とまらない
ドーノの町を馬に出発して、半日。
現在は俺達の昼飯兼、馬の休憩中だ。
まだビストリアへの道のりは長い。急いでるとはいっても、馬に負担をかけて潰してしまっては元もない。
「ルーナ休憩の時くらい落ち着け。こっちがそわそわする」
「は、はい……ごめんなさい」
ルーナなんてあからさまに落ち着きが無く焦っているのがわかるが、これは仕方ない。
一日や、二日で王都に着くものでもないしな。
魔物との遭遇や、進行具合で時間は変わる。
さすがに元将軍のカーシュはそこのところをよく理解しているのか。無駄がない。
ロッテは少し緊張している。今から緊張してどうするんだよ。いつもより急ぎ足なだけの旅だろ?
そりゃ魔族と出会うかもしれないが。まだ先だろう。
王都の近くや着いてからが俺は怖いんだが。
トトは変わらない。 さっきつまみ食いしようとしてお仕置きした所なんだが、元気だな。
この世界では、旅の途中では大抵が硬いパンや、干し肉だ。あとは、芋を蒸かすとかそのあたり。
俺達の場合俺のアイテム袋のお陰で、どんな食材でも新鮮な状態で持ち運び調理できる。
日本人としては、硬いパンと干し肉なんて堪えられん。
これをくれた人アリス王女だっけ? とにかく第一王女には感謝だ。
そして今は、市場で買った魚、カーシュが途中で仕留めたホロホロ鳥が昼御飯となった。
魚は簡単に塩で味付けをし、ロッテに焼かせている。
現在は俺はカーシュが捌くホロホロ鳥を観察中だ。
「まあ、こんな感じだ」
「ほうほう」
なるほど、筋肉それば刃物を使わなくても手でもある程度解体できるんだな。
あっという間に解体できたホロホロ鳥。
鳥か~。本来なら唐揚げといきたいが、そういうのは時間がある夜でいいだろ。
普通にフライパンで焼いてソースをかけるか。
あっという間に完成する。料理。
途中ルーナもホロホロ鳥をつまみ食いしようとして、カーシュに怒られてたな。
王族だもんな。はしたないよな。
食事はいつも通り大量になくなる。
作った食事は何も残らなかった。
カーシュは最初にうまいと言うと、ずっと無言で食い続ける。
こいつも大食らいか。
美味しそうに食べてくれるのは、作る側としても嬉しいんだが、材料が無くなるぞ。
途中で収穫できる食材の知識をみっちり教えてもらわんとな。
楽しく食事をして、休憩をしたら再び出発だ。
それにしてもまた馬に乗るのか。お尻が痛くなるんだよ。
王都ビストリア 王宮
ーー王の間ーー
「ふん、フォーレン王国の王はそんなことは知らない。情報を確認するまで待って欲しいか」
フォーレン王国からの書状を見て、鼻で笑うビストリア王ルーガ。
「しかし、それが本当ならば少しの間待ってみるのも…」
汗を拭いながら狐の獣人の参謀マルヌス。
「そんな手に乗るものか。マルヌスこのまま兵士の編成を進める」
「は、はい」
参謀としては、王の為に別の提案をすることも大切だ。
マルヌスも大変だ。そうなると予測してまた別の事を進める。そんなマルヌスに追い討ちをかけるように問題がやってくる。
「ちょっと! お父様! どうしてアタシが待機なのよ! 」
ドタドタと入ってくるのは、第二王女のクーナ=ビストリア。
肩までの赤毛揺らし、綺麗な青い瞳をしている。しなやかな肉体は父親譲りだが、それ以外はどちらかと言えば母親に似ている容姿である。
「それは、さっきも言っただろう。聞き分けろ連れていくのはラーナでお前は王都の守りだ」
マルヌスもとっくに説明したのだが、聞いて貰えなかったようだ。血気盛んな王族でマルヌスの苦労がわかる。
「そんなの、お母様とじいちゃん達で十分じゃないの!」
「かもしれないが、戦場で何かあったら王族は全滅だぞ? 聞き分けろ。それにあの方達もいつまでも健在とは限らない」
「……そうだけど」
「ルーナと人間のことは俺達に任せろ。お前は国民達を頼む」
頭では納得してるが、心では納得できない様子で、悔しそうに小さく答えるクーナ。
クーナは一番ルーナのことを気にかけていたのだ、自分がこの手で助けたいと思うのは仕方がないのかもしれない。
「…わかったわよ。でも! そのかわり絶対ルーナを連れて帰ってきてよね!」
「当然だ」
ルーガの目をずっと睨んだ後に、クーナは出ていく。
「よろしいので?」
「ああ、あいつにはここを任せるんだ」
マルヌスの心配も無用のようだ。
すると、正面の扉近くから三人の歩く音が聴こえる。
「来たか、三獣士」
獰猛な笑みを浮かべ待ってたとばかりの表情を浮かべる。
「「失礼します」」
ノックをし、扉を開けて三人並んで入ってくるのは。
ビストリアの国の三人の将軍。三獣士。
ルーガから見て左側に、青熊獣人で大きな体格をしており、青い毛が特徴の男の獣人。
アシラ。
己の力に自信がある顔つきで堂々としている。
右側には、ほっそりとした白い毛並みの猫女の獣人。
ルーレイ。
ひらひらと動く尻尾と、しなやかで出るところはでてる体型はどこか妖艶である。
そして、真ん中を歩く三獣士のリーダー、
銀色の髪の毛に金色の鋭い瞳もつ、銀狼という稀少種の女の獣人。
ナーガ。
その気高い姿には、獣人なら誰もが見とれ畏れ抱くであろう。
銀狼の種族には、普通の獣化、王家に伝わる超獣化とも違う特別な能力を持つためだ。
【覚醒】その力は獣王ルーガでもっても超獣化を持ってとめるしか無いと言われている。
各兵士を束ねる、三獣士がここに揃ったということは、準備が終わったということ。
三獣士が頭をたれ、ナーガが顔を上げて報告する。
「ルーガ様、準備が整いました」
王の間に冷たく透き通るようなその声。
「そうか、マルヌスあれの準備もできておるな?」
「もちろんでございます」
マルヌスの言葉に満足そうにするルーガ。
「…三獣士よ……立て」
「「はっ!」」
ルーガは椅子より立ち上がり、三獣士とマルヌスを率いて、王都を一望できる王宮の高台に向かう。
そこからは、大きな広場がありビストリアの国民達が入りきらんばかりに、遠くまで国民で埋め尽くされている。
ルーガが高台に上がると、口々に王様だ!という声をあげ、静まる国民達。
「……準備は整った…これよりビストリア軍はアソビッソ平原に出陣する!」
「「我等三獣士はビストリアの牙となり! 盾となろう!」」
「「おおおおおおおおおおおーー!!」」
獣王ルーガの宣言と、三獣士の宣誓によりビストリアの士気は最高潮に達する。
これはルーナや紅一達がドーノの町を出る日のことであった。




