恐怖の宴
聖クリストハイフ
ーー都市アルーシャーー
暗闇に町に響き渡る愉しげな人の声。楽しいというには、少し下卑た声である。
とても聖職者とは思えない。
いくら夜といってもこれだけ静かで人の気配を感じないのは、おかしいことなのだが彼等が気付くはずもない。すでに結界という名の籠の中なのだから。
「はははははっ!神様さまさまだなぁ!」
「全くだ。聖職者って言うだけで、これだけ楽できんだから最高だぜ! 今日も神様のお導きに感謝をっと」
「戦いなんて起こらねぇし、聖女様と、聖人様がいりゃあ魔族なんて楽勝だぁろう!?」
教会にしては豪華な一室にいる、四人の男と二人の女。
夜に教会に女を連れ込み、酒を飲んで、肉を貪ると、聖職者とあろう者達が、品のないなどと思いながら男達を眺めるドレイド。
派手な装飾をしてる男がここで一番偉い男なのであろうことがわかる。
聖職者が何をしようとドレイドには関係ないことだ。
ドレイドとしてはこの国は、特に頭のおかしい人間が住んでいるいう程度の認識しか無いので、何をしようが言われようが何も感じないものだ。
「これで終わりだな……」
「あっ? 何か暗くねえか?」
「えー? こわーい」
「はあ? なーに言ってだ? お前酔ってんじゃねえの?」
「そういうお前こそ、コップ逆さまに持ってんぞ?」
「あぁ? ほんとだ」
まともな判断さえ怪しいくらいに酒がまわっている様子だ。
ドレイドは気配を消すまでもなく、進入し入り口近くに座る男に向かい刀を降りおろす。
「あっ?」
誰かの気配を感じ振り返ったのが、その男の最期だった。
「あっ?何も見えねぇぞ? どうなってんだ?」
「ちょっと、目をふさがないでよー」
「おーい、カース灯りを取ってこーい」
「えー? 俺っすかー? へーい」
ドレイドの闇魔法【黒牢】に囚われたことによって視界が見えない男達。
一人が殺されたというのに何もわかってない男達の様子。
ドレイドに向かってよろよろと歩いてくる一番地位が低いであるがゆえに、取りに行かされた男。
「あ~……って、ちょっと誰っすか~? 邪魔ですよ~?」
ドレイドにぶつかった、カースはパシらされたのと、ぶつかられたので機嫌を悪くしぶつかった者ドレイドに文句を言う。
「なら、俺が退かせてやろう」
「うぇっ?」
ザシュッ!
ドレイドの刀により、胴体とおさらばしあっけなくこの世を去るカースという男。
大量の血が一室に飛び散る。
「きゃあーー!? 何かかかったー!?」
「うぉい、誰だよ!エール溢したのは!?」
「おいおい、早くふけよ。それよりカース灯りはまだかー?」
「………」
「あれ? おかしくない、何かベトベトするんだけど? 」
「え?本当だ? この匂い……血!?」
ようやく酔いが覚めたのか、正常な判断をするようになる男と女達。
「一体誰の? カースか?…… それにさっきからザックの声が……聞こえなくないか?」
「だ……だ、誰かいるのか?」
「おーい! 誰か! 来てくれ!」
遂に恐ろしくなったのか、警護の者を呼ぶ偉そうな聖職者。しかし、誰一人と駆けつける者はいない。当然である、既にドレイドの手によって言葉を発せない骸となっているのだから。
「……誰もおらんよ」
低いドレイドの声が静かな部屋にどこからともなく聞こえる。
「ひいっ!だ、誰だ!?」
「カースとザックを……お前が殺ったのか?」
「…お前達が知る意味もない」
「ひっ、何も見えん!やめてくれ!」
逃げるにも、戦うにも何も見えない中で無様に動きまわる男達。
「闇の恐怖の中に沈め」
ドレイドの足元から闇の魔力が広がる。
「ひいっ!何だこれ!! 沈む!沈む! だ、誰か俺を助けろ! やめてくれ!」
「いっ、嫌ぁ!」
「っ…動けない!? 何よこれ!? 」
「だ、だれか!」
恐怖の表情を浮かべ、沈んでいく男達。
もがいても、泣き叫んでも誰も助けにこない。
この夜、都市アルーシャの三つの教会から聖職者と関係者が消えた。
ーー
死体を闇魔法で処理し終わると、ドレイドは不意に背後に気配を感じ。ドレイドは即座に刀に手をかけ振り抜ー
「グリーフか……驚かすな」
フウッと息を吐き刀を鞘に戻すドレイド。
後ろには魔王様のメイドであるグリーフがそこにいた。
このメイドは魔王様が拾ってきた、吸血鬼なのだが。いつもいつの間にか現れる。
「はい、こちらも終わりました。とても不味い血でした」
感情を感じさせない声で答えるグリーフ。
ドレイドにとってグリーフはよくわからない存在なのだが、魔王様への忠誠と実力は本物なので放ってはいる。
「今日はここらへんで戻るか」
十分ドレイド達のノルマは達成している現在これ以上深く殺っても意味はない。
皆殺しという任務では無いのだから。
ーー
教会から出て、魔王城に戻ろう転移陣に向かおうと歩いた時。
ドレイドとグリーフは一人の者の気配を感じる。
「おい」
「…わかってます」
と言葉をかけあった直後に、空気を斬るような音をした風の刃がとんでくる。
二手に別れ避ける二人。
しかしドレイドが避けた先には待ってたとばかりに、襲いかかる銀色の髪の毛をした人間。
「食らえっ!」
高密度な風の魔力を宿した、手がドレイドを貫こうと襲いかかる。
それをドレイドは闇の魔力を纏った居合い斬りで受け止める。
「……Sランク冒険者バーガスか」
「へぇー? 俺のこと知ってんの?」
つばぜり合いのような形になりながら凶悪な笑みを浮かべるバーガス。
「おっと!」
しかし、そんなバーガスにコウモリの大群が襲いかかる。
「吸血鬼かよ!」
ドレイドを避けて追尾してくるコウモリに思わず後退するバーガス。
「魔族の幹部が二人揃って、この国に何の用だよ?」
「お前に教える義務はない」
「へっ、そりゃそうだ! なら無理矢理教えて貰おうかね!」
弾丸のような速さでドレイドに向かうバーガス。
ドレイドは刀を構え再び、バーガスと打ち合う。
「ダークウイップ」
グリーフの影から鞭のようにしなる影。変幻自在な動きでバーガスに攻撃し、時に刃物のように鋭くなりバーガスを攻め立てる。
息をつかせぬ、グリーフの大量の影と、ドレイドの刀による連続攻撃。防ぎきれなくなったのか、体に切り傷を増やしていくバーガス。
「くそ! 食らえっ!風の衝撃!」
苛立ちながら、発せられる衝撃波にダークウイップは飛び散り。
ドレイドは教会に吹き飛ばされ壁を貫き、教会へと消える。
「へっ! そんなんじゃ死なねえだろ! 」
やる気まんまんに挑発するバーガスだが、辺りに何も気配は感じられない。
「えっ!? 逃げやがったのかよ! 単細胞のラースとかなら馬鹿みたいに来てくれんのに!?」
結界の張られた、夜のアルーシャにバーガスの悲痛な叫び声が響く。
ーー魔王城
「ヘックション!」
「ラース風邪なのー?」




