せめぎあい
読者の皆様お久しぶりです。久しぶりの魔皇帝です。
年内はバタバタしていたが為に更新が遅れました。
序盤に何やら話が追加されていたり、修正されていたりもしますので、よろしければご確認ください。まだあまり修正が進んでおりませんが。
結界にヒビが入った。
しかし、それだけであった。
「惜しかったねー。もう少し力があれば結界を割ることが出来たかもしれなかったけど」
「……ちっ」
右手がさっきの衝突でじんじんとする。
俺のスキルとステータスを駆使しても、あの結界を破ることは出来なかった。
ヒビを入れることは出来たのだが、こうしているうちに既に結界に入った亀裂は修復されてしまった。
「連続で攻撃したら割れるかもしれないね」
そうアケディアの言う通り。それしかない。
アケディアは楽しそうに笑いながら、黒い球体を待機させる。
今度は魔法による波状攻撃を。一発や二発では駄目だ。
俺は覚悟を決めて、再びアケディアとの距離を詰める。
するとアケディアの球体が瞬時に動き出す。
俺はその対策として火魔法による小爆発で前方の地面を破砕し、目眩ましに砂煙を上げる。
「雷、闇、土、火に君は一体いくつの魔法属性を持つんだい!? 本当に君は何者なんだい?」
狂気ともいえるような声でアケディアは吠える。
俺の目眩ましも通用せず、球体は煙を裂いて正確に俺へと迫る。
本当にしつこい球体だな!
俺は迫りくる球体を、闇魔法で作り出した刃ではじく。球体が刃に触れる度に重い衝撃が俺の体を揺らす。刃を維持できなくなりそうだが、ここで解除してはあの球体によって全身を穿たれることとなる。
俺は歯を食いしばりながらも疾走する。
「おお! いいねぇ! そうこなくちゃ!」
本当に手ごわい。距離を離せば球体が襲いかかり、近づけば結界がアイツを守る。動かなければ称号の補正によりステータスも強化される。その上実は凶戦士タイプときた。本当に勝てるのかよ。
二つの球体を遠くへとはじくと、アケディアの周りで待機していた球体が迎撃にくる。
その前に俺は土魔法で再び壁を作る。
「また防御なのかい?」
壁は二つの球体を受け止める。そしてそのまま壁を使って硬質な杭を連続で射出する。
鋭く尖った杭は、真っすぐにアケディアのもとへと迫り結界に阻まれる。
「おお! 強力な土魔法だね!」
いくつもの杭は結界を揺らめかせ、砕け散る。
さらに連続で浴びせようとしたが、弾きとばした球体が戻ってくる。
「ちっ」
それを今度は闇魔法の刃ではなく、岩と魔力で構成した岩の刃で斬る。
球体は弾きとばされることはなく、ゴムボールのような反発をしたあと斬れた。
「げえっ!」
便利な闇魔法を使っていたが、俺の最大レベルの魔法属性は土なのだ。奴の闇属性の数値よりもそれは上。これならいける。
そのまま俺は土魔法で槍のような長さの杭を三つ作り出す。それもドリルのように抉るような螺旋を加えて。
「……物騒なものを作るね」
アケディアは手を掲げて、自分の身長程の大きな闇の槍を、俺の杭へととばす。
空気を切り裂きながら発射された槍は、俺の作っている杭へと突き刺さる――ことは無く、表面の岩を少し削いだだけであった。
「え?」
アケディアが間抜けな声を漏らす間にも、その傷は修復されてより凶悪な杭となる。もはや杭とは呼べない、超大な槍。それも強固な敵を穿つためのもの。
その三本の槍に回転を加えて、さらに貫通力を高める。
「ちょ、ちょっとそれはやりすぎじゃないかな? 俺でも死んじゃいそうだよ?」
「待ったなし」
ずっと余裕の表情をしていたアケディアの顔が、焦燥に変わる。
「えええ!」
しかしその焦りさえも、あのステータスを見た後では「ざまあみろ」とは言えなかった。
すぐさま結界の防御に力を回すアケディア。
俺は槍を二本、高速回転を加えながらアケディアの胸元に発射した。
結界による青白い光の壁と、鋭く尖った槍がせめぎあう。それは赤い火花を散らし轟音を立てる。
そして結界に蜘蛛の巣状の白いヒビが瞬く間に広がっていく。
結界はすぐさまに、それを修復しようと試みるが亀裂の方が勢いが強い。
「砕けろ!」
駄目押しに最後に残った土の槍を、同じ個所を狙って発射する。凄まじい勢いで放たれた槍は結界を紙のように貫く。
結界は割れたガラスのような大きな音を立てて、青い花を咲かせる。
アケディアは目を見開き、そして―――
× × ×
コウイチと離れた、グレン、ゼキアはスケルトンドラゴンを倒そうと向かう。
ドラゴンはその巨体で町を襲うばかりでなく、称号の力により様々な魔物を生み出し、混乱する市民を襲う。
それを守る王族や兵士たちも奮戦をしているが、無尽蔵に生み出されるが如く魔物が兵士たちの数を上回っている。
力こそが全ての獣人の王族と、精鋭である護衛兵士により何とか被害は抑えられているが、状況はまずい。
せめて三獣士の誰かが下におれば巻き返せるであろうが。
王都の建物を疾走するグレンは苦い表情をした。
それはゼキアとシュルツも同じであった。グレンが連れてきた人間がいなければ、王都はもっと悲惨な状況となっていたであろう。
一刻も早く魔物を生み出すのを止めさせるべく、シュルツは杖を掲げた。杖の先端からは赤い光が灯り、それを中心に赤い粒子が収束する。
すると、魔物生み出し続けるスケルトンドラゴンの頭上に大きな魔法円が咲き誇る。
急激な魔力の塊の発生により、地上の魔物やスケルトンドラゴンが頭上へと注目する。
「もう遅いわい」
シュルツは杖を勢いよく振り下ろした。
次の瞬間、魔法円が輝き、雨のように炎の槍を降らせた。
燃え盛る炎の槍は、魔物だけを正確に燃やし、貫いてゆく。
そしてその大規模な魔法は巨体であるスケルトンドラゴンに数多く着弾し、骨とただれた薄い皮を容赦なく焼き焦がす。
「――――――――――ッ!」
声にならない悲鳴をドラゴンは上げる。
「シュルツさんの魔法だぞ!」
「さすがビストリアの賢者!」
「よっしゃ! 今のうちに魔物達を叩き潰せ!」
「おおおおおおおおおッ!」
シュルツの援護にやり、勢いをつけ始める兵士達。
シュルツは魔法適性の低い獣人の中でも珍しく、魔法使いタイプの獣人であった。もちろん獣人本来の肉体性能も兼ね備えていたために、ビストリアでは賢者などと呼ばれていた。
「さすがの魔法制御じゃのう」
「わしは兵士達に当たってしまわんか冷や冷やしたがのう」
「んなお前たちみたいボケたことはせんわ!」
「「なんじゃと!」」
三人が言い争う中、立ち上る煙るからは身を起こすドラゴンが。
「ったく、あれだけ命中してこれとは」
ただれた皮は黒く焼き焦げ、ほとんど残されてはいない。骨にも同様抉れたり、炭化している部分もある。
ドラゴンの口から出ている、白い呼気がシュルツの魔法の壮絶さを物語っているようだ。
『ガギャアアアアアアアアアアアアアッ!』
怒りをまき散らさんばかりに、スケルトンドラゴンが咆哮を上げる。それは音の衝撃となり、王都の建物を削り、吹き飛ばし、地上の兵士達の足をすくめさせる。
そして、紫色の眼光がシュルツをギラリと睨む。ドラゴンの体表を見れば火傷の痕や、炭化した骨に魔力が集まり巻き戻すかのように修復をしていく。
「こいつは骨が折れそうじゃのう」
「「スケルトンドラゴンだけに?」」
三人は楽し気にドラゴンへと立ち向かう。
今年もよろしくお願いします。
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』
の方も読んでくださると、作者は喜びます。




