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アンドロメダからの来訪者

 空が派手に光り輝いたと思う間もなく、厚い雲を突き抜け、丼型の飛行物体が、大挙して現れた。

「空飛ぶ丼だっ!」たまたまベランダで洗濯物を干していたわたしは、危うく腰を抜かしかける。「と、と、とにかく、都知事にこのことを報せなきゃっ」

 慌てて部屋に戻ると、携帯をひっつかんだ。

「えーと、えーと、都庁って何番だったっけ?」携帯の電話帳をポチポチとめくるが、どこにも見当たらない。「しまった! 都知事とアドレスを交換してなかった」

 「104」を押して、電話番号案内を呼び出す。

「はい、こちらはNTT電話番号案内サービス……」

「すいません、急いでるんです! 東京都知事の番号を教えて下さいっ」


 教えてらもらった番号をチラシの裏にメモすると、すぐさま掛ける。

「もしもし、都知事ですか? 今っ! たった今っ、空飛ぶ丼が押し寄せてきましたよっ!」

「あー、そうみたいね。こっちは7階からだから、よーく見えるわ」と都知事。

「そんなのんきなっ。だって、UFOですよ。未確認飛行物体なんですったら!」

「どれどれ――」しばらく、声が途切れる。「なるほど、なるほど。こりゃあ、たしかに丼だわ。それも、ラーメン丼だな。……というわけで、たった今確認したから、『未確認』は取ってもらってかまわないよ」

 ちゃんと、中まで「確認」したんですか。乗組員は? 推進力に何を使ってます? いったい、どこからやって来たんですか?

 聞きたいことは山ほどある。けれど、出てきた言葉は、自分でも驚くほど簡素なものだった。

「麺類なんですか?」


「さあね、まだそこまではわからんよ」都知事は答えた。「ま、ともかく、通報ありがと。こっちから、総理に連絡入れとくから」

「総理によろしく言っておいて下さい。あの、差し出がましいようですが、周辺諸国にも一報を入れといた方がいいですよ。もしもの時、力になってくれるかも」

「うん、言っとくね。でも、あんま心配は要らないんじゃないかあ? だって、攻撃するつもりなら、とっくにやってると思うんだ。ほれ、今日なんか今にも降り出しそうな空模様だろ。わざわざ自分から姿を現して標的になったりせず、雲の上からビーッ、ガガーッ、ってな具合に攻撃するぜ、ふつう」

「きっと、われわれ人類をばかにしてるんです。それに、映画なんかでもお馴染みですけど、こっちからの攻撃なんか、まるで通用しないんですよ」わたしは、暗にむちゃな真似はしないように、と警告を発する。大人しくしていれば、いくらかは手加減をしてくれるかもしれない。


「君、宇宙人のこと、詳しいんだね。それなら、ちょっくら、彼らとの特使を務めてみないかね」都知事が思いがけないことを言い出した。

「そんな、素人なんかに無理ですってば」わたしは即座に辞退をする。相手はエイリアンだ。何をされるかわかったものじゃない。

「こっちにだって、宇宙人専門の人間なんかいないさ。この際、民間人だろうがなかろうが、そんなの関係ない。頼むよ、なんなら、今度暇な時、『1日都知事』をやらせてあげるからさあ」

「うーん、そこまで言うのなら……」わたしは折れた。ツイン・タワーには、まだ登ったことがないのだ。あそこの食堂はおいしいらしい。

「そうかっ、やってくれるか。じゃあ、あとは頼んだよ。適当に話を合わせて、やばそうだったら帰ってもらって」

 そんな、押し売りじゃないんだから。


 とにかく、相手の声を聞かなくては何も始まらない。

 わたしは、町内で1番高い、10階建てビルの屋上へと駆け上がった。

「おーい、聞こえますかーっ?」上空をぷかぷかと漂う、ラーメン丼に向かって呼びかける。ひぃ、ふぅ、みぃ……全部で24機あった。

 そのうち最も近い丼の底がパカッと開き、何かロープのようなものが垂れ下がってくる。先には、四角い物体がくくりつけられていた。

 まさか、瞬間破壊光線かっ?! 「宇宙戦争」という映画では、友好的に話し合おうとしたとたん、ジュッと焼き殺されてしまう。

 いつでも逃げ出せるように、わたしは身構えた。

 ロープの先の箱から、ピー、ガリガリッと耳障りな音が響く。

「あーあー、ただいま、マイクの試験中……っと、よし!」アンドロメダ星系訛りのだみ声が轟く。拡声器だったのか。「われわれは宇宙人だ……いや、です。お前――失礼――あなたは地球の代表ですか?」

 これは驚いた。ちゃんと、地球の言葉を覚えて来訪していたとは!


「はい、ついさっき宇宙特使に任命されましたーっ」わたしは声の限りに叫ぶ。

「あー、よかった。助かった。われわれは、239万光年ばかり先の横町からやって来た宅配の者です。『アンドロ目玉焼き定食』24人前、こちら地球より承り、デリバリーにうかがいました」

「デリバリー? ああ、出前のことかぁ。それで、住所はどちらですかーっ?」

「それで困ってるんです」宇宙人が答えた。「手元にある地図が古くって、さっぱりわからず、早い話が道に迷ったというか、なんというか……」

「なーんだ、そんなことですか。そっちのラーメン丼、いえ、宇宙船は、インターネット見られますかーっ?」わたしは聞いた。

「あ、はい。言葉もそこで覚えましたから」

「だったら、簡単。Googleマップを開いて、そこでちゃっちゃっと調べればいいんですよーっ」

「おーっ!」宇宙船がグラグラッと宙で揺れる。よほど感動したらしい。

「ほんと、助かりました。ありがとうっ、宇宙特使殿ーっ!」

 アンドロメダからの来訪者達は、それぞれの配達先へと散っていった。

 その様子を見送りながら、

「特使就任、初日にしては上々だったぞ」

 そう自負するのだった。

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