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アニメに夢中な友人

 近頃姿を見せない木田仁だったが、聞いた話では、アニメにどっぷりはまっていると言う。

 凝り性だから、きっと寝食忘れて、テレビにかじりついていること間違いない。目を悪くしなければいいが、とわたしは心配した。

 その本人から、電話が来る。

「やあ、むぅにぃ。おいらさ、今、アニメに夢中でさ」元気そうな声だった。やけに、メリハリのある話し方をする。アニメのキャラ、そっくりの口調だ。

「そうらしいね。どんなアニメ観てるの?」わたしは聞いた。

「そりゃあ、いろいろさ。ロボットものだろ、魔法少女だろ、ギャグだって面白いのがいっぱいあるんだ。テレビ欄は片っ端からチェックしてるんだぜ。1本だって見逃したりしないよ。みーんな録画するのさ」

「すごいね。BDレコーダー1台じゃ足りないんじゃない?」

「当たり前さ。20台でもって、フル稼働中なんだ。それに加えて、レンタルも毎日100本ずつだからね」

 毎日100本も借りて、期限中に観終わるものだろうか。それに、料金だってすごい。1本300円としても、3万円。1ヶ月なら、90万円にもなる。


「す、すごいね……」重ねて言う。

「まあね。だけど、『はまる』ってそういうことじゃないのかなあ。おいら、自分で言うのも変だけど、のめり込むタイプだから」

 うん、知ってる。わたしは心の中でうなずいた。

「うちも、ドラマとか録画するんだけど、いつか観ようと思って、溜まる一方なんだ」そう打ち明ける。

 すると、いくぶん語気を荒くして、

「そりゃあ、ダメだなあ。気になるから録画したんだろ? だったらさあ、ちゃんと観てあげなきゃ」

「木田、全部観てるの? どうやって?」思わず聞き返す。膨大な録画と併せて、日に100本ものレンタル。時間など、いくらあっても足りるはずがない。


「観てるさ。観てるに決まってる。だって、せっかく録ったんだぜ? もったいないじゃないか。20倍速にして、モニター20枚同時に観るんだ。はかどるぞ」なんでもないことのように答える。

「そんな無茶なっ」わたしはあきれた。

「何が無茶なもんか。人間、好きなことにはとことん、集中できるもんさ。むぅにぃ、君だってやればできる」

 とても無理だ。やらなくともわかる。

「でも、それって面白い?」わたしは、素朴な疑問をぶつけてみた。

「面白いかって? 今、面白いかって聞いたのかい?」と木田。怒らせちゃったかな、と不安になる。そうではなかった。「そりゃあ、面白いさ。ほかの人が1つのテレビでじっくり観ているのに、おいらなんかその20倍、さらに20枚なんだぞ。計算してごらんよ。20かける20はいくつだい? 400さ。400倍も楽しんでるってわけだね」


 ふだんは人がよく、付き合いやすい人物なのだけれど、何かに没頭し出すとやっかいだ。相手の意見などまるで耳に入らず、ひたすら突っ走るのである。

「ところでむぅにぃ。君はアニメを観たりしないのかい?」

「うーん、観るけど、実写のドラマの方が多いかなぁ」特に、海外ドラマが好きだった。

「損してるなあっ」さも残念そうに言う。「おいらに言わせれば、時間をムダにしてるね、それって。だって、そうだろ? 生身の人間なんか見たってつまらないじゃないか。薄っぺらだね。それに比べたら、アニメーターが、1枚、1枚、コツコツと描いたアニメは芸術なんだよなあ」

「そうかなぁ……」

「そうともっ。むぅにぃも、もっともっとアニメを観るべきだと、おいらは思うんだ。そうだ、今度、お勧めのBDを何枚か持って行くよ。これがほんと、面白いんだ」


 次の休みの日、チャイムの音で玄関へ出る。ドア・スコープから覗くと、ショッピング・バッグをぶら下げた木田が立っていた。

「あ、いらっしゃい」わたしはドアを開ける。

「やあ、約束してたアニメのBD持ってきたよ」木田はそう言って、ショッピング・バッグを差し出す。受け取って驚いた。両手で持たないと支えきれないほど、ずっしりと重いのだ。

「いったい、何枚あるのさ」わたしは聞く。

「そうだなあ、ちゃんと数えたわけじゃないけれど、ざっと300枚くらいかな」

「来年いっぱいかけても、観終わるかどうか」わたしはため息をついた。

「いいさ、返すのはいつだって。おいら、どれももう、50回ずつは観てるんだから」


 立ち話もなんだから、と中へ入ってもらうことにする。

「インスタントしかないけど、コーヒーでも飲んでってよ」

「それはありがたいなあ。外は寒くってね」

 わたしはBDを詰め込んだショッピング・バッグを持って、よろよろと中に運ぶ。その拍子に、肘で押さえていたドアが閉まりかけた。

 わたしがあっ、と声を出すのと、木田がわずかな隙間から、するりと玄関に入り込むのとは、ほとんど同時だった。

「えっ?!」わたしは、まじまじと木田を見つめる。

「どうかした?」

「木田、その体どうしたの?」正面からだと気がつかないが、妖怪、一反木綿のように厚みがなく、ペラペラなのだ。

「ああ、これか。アニメの見過ぎかもしれないね。ほら、アニメってセル画に絵を描くもんだろ? おいらってば、影響されやすいからなあ」

 人のことを薄っぺらいとか言っておきながら、自分こそ本当に紙みたいじゃん。

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