黒い影
「この谷を越えると、もうすぐ王都ビストリアが見えるはずです」
「本当か? 」
「やっとだねー? 僕休みたいよー」
「だらしないわねトト。もう少しなんたから我慢しなさいよ」
ドーノの町を馬で出て4日。
ようやく、この旅の終わりが近付いてきた。
ここまでは最大の懸念であった魔族による襲撃もなく、ルーナから聞いたサーベラスとやらの襲撃もない。
誰一人怪我することもなく、ここまでたどり着くことができた。
途中からは、食材の調達をしなければヒヤヒヤさせられたほどだ。
特に唐揚げを食べさせなければよかった。
そんなことはどうでもいい。
「待ってて下さい……お父様」
「……っ!おい、上に四人程いるぞ!」
俺の言葉に反応し、ロッテ達は上を見る。
さっきまでは気付かなかったが大分近くに誰かいる。
どうして気付かなかった。
特別なスキルか? いや、四人ともがそんなスキルを持っているとは考えづらい。
ならば高レベルの隠密スキル持ちか。
こちらが不自然に上を見たことで、敵はバレたと思ったのか、一斉に動きだす。
見えたのは兎の獣人達。
俺達の死角や、見えない岩影へと疾走しながら魔法を放ってくる。
兎の獣人故の能力なのか、あんな動きは真似できそうもないな。
魔法自体は大したことは無いので、俺の闇魔法ブラックホールで直撃するものだけを吸収する。
「こっちからじゃ、届かないし、見えないわ」
「直撃するものだけ、防ぐんだ」
冷静に指示を出しながら、上からとんでくるファイアーランスを斬るカーシュ。
魔法も斬れるのか……。剣が特別なのか、それともカーシュがおかしいのか。
敵は高い所にいるため。それだけで有利だ。こちらからも魔法を放つがすぐさま、退避しこちらから見えなくなる。
兎の獣人以外、今の所気配は感じられない。
反撃しなくても、この谷を抜ければ俺達のだろう。
王都までは追ってこれまい。
「あと少しで谷を抜けます!スピードを上げましょう!」
馬を叩き各自スピードを上げる。
突き放される、兎の獣人達。おかしい明らかにスピードを緩めているように思える。
諦めたのか? それともこの先に何か? もしかしてまだ、高レベルの隠密系のスキル持ちがいるのか?
「ルーナ! スピードを一旦落とせ!」
「えっ?」
先頭を走るルーナに声をかけた直後、左右の谷に何本ものファイヤーランスやロックランスが突き刺さり、悲鳴を上げるように谷が崩れた。
そうきたか! やっぱ事前に仕掛けてやがったな!
「ルーナ様!」
押し潰されればひとたまりも無いような、岩の塊が圧倒的な量をもって降りそそぐ。
全員がそれぞれ魔法を放ち岩を砕くが、焼け石に水である。
「だめ! 多すぎる!」
「こっちからもきたよ!」
俺は落ちて来る岩に向けて、多く魔力を込めた高威力のライトニングーボルトを放ち、目を瞑り鮮明にトンネルをイメージする。
「ロックロード!」
大きな規模の土魔法を土に触れずにやるのは、なかなか魔力を通しにくく難しいのだが日本の鮮明なトンネルのイメージと、大量の魔力で何とか補う。
すると、地面の岩が盛り上がり俺達が余裕をもって通れるような岩のトンネルができあがる。
「うわー!真っ暗だー!」
「これほど大規模の土魔法を使えるとは……」
「コウイチさん凄いです!」
「いいから、スピードを上げろ!これが持つとは限らん!」
魔力でガチガチに土や岩を固めて作ったのが、次々と落ちてくる位置エネルギーを持った岩に悲鳴を上げるトンネル。
急いで馬を走らせる。
この馬達はよく落ちてくる岩や、魔法に驚かないものだ。
「ひょっとすると優秀な軍馬なのか?」
そうだもっと大切にしろ!、とばかりに嘶く馬。
「はいはい、無事王都に着いたらお礼はするさ」
無事通りすぎ、谷を抜け頃には俺のトンネルも谷も崩れていた。
兎の獣人達もこれ以上追うつもりは無いようだ。
「あんた? そんなにMP使って平気なの? 」
「ああ、平気だ。一応MP回復ポーションも飲むし大丈夫だ」
「すごくMPとINTが高いんですかねー?」
「三獣士のナーガ並に多いのかもしれん……」
「さすが兄ちゃんだな!」
「まあな」
「一体レベルいくつなのよ……」
ロッテの小さく呟くその声は聞こえないふりをして進んだ。明らかにレベルの割におかしいしな。
突然大声で叫ぶルーナの声。
「見えましたよ!王都ビストリアが!」
ルーナの指を指す方向を見ると、確かに大きな城壁と王宮が見える。大きいな。
「大きいー!」
「凄いわね!」
自分の住んでいる王都が誉められて、嬉しそうにするルーナ。
レーナやルーナといい、獣人は自分の国が大好きでとても誇りに思っているようだな。
人間や、日本人とは大違いで。家族や仲間と強い繋がりがあるのだろうな。
そんな思考にふけりながら馬を走らせる俺。
徐々にハッキリと見える白い城壁と綺麗な王宮。
だが、そこに黒い物が見える。
「ん?なんだ? 」
「……モヤモヤしてるね? 」
「……王都から煙が上がっているのか?」
「そんな!? 何が起こってるのよ!?」
俺とロッテが王都から上がる煙を見ていると呆然としているルーナが目に入る。
「……お母さま? お姉さま?……皆」
「ルーナ様しっかりしてください! まだ煙が上がっているだけです!」
ルーナの意思を強く持たせるように呼び掛けるカーシュ。
だが、黒く舞い上がる煙は量を増やすばかりだ。
……やはり王都に何かあったのか?
「え、ええ……そうですね。急ぎましょう!」
浮かび上がるたくさんの不安を振り払い、何とか持ちなおしたルーナ。
不安になるルーナや俺達にだめ押しとばかりに現実を突き付けられる。
「ガギャアアアアアアアアッッ!!」
大気を震わすような圧倒的強者の咆哮。
王都の上空にドラゴンがいた。




