懸念
「戦争ですって!? そんな!? どうしてです!?」
「私には詳しくは何も……ですが、先程の話を聞くと、ルーガ様が黙っていられるとは……」
えらく簡単に嵌められたもんだな。
それにしてももっと国王から聞いた感じでは、もっと派手に攻めてくると思ったんだがな。
「一刻も早く王都に戻りましょう! 魔族の好きにはさせません!」
落ち込んだのも束の間に、ルーナの瞳には強い意思を感じさせる。
「行ってどうするんだ?」
「戦争になるまでに止められるかもしれません」
「間に合うのか? それに今さらお前が出てきて戦争が止まるのか?」
仮に戻るにしろ、魔族がすんなりと王都に戻してくれるとは思えないが。戻れたしても王や、第一王女はすでに戦場に向かっているのではないだろうか。
もしすでに戦場に向かっていたなら、王都から早馬を出しても間に合わないのではないだろうか。
「それでも、少しでも国民達の犠牲が減るのなら、戻るべきです! それに魔族が何か仕掛けて来るかもしれません」
「そうか…」
可能性があるなら、危険でもやる……か。
「そのために、コウイチさんにお願いします」
真っ直ぐな目で俺を見るルーナ。
「私を王都まで連れていってください」
やっぱりそうなったか。思わず溜め息をつきそうになる。
「ロッテ達はどうする? 」
俺やカーシュはともかく、ロッテとトトは自分の村に帰した方がいいんじゃないのか。
「私達も王都に行っても大丈夫よ。戦争が本当なら徴兵されてお父さんも王都にいるかもしれないし」
「お父さんに会えるね!」
何て心配をするも、あっさり問題ないらしい。しかも一緒に着いてくるつもりだ。
「ロッテ、トトありがとうございます。本当は危険にさらしたくないのですけど、今は信用できる人が少しでも欲しいのです。だから嬉しいです」
おいおい、俺は危険にさらしてもいいのか。
俺がそんな目でルーナを見ると、フッと微笑む。
「コウイチさんはお強いですから。信用しているんですよ。もちろんカーシュも」
「はい、このカーシュ、年老いた身ですがルーナ様を守りとおしてみせます!」
カーシュが跪づき、まるで騎士のように宣言する。
何か似合っているな。
「まあ、元々王都まで送るつもりだったんだ。別に構わんが勝手に動くなよ?」
「勿論です! では明日の朝、王都に向かいましょう!」
魔族なんかに出会わなければいいんだが。
さっそく出発を決めるが、今は夕方。
今日は念入りに、買い物や装備などを準備して明日の早朝出発になった。
保存食など買い物を終えると、夜になってきた。妙に人が多いと思ったら、夜に宴があることを思い出した。ルーナの話しですっかり忘れていた。
ロッテ達を連れていくと、お酒とか飲まされて明日に響きそうなので一人で向かった。
宴に向かうと嬉しそうに、レーナが来てくれて、一緒に食事をした。
宴ということもあり、豪華な料理や珍しい特産料理も出てきた。
シンプルな料理だがうまい。後で調理方法を教わらなければ。
途中では見事に出来上がった獣人達の戦士も集まってきて馬鹿騒ぎになった。
俺も軽く果実酒を飲んだが、すごく飲みやすかった。
キリのいいところで、獣人の戦士達の礼をもらい宿へ戻った。
ーー早朝
いつもなら眠そうにしているはずの、ロッテやトトなのだが、今日気合いが入っており、朝からシャキッとしている。
いつのまにか、カーシュが三頭馬を手配してくれたので皆で乗ることになった。
当然俺は馬に乗ったことが無いのが俺だけなのでルーナと俺はもちろん二人乗りである。
ちなみに体重が軽いトトとロッテも二人乗りなのだが、ロッテがやけに俺を睨んでいる気がする。
仕方ないだろう。カーシュと乗れと言うのか。護衛も兼ねていていいじゃないか。
途中で馬に乗る練習もするし。
「ルーナ様。準備ができました」
「では、行きましょう! 王都ビストリアへ!」
「「おー!」」
カーシュもいるし魔物や、道のりの心配はいらなさそうだな。
旅の知識なんかも暇があれば聞いておこう。
面倒なのは、戦争に巻き込まれるのと魔族だな。
どちらも勘弁だが、魔族のことご不安だな。
魔族というのは奴等の、実力はどの程度なのだろう。
と何となく、魔族とは出会いそうな気がする。
ーーフォーレン王国
宣戦布告を受けた頃
円卓のテーブルにつく、フォーレン王国の王や、臣下達。
その表情は優れない。
「どうしてなんだ! 最近はビストリアともうまくいってたのではないのかザハール!? それがどうしてこうなる!」
「私にもわかりません。確かにうまくいっていたはずなのですが。この書状を見るにビストリア領土の迷いの森で、人間族の馬車を見かけた書かれて おります。恐らくは闇商人かと……」
ケイオス王が怒りのあまりにテーブルを叩く。
ザハールと呼ばれるビストリアとの外交を担当する臣下が冷や汗を浮かべながら弱々しく答える。
「闇商人か。獣人の奴隷としての扱いは禁止しておると言うのに、この国にまだそんな奴等がいるのか!? 誰か何か知っている者はおらんか?」
書状を手に臣下達を見渡すケイオス王。
臣下達はオロオロしながら他の者に相談する。
「誰も知らんのか?」
ケイオス王が問うも誰も反応しない。
「他国や裏切り者、魔族の仕業じゃないのか?」
そんな中一人の男の声により静まる空気。
冷笑を浮かべる男。
「何を言うか! バーガス!成り上がりの汚い冒険者風情が! 我等を疑うと言うのか!」
「いやいや、別にこの中とは言ってないだろ。他国や、下の奴等が起こしたのかもしれんしな。」
激昂する臣下達にお構い無しに、バーガスは余裕の様子だ。その目はどこか臣下達を見下しているようだ。
凍りつくような威圧に、動かなくなる臣下達。
冒険者ギルドのマスターは伊達ではない。こんな性格だがバーガスはトップクラスの実力者だ。
「よさぬか、お前達。バーガスも少し口が過ぎるぞ」
「へいへい」
軽く肩を下ろし、凍りつく威圧を引っ込めるバーガス。
「バーガス、冒険者ギルドでは何か情報はあるのか?」
「さあな、聖クリストハイフとか怪しいんじゃねえの? あいつら神の敵とか言って、魔族と獣人とかも目の敵にしてるし。黒い噂も多いぜ? あとその隣の奴隷国ヤンドリアとかもな。」
「むう? そいつらの仕業だと? 」
ケイオス王も思い当たることもあるのか、苦い顔をしてバーガスの話を聞き続ける。
「さあ? 可能性の話だよ。ここにも裏切り者がいるかもしれないしないしな」
バーガスの言葉により険悪なムードになる会議室。
「決めつけるのは良くない。とにかく今は一刻も早く情報を確かめ必要がある。全ての馬車の記録を急いで調べよ! 怪しい場所は念入りな!無駄な争いを避けるのじゃ!」
「はい!」
「わかりました!」
返事をしてバタバタと動き回る臣下達。それぞれの部下に命令をとばしている。
「バーガス、お主はこのまま冒険者ギルドで情報を集めるなり、独自に調べてくれ」
「冒険者ギルドで情報を集めるなら、うちのおっかない受付嬢で十分さ。なら俺は独自にちょっと調べてくれみるさ」
最近すごく機嫌が悪いけどな と言って、
一人楽しそうに笑うバーガス。
「また連絡するゆえ、連絡はいつでもつくようにしてくれ。お主はこの国の貴重な戦力なのだ」
「連絡はまあ、うちの受付嬢に伝えてくれれば大丈夫さ。そういや、勇者は役に立つのか? 何でもすごい初期能力らしいじゃねぇの」
「そうなのだがまだ召喚してばかりで実力が不安でな。いざというときに戦ってもらうつもりじゃが」
「まあ、実力がついても難しいかもな。面白い奴だったらいいんだがな。ロックドラゴンを倒したアイツみたいに」
「例の報告書に書いていた者か?」
「ああ、面白い奴だった。もうこの国にはいないだろうが」
笑いながら席を立ち部屋を出るバーガス。
二つの意味深な言葉に懸念はあるのか、部屋には苦い顔をしたケイオス王が一人残った。
「マチルダ、勇者達はどうじゃ?」
「はい、順調にレベルも上がり精神も強くなってはおります。強力な魔物や、下級の魔族なら倒すことはできるかもしれませんが、実戦になるとどうなるか……」
静かに控えていた、王の護衛兼メイド長のマチルダが口を開く。
「盗賊の討伐でもさせてみるか?」
「この世界について考えさせられ、よい経験にもなるかもしれません。試してみましょう」
「そうか……勇者達が戦力になればいいのだが」




