

「はい、学年と名前をどうぞ」

 先生の声が聞こえる。今日は、どうやら早めに学校へ来ていたようだ。

「三年二組の孤港実故です」

「朝からからどうしたの? 靴も履かずに」

「この靴の中を見れば分かると思います」

 私は靴の中が見えるように履き口を先生の方へ向ける。

「ああ、なるほどね。それで、気付かずに履いちゃったと……」

 履き口から見えるのは、血の付着した画鋲である。見れば誰でも状況を把握できるだろう。

「こういうことも、毎回されているの?」

「はい、毎日。いつもは靴を振って画鋲を下に落としていたのですが、今日は接着剤か何かで固定されていたようで、いつものように足を入れたら刺さりました」

「そう……大丈夫?」

「ええ、まぁ」

 慣れているので。流石にそれを言ったら気味悪がられるかもしれないから、言葉にはしてないけど。

「とりあえずは、担任の先生に伝えておくからね」

「はい、ありがとうございます」

「休んでいく?」

 先生は、そう言ってくれたが。

「いえ、大丈夫です」

 断っておいた。

 教室に入って、自分の席に着いてから、まずは机の中身を確認する。

 机の中は液体のりと思われるもので、べたべたであった。

 どうやら、今日一日は、机の中に物を入れることは出来なさそうだ。




 昼休み、私は、荷物を持って保健室に向かった。先生の目の前で嫌がらせやいたずらをする生徒はいないので、保健室は安全地帯であった。なので、いつものように、私の足は保健室に向かった。

 向かったが、自分の力で辿り着くことはなかった。

 私が最期に見たのは、両手を伸ばした状態で階段の踊り場に立っている、ほくほく顔のクラスメイトだった。つまりは突き落とされたのだろう。衝撃と共に、意識は刈り取られた。

 次に目を覚ました時は夕暮れ時だった。

 誰かに連れられてきて、保健室のベッドで眠っていたようだ。

 少し頭が痛むが、動けないことはない。私はスリッパを履いて、保健室の先生に一言声をかける。

「ご迷惑かけました。すいません」

「あ、目が覚めたのね。大丈夫なの? なんか、階段から落ちたみたいだけど」

 そうか、表向きではそうなっているのか……まぁ、いいや。

「はい、大丈夫です」

「荷物はクラスの子が持って来てくれたようだから、今日は帰ってもいいよ」

 クラスの子……?

 心配になって、カバンを開け、中身を確認する。

 ………。

 カバンの中の惨状を見て、数秒間思考がフリーズする。ああ、そうか。

 明日から学校の授業を受けることは出来ないだろう。それに、受けるつもりもない。こうなったからには仕方ない。

 もう、『学校』で、私が学ぶことはないだろう。これからは、竜神様に教えてもらうことにしよう。

 竜神様といられる時間が増えると思えば、これをしたクラスメイトにも、感謝だってできる気がする。まぁ、お爺ちゃんとお婆ちゃんが買ってくれた物を駄目にしたわけだし、感謝したとして、許すことは出来ないだろうけど。

「じゃあ、今日は帰ります」

「はい、気を付けてね」

 気を付ける。

 そう、登校靴を履く際にも気を付けなければいけない。

 しかし、気を付けるも何も、私の投稿靴はとても履けるような状態では無かった。というより、見られる状態ですらなかった。見ていられない……そんな状態。

 口にも出したくない。いや、出すことが出来ないような、そんな状態であった。やっぱり感謝も出来ないかな。お爺ちゃんとお婆ちゃんが買ってくれたものにこんなことをする人たちなんて。ああ、どうしよう。こんなものを履いて行く気なんてしない。

 どうやら、私は、もう、学校に来ることすら許されていないようだ。許されていようが許されていまいが、もう来るつもりなどないが。

 外履きは……無事みたいだ……さんざんな状態の登校靴から匂いが若干移っていてこれはこれで吐きたくないけど、画鋲まみれの内履きよりはましだろう。私は外履きを履いて、手ぶらで帰った。だって、あのバッグだって、もう使い道ないだろうし。玄関に置いて来た。

 私が、この学校に来ることは、もう二度とない。


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