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子供映画会に行く

 町内の公会堂では毎年、大晦日に「歳末子供映画会」が開かれる。人気アニメやヒーローものを上映し、お菓子やジュースをタダでもらえるのだ。

 わたしも、子供の頃は欠かさず観に行った。映画館など、小学生だけでは行かせてもらえない。けれど、公会堂を利用した「子供のためのイベント」ということであれば別だ。

「今日は公会堂で映画でしょ? いちおう、お金を渡しとくから、お友達と一緒に行っといで」親の方で勧めるくらい。お菓子がもらえ、映画も観られる。その上、お小遣いまでもらえるなんて、いいことずくめ。親としても、安心して預けられる上、大掃除のいい厄介払いになる、と考えていたようだ。


 もっとも、中学生くらいになると、そうはいかない。それまでは戦力外どころか、邪魔者扱いされていたが、大掃除の手伝いをしなくてはならなくなった。

「ほら、もう中学生になったんだから、ガラス拭きぐらいやってちょうだい」

 それが終わると、

「こっちはもういいから、自分の部屋を片付けなさい。あとで、見に行くからね」

 部屋に戻って辺りを見回し、1年のツケを思い知らされるのだ。とても、外出どころではなかった。

 そんなわたしも大人になり、子供映画会へは、もう何年も足を運んでいない。映画館へも行けるし、そもそも子供向けのアニメなど観たって仕方がないし。


 だから、桑田孝夫に電話で、

「なあ、むぅにぃ。公会堂で、『超戦隊ゴッドセブン』の上映会があるんだってよ。行かね?」と言われた時、思わずこんな言葉が口をついた。

「はあっ?」

「なんだよ、そのばかにした言い方はっ」ムッとした声が返ってくる。

「だって、それって子供のための催しでしょ? 今さら行けないじゃん」

「いいじゃねえか、大人が行ったって別に」と桑田。「それに、映画を観るだけだ。菓子はもらわねえよ。あの映画な、まだDVDになってねえのよ。こんな機会にしか観ることができねえんだ」


 いくつになってもお子様だなぁ、と内心あきれる。そう言えば、桑田の部屋は、ヒーローのフィギアやポスターでいっぱいだったっけ。

「そんなに観たいんだったら、1人で行けば?」わたしは冷たく言い放つ。

「ばかっ、1人でなんか行けるかよ」そうやって大声を出す。やっぱり、自分だって恥ずかしいんじゃん。 

「どっくりビンキーのフィレ・ステーキで、手を打ってもいいよ」わたしは取引を持ちかけた。

「おう、いいぜ」あんまりあっけないので、返って気が抜けてしまう。

 そんなわけで、わたしは久しぶりに「歳末子供映画会」に出かけることとなった。


 受け付けで、係員がわたし達を見て、「おや、まあ?」という顔をする。大人が参加してはいけない、という規則はなかったようで、肩をすくめながらも、

「どうぞ、ごゆっくりご鑑賞ください」とだけ言う。

 会議室の1つを解放してあって、入り口のテーブルには、お菓子の詰め合わせが載っていた。

 「ひとり、いっこずつ」と書かれたそれを、桑田は当たり前のような顔で取っていく。

「お菓子は要らないんじゃなかった?」わたしはちょっぴり皮肉っぽく言った。

「雰囲気、雰囲気」ルンルン気分の相手に、何を言ってもムダらしい。


 室内の照明が落とされる。出入り口でぼーっと光る、緑色の非常灯ばかりがやけにまぶしかった。

「いよいよ始まるなっ」桑田は袋からスナック菓子を取り出すと、ポリポリとつまむ。

「しぃっ……」わたしは注意した。何十人もいるほかの子供達の方が、よっぽど行儀がいい。


 物語は、やれ年末だ、年越しだと騒ぐ人々の元へ、悪の化身・ビンボーヒマナシ将軍が襲いかかる。

「おまえらに食わせるおせちはねえっ! ワッハッハッ!」

 ビンボーヒマナシ将軍の吐く息は、人々に焦りと不安を植え付け、もっと頑張らなくては、という気持ちにさせるのだった。けれど、働けど働けど、給料は上がらない。それもそのはず、ビンボーヒマナシ将軍が、途中で上前をはねているのだ。

「まるで自転車操業だ。このままじゃ、とても年は越せない」人々は、そう言って嘆く。


 そこへ、われらが超戦隊、ゴッドセブンが登場!

「待てっ、ビンボーヒマナシ将軍っ!」大きな袋をぶら下げた赤いコスチュームの1人が叫ぶ。「ゴッドセブン、リーダー。ダイコクテン参上!」

「同じく、エビス!」

「わが名はビシャモンテン!」

「都会に咲く紅一点、ベンテン!」

「フクロクジュとはこのおれのことでぃっ!

「しんがりをつとめるのは、おいらホテイさっ!」

 ビンボーヒマナシ将軍は、寄ってたかって袋叩きにされ、

「てめえら、覚えてろよっ! 来年こそは、ギッタンギッタンの目にあわせてやるからなっ!」捨て台詞を吐きながら逃げていく。

 こうして、今年も無事に年越しを迎えられるのだった。


「すっげえ、よかった。なっ、よかっだろ? むぅにぃ」明かりが付き、背伸びをしながら桑田は立ち上がる。

 観る前はばかにしていたわたしも、感動で打ち震えていた。

「うん、DVD出たら、絶対に買う!」

 帰る際、受け付けで記念品をもらう。宝船の描かれたポスト・カードだ。


 〔なかきよの、とおのねふりの、みなめさめ 。なみのりふねの、おとのよきかな〕


 そう書いてあった。

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