プロローグ始まりの物語
古い童話のイメージです。
むかしこの大陸がまだ一つになっていたころ。人間、獣人、魔族という種族は互いに争いあい、たくさんの種族の者達が血の海へと沈みました。
その光景を見て哀しんだ三人の者達は、平和を目指すために立ち上がりました。
太陽のように輝き人々を照らす優しさとどんなものにも立ち向かう勇気を持つ人間。
月明かりのような美しい毛並みをなびかせ、神速のような速さを持つ気高き獣人。
ーーそして
世界を壊してしまえる程の魔力を持った、とってもとっても優しい魔族。
三人はそれぞれ必死になって国を纏めました。志を同じくする三人が出会い、仲良くなるのに時間はかかりませんでした。
そして、この世界ができて初めて三つの種族がまとまり共存共栄をすることが叶いました。
大地が赤に染まった大陸が嘘のように、自然と人々の笑顔に溢れました。
立ち上がった三人がそれぞれの国の王となりました。
勇気を持つ人間は勇者と讃えられ。
気高き獣人は獣王と讃えられ。
優しい魔族は王より強力な魔皇帝と讃えられました。
月日が流れるなか、美しい勇者と獣王は人々から絶大な人気を誇りました。
しかし、世界を壊してしまえる程の魔力を持つ魔皇帝は人々の前に出ることができずに、得体の知れない魔族という烙印を押されるようになりました。
勇者と獣王は悩みました。
どうすれば魔皇帝の優しさを皆がわかってくれるであろうと。
そんな時、強力な魔物が人々へと襲いかかりました。
凶悪な魔物を前に次々と戦士が倒れ、いくつもの村や町が潰れていきました。
そしてついに都市へと攻めこんだ魔物に、勇者と獣王が魔皇帝の三人が立ち向かいました。
有効な一撃を放つ魔皇帝。
勇者と獣王は魔皇帝を援護しながら魔物の攻撃から人々を守りました。
そしてついに、魔物が魔皇帝の一撃により崩れ落ちました。
しかし、人々は多くの仲間と都市を失いました。
魔物は魔皇帝の元に吸い込まれていくように跡形もなく消え去り、同時に魔皇帝の魔力がより強力なものへとなりました。
その姿を見て人々は怯えました。
ー魔皇帝もあれと同じなのでは?
魔皇帝は傷つきました。人々に怖れられたから。ではなく、志を同じとした家族である勇者と獣王にさえ怖れられてしまったからです。
魔皇帝は逃げるように旧魔族の領土へと帰りました。
魔皇帝が旧魔族領土へと篭るなか、人々の魔皇帝への恐れ、怒りは高まっていきました。
魔物との戦い中で、犠牲者のほとんどが人間と獣人という偶然を受け止めきれなかったのです。
魔族の者は人々と獣人に対して怒りました。
魔皇帝は人々を守るために戦ったというのに、どうして魔皇帝に怒りを抱くのか。
人間、獣人と魔族がぶつかり合い、死傷者が出ることに時間はかかりませんでした。
優しき魔皇帝は魔族が殺されても、初めは報復をしませんでした。
そうすれば、また昔のようになってしまう。
怒り狂う魔族を宥めてやり過ごしていましたが、ついに限界を迎えました。
再び種族は、争うようになりました。
共に同じ場所に住むことは無く、種族はそれぞれの領土へと戻りました。
そして、優しき魔皇帝は停戦させるために勇者と獣王と話し合いをしました。
魔皇帝は今なら時を置けば熱も冷める。そうすればまた平和になると思いました。
しかし、話し合いの場で待っていたのは魔皇帝の拘束と、武器を手にした、勇者と獣王、それに精鋭達。
魔皇帝は裏切られたのです。
『お前がいるから皆が不安になる。お前さえいなくなれば平和になるんだ』
『だから……消えてくれない?』
勇者と獣王の冷たい言葉と不意打ちにあい、魔皇帝は重傷を負いました。
魔封じの枷により、魔力を極限にまで押さえられた中で魔皇帝は大陸の端まで逃げ延びました。
『お前さえ消えれば』
『あなたさえいなければ平和に……』
かつては家族とまで思っていた者に投げかけられた言葉。
心が哀しさに包まれる中、魔皇帝は思いました。
ーー俺さえいなくなれば、人々は平和になるのか?
少なくとも人間と獣人と魔族の争いだけは減らしたい。
そう思い魔皇帝は命を削りながらも、魔力を振り絞り大陸から魔族領土を切り離すように割断しました。
最期に魔族領土へと伝令の黒い一羽の鳥を飛ばして倒れました。
駆けつけた、勇者と獣王は魔皇帝に近付きました。
魔皇帝はこの状況になっても笑っていました。
裏切られ、傷付けられても魔皇帝は種族関係なしに全ての人々が大好きだったのです。
ーーそう、とってもとっても……哀しいくらいに。
『……再び平和な世界を作ってくれよ』
『ああ』
そう言い残す魔皇帝に勇者は剣を振り下ろしました。
勇者と獣王の表情は冷たいものでしたが、頬には涙が伝っていました。
ーーそして数千年後、魔皇帝は暗闇の中で目を覚ます。とある少年の中で。