この世界
姫と呼んでいましたが、王女にします。
俺の返事を聞くと、王はこの世界についてのことや自己紹介を始めた。
この世界にある、広大な大陸『ランドリア』それがこの大陸の名前である。
広大な大陸が一つあるだけなのだが、他にも多種多様な種族が存在している。
『人間族』『魔族』『獣人族』『龍族』『人魚族』それぞれが国を持っている。他にも少数ではあるが、エルフやドワーフなんて種族も存在している。
……獣人族と人魚族に会ってみたいな。
人間とは違う姿。文化。価値観。想像するだけで胸が踊る。
『ランドリア』にある人間の国の内の1つが、この国『フォーレン王国』である。人間族は数が多いので人間族だけの国が4つある。他は『聖クリストハイフ』 『ヤンドリア王国』 『マンドリア王国』である。
そのフォーレン王国の王がこの男、ケイオス=フォーレン=ハイトである。そして、この姫は王位継承権を持つ第一王女のアリス=フォーレン=ハイトである。他にも第4王女までいるらしいが、今はここにいない。
そして、今『魔王』が人間族を滅ぼそうとしており、魔族、魔物の襲撃により国民の被害も多く発生している。さらには『獣人族』とも仲が悪く、争いが続いているとのこと。
……魔族や魔物の問題はわかるが、なぜ獣人族とまで争っているんだろうか?
「魔族は強い魔力と身体能力を持ち、戦闘となるととても厄介だ。倒すのは楽ではない」
忌々しそうに王は言う。
この世界には冒険者という人達が集まりギルドを作っているが、一流の冒険者でもチームを組んでようやく魔族を倒すことができるほど手強いらしい。
そして、魔族との戦いと獣人族との争いで追い込まれた、人間族は古い文献に残る勇者召喚を使い状況を変えようとしたのだ。
何でも古い文献には、勇者の召喚方法、過去の勇者の活躍が書かれているらしい。
そして今に至るわけだ。
「元の世界に帰る方法はあるのですか?」
さっき俺は帰りたいとは言わないと言ったが、赤城達は気になるらしく王に聞いた。
すると王は苦い顔で、
「………古い文献では勇者は魔王を倒した後、この世界で平和に暮らしたとしか書いてはおらん」
つまり、もう帰ることはできないんだな。
「そうですか………。ですが、俺達は勇者です!なので魔王を倒しに行きましょう!同じ人間が困っているんだ!力がある俺達で助けよう!なあ皆!」
覚悟を決めた顔で赤城は皆に言う。こういうのに憧れていたのか不思議と表情に熱がこもっているように見える。
空回りしなければいいが。
「もうー、しょうがないわね。勇人ならそう言うと思ったわよ」
「うむ! 俺は盾の勇者だ!防御なら任せろ!」
「ふえぇ、皆さんと一緒なら大丈夫ですよね?」
やれやれといった様子で魔王討伐を決める勇者達。
「本当か!協力してもらえて嬉しいぞ。礼を言う」
「本当にありがとうございます!」
満足いく返答で王様と王女様は最高の笑顔だ。
「で、お主の考えはやはり変わらか?」
俺の方を一瞥して、王は問いかける。
「ああ、変わらない」
俺のバッサリとした否定の返事により、さっきまでの明るい雰囲気が嘘のようにシーンとなる。
「別にいいじゃないですか王様。私達勇者四人がいるんだし問題ないでしょ?」
「ああ、そうだな。黒木は一般人なんだ。魔王は俺達で倒そう!」
「うむ! 黒木。俺達に任せろ!」
「ふえぇ、本当に来ないんですか?」
「もういいでしょ、桃花。ほっときなさい」
「は、はいぃ」
勇者達はもう完璧に諦めたようだ。
「 剣の勇者、拳の勇者、盾の勇者、杖の勇者がいるのだ。四人いるならば問題はない。お主は好きにするがよい」
よし!これでこの世界で自由に旅することができる。
冷たい視線が注がれる中、俺は一人なに食わぬ顔で王の間を出ようとしたーー
【ーー勇者だって? 】
突如頭の中で男の声が響く。
ドクンと心臓が鳴り、鼓動が早くなる。
少し落ち着く為に深呼吸をすると、おさまったのか、鼓動が落ち着く。
何だ? 今のざわめきは?
疑問を胸に抱きながら俺は気にせずに歩きだした。すると声を張り上げた。
「あの!」
俺は振り返り王女を見る。
「何だ?」
「巻き込んでしまってごめんなさい!辛くなったら、いつでも戻ってきてもいいですからね?」
……ずいぶんと優しいことだな。勝手に召喚なんてしなければの話だが。
俺は何も言わずこの城を出た。