覚悟
「おい、お前あっちに並んでみろよ」
「ば、馬鹿言え、今近付いたら殺されちまうよ!」
「リューシャちゃん不機嫌そうだな」
「……何かあったのかよ?」
「知らねえよ」
遠巻きにこちらを窺う冒険者達。
私の受付には、いつもと違い列が無く。皆他の所へ並んでいる。
怒りたいとは言え、今は仕事の時間。
失礼なことをしなければ、ちゃんと対応しますよ?
「こちら空いてますよー?」
「ひいっ! ごめんなさい!」
いつものように、受けのいい笑顔を作ったつもりなんですが、冒険者の男の人に逃げられた。
ちょっと、人の笑顔みて逃げるなんて失礼じゃない?
「…………チッ……」
私としたことが、つい舌打ちしてしまった。いけない。
「「……………」」
私が他の冒険者に視線を向けると、皆揃って依頼書を読むふりや、素材の点検、飲み物を飲んだりと顔を反らす。
いつも依頼書なんかまともに読み込まない癖に。
はあーあ、何かつまらないわ。
「リューシャちゃん。受付嬢が冒険者脅しちゃ駄目よ~?」
私に声をかけてくる親友のイルナ。
危ない。バーガスさんや、他の人なら睨み付ける所だったわ。
む、脅すとは失礼な。
「そんなことしてない」
「皆リューシャちゃんの、圧力に怯えちゃってるわ~。理由はわかるけど引きずっちゃ駄目よ~?」
周りを見ると、コクコクと頷く冒険者達。
そんなに、怖いオーラ出てますか?
私なんかより、よっぽどイルナの方が怖いと思うんですけど。
この前の、イルナを口説きに来た、貴族の次男でしたっけ? 凄かったですね。
イルナはいつもと変わらず、ずっと笑顔でいただけなのに、何故か男の方が追い詰められていくあのプレッシャー。
顔は歓迎してるのに、どことなく帰れといったオーラ。
イルナは怒らすと怖いからねー。
「私のことはいいんですよ~? ちょっと休憩でもしましょう~」
後輩を呼びつけ、私を外へと押し出すイルナ。
え? どこいくのよ?
イルナに連れてこられたのは、女性に人気のカフェ。
何でも、最近勇者の知識により美味しい料理が誕生し人気急上昇中らしい。ここの料理以外にもたくさんの料理や、道具が生まれているわ。
勇者の国って何かすごいのね。
中に入ると、確かに見たことのない内装をしているわ。
広々として清潔感もあるし、なりより落ち着くわ。
どうやら、イルナが大分前から予約していたらしく、すぐに店員が席まで案内してかれた。
イルナが人気のメニューを店員に頼む。
すでに何回かは来たことがあるようね。
イルナはこういう新しいもの好きだし。
少し待つと、オレンジジュースとやらと、プリン?がやってきた。
オレンジジュースは、果実を絞ったものなのでわかりやすいが、プリンとやらは奇妙に思える。
「これ食べれるの?」
「もちろんよ~。それが美味しいのよ~?」
私の質問に答えて、スプーンでプリンを掬って食べるイルナ。
あ、あんがい柔らかいのね。
スプーンでつつくとプルプルしている。
何か……スライムみたい。
恐る恐る、プリンを掬い口に入れる私。
「………ッ!」
甘過ぎないちょうどいい甘さ。それにほのかに感じられる苦み。砂糖ばかりを使っているお菓子が馬鹿みたいに思えるわ。
こんなものが、あるなんて……
一口食べると夢中になり瞬く間に食べ終えてしまったわ。
「少しは機嫌は直ったかしら~?」
「む……私はもとからー」
「も~、クロキさんが黙っていなくなってからずっとそんな感じよ~?」
私が言い終わる前に、イルナが被せてきた。こういう時、イルナには全く勝てない気がする。
「マスターが言うには、ビストリアに向かったらしいわね~。私達に一声くらいかけてくれたら良かったのに~」
……一人でそんな危ない場所へ。呆れる。
今の情勢を知ってるのかしらあの人。
「全く、心配かけさせるわ」
「で? リューシャちゃんはクロキさんのことが好きなの~?」
溜め息をつく私にぐいぐいと迫るイルナ。
近い近いそれに胸デカイ。
もぐわよ。
「な、何で急にそうなるのよ?」
おっと、平常心。慌てたら誤解されるわ。心をガードよ。
「えー? クロキさんがいる時、リューシャちゃんすごく楽しそうだったし~。私もクロキさん面白いから好きよ~?」
「えっっ!!」
最後の言葉を聞いて崩れた、私の心。何て脆いガードなのかしら。
「あら~? 私のは恋愛的なものじゃないわよ~?」
「いや、あ、そう、イルナがそう言うから驚いただけよ」
クスクスと笑うイルナ。
くっ、意地悪ね。
「自分の気持ち気付いているんじゃないの~?」
確かにこんな気持ちになるのは初めてだけど、顔もろくに知らないのに気になってるなんて……
「……そうだけど何も知らないし」
「これから知ればいいじゃないの~」
「そうだけど……」
「決まり! 彼っぽい目撃があれば会いに行っちゃいなさいよ? 」
私の煮え切らない返事に、イルナが手を叩き提案してくる。
「…え? いや、そこまで? また戻ってくるわよ」
そこまでするの?会いに行くとかもう本気じゃない。そんな簡単に見つかるの? あー、でも魔物いるところに彼ありかもしれないわ。
ロックドラゴン倒せるし、分かりやすいかも。
「西周りに行って、いつ帰ってくるのかわからないのよ~?もう帰ってこないかもしれないわ~」
「……む、そうだけど」
「いつまでも、機嫌悪くしないで切り替えなさいよ~? その怒りは彼に会ったときぶつけたらいいわよ~」
「ん、わかった」
とにかく、また彼と会ってみよう。そうしたら自分の気持ちが本当か気付くはず。
「本当に鈍いわね~」
「そんなことありません」
赤くなった頬を冷ますために、冷たいオレンジジュースを口に含む私だった。
ーーフォーレン王国ーー
王城謁見の間
勇者達がここに来るのは、召喚されて以来である。
あの時と変わらずに、座るのはこの国の王。ケイオス王とアリス第一王女である。
そして静かに近くに控えるのはマチルダ。騎士団長のデリック。
赤城 勇人
LV35 人間 男性 16歳
HP480/480
MP400/400
ATK420
DEF370
AGI360
HIT330
INT400
属性 聖魔法2 光魔法3 火魔法2 風魔法2
スキル
剣術4
限界突破
HP回復上昇
魔装
体術4
称号 (異世界人)(剣の勇者)(イケメン)
青木 唯
LV34 人間 女性 16歳
HP450/450
MP360/360
ATK400
DEF310
AGI450
HIT310
INT270
属性 聖魔法1 光魔法2 火魔法3
スキル
拳術5
体術4
限界突破
HP回復上昇
魔装
称号 (異世界人)(拳の勇者)(貧乳)(熱き魂)
室井 轟
LV33 人間 男性 16歳
HP550/550
MP270/270
ATK320
DEF480
AGI253
HIT280
INT200
属性 聖魔法1光魔法2 土魔法4
スキル
大盾4
盾3
挑発
限界突破
HP回復上昇
拳術3
体術2
称号 (異世界人) (盾の勇者) (脳筋)
椎名 桃花
LV33人間 女性 16歳
HP320/320
MP480/480
ATK180
DEF200
AGI250
HIT290
INT490
属性 聖魔法3 光魔法4 水魔法3 風魔法2
スキル
杖術3
瞑想
感知
回復上昇
MP消費軽減
MP回復上昇
魔装
体術2
称号 (異世界人)(杖の勇者)(恥ずかしがりや)
鑑定石で勇者一人一人のステータスを見るケイオス王。
召喚初日から鑑定石を使ってもよかったのだが、勇者達の人となりを確かめる為使わなかったのだが。
勇者達は王の準備が間に合わなかったという、言い訳に何も感じていないようだ。
信用しているというのか、ケイオス王としてはここで、疑問が来ないことが少し不安である。普通の若者がこういうところを気付くのは難しいのかもしれない。
「ふむ、驚くべき成長の早さとステータスの数値じゃな。四人でならBランクの魔物も倒せるのではないかのう?」
赤城逹、勇者のステータスを見て満足するケイオス王。だがその顔はどこか暗い。
本来ならばこの短時間で驚愕すべきことなのたが、今は時間がない。
どうやら、勇者達は早熟タイプのようだ。
「ありがとうございます。 ですが俺達はまだまだです。もっと強くなって人々の役に立ってみせます」
勇者達のリーダーてある赤城が爽やかに答える。
「うむ、頼もしい言葉じゃ。さと、今回赤城殿らを呼んだの獣人たちことについてじゃ」
「獣人ですか? 」
「うむ……近頃もしかすると獣人達と戦争になるかもしれんのじゃ」
「え? ……戦争? しかも魔族じゃなくて獣人と?」
「……ふえぇ。戦争ってあの戦争ですよねぇ?」
静かに告げるケイオス王の言葉に驚きを隠せない勇者達。
赤城達勇者は平和ボケした日本人の現代の若者。
戦争など、教科書や知識でしか知らない。
ましてや、この世界での戦争。科学がほぼ全くないとはいえ、魔法がある。
赤城達には想像もつかない。
「それはどちらが仕掛けて、回避できそうにないのですか?」
「獣人の国ビストリアからなのじゃが、ビストリアの第三王女が人間に拐われたのが原因のようじゃ。何とか情報を確か、使者を送っているのじゃが、向こうはすでに戦争準備に入り、兵士が集結しているそうじゃ」
青木の問いに、疲れた表情で答えるケイオス王。
ケイオス王が望んでこうなったのでは無いことが、赤城達にも一目でわかる。
日本人の価値観とは言え、欲のために戦争を仕掛ける国ではないことに一先ずホッとする赤城逹。
そして重要なのがもうひとつ。
「俺達は……戦争に行って戦うのでしょうか?」
少し震えそうになるも、こらえながら尋ねる赤城。
青木や、室井、椎名もその答えを静かに待つ。
「もし、戦争で戦うことになってしまった場合赤城殿達、勇者にはここ王都の守りに就いてほしい」
ケイオス王の言葉から、出兵の言葉が無いことを聞いて、赤城逹は肩の力を抜くことができた。
赤城達皆はこう思っただろう。よかった、と。
最初は魔物を倒すにも吐きそうになったほどの勇者達。
最近は慣れてきたが、人を殺すとなるとやはり恐ろしい。理性のない魔物を殺すこととは違うのだ。生半可な覚悟ではできない。
「王都の守りとは、獣人が攻めてくるのですか?」
「いや、それは無いじゃろう。基本我等の兵士がぶつかるので心配は無い。じゃが、これを期に魔族や、何者かがここを襲撃するかもしれぬのじゃ」
「皆さんがお守り下さるのなら、私達も安心です」
アリス王女の笑顔に見とれそうになる赤城。毎度のごとくそれを睨み青木と怯える赤城。
「そ、そうですか。やはり戦争となると不安だったので、正直……俺達もいきなり戦場では無くてホッとしています。」
「それはそうじゃろう。勇者とは言え人間なのじゃからのう。とは言え全力で回避は試みるが、攻められてはこちらも戦うしかない。赤城殿達も強くなったことなのじゃ、レベルの高い所でのレベルアップと盗賊の討伐を頼む」
優しい表情から、しっかりした表情に変えて告げるケイオス王。
しかし、最後の言葉に勇者逹は同様をする。
「レベルアップはわかりますけど? 盗賊ですか? 」
「うむ、赤城殿達の世界、日本では殺人はいかなる場合でも忌避されることは解っておる。しかし、この世界では日本のように平和ではない。魔物や盗賊達ら襲われればか弱き民ではいとも簡単に命を落とす」
「つまり、人間相手にも慣れろと」
今まで聞きに徹してた轟が口を開く。
「そうじゃ……お主達のためでもあり、この国のためでもある」
異世界より召喚した若者に、このようなことを言うのはケイオス王としても心苦しい
「……わかりました。私達…心も体も強くなってみせます」
意外なことにも、強く発言したのは椎名であった。
驚きながら椎名を横目に見る青木、赤城、室井。
それに続き答える。
「いつかはやらないといけないことよ。私達なら大丈夫よ」
「皆のためなんだ」
「うむ」
この世界の勇者で一番成長したのは椎名かもしれない。




