表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/234

クモ型ロボット、大暴れ

 アオンモールのサンマクルカフェで、グリルチキンパン・セットを食べていると、いきなり爆発音が響いた。

「わっ、いったい何の騒ぎっ?!」飲みかけのカフェラテを、思わず取り落としてしまう。

「お前と茶店に入ると、いっつも事件が起こるな」桑田も慌てた様子で、辺りを見渡した。ほおばっていた月見胡麻チキンバーガーのバーンズから、目玉焼きがつるんと滑り落ちる。

「こっちのセリフだよ」膝の上にこぼれたカフェラテをハンカチで拭きながら、わたしは言い返した。

 桑田と出かけて、平穏な時間を過ごせたためしがない。

「おれ、ちょっと様子見てくるわ」桑田はそう言って、フロアをのぞきに行った。

「気をつけてね」胸騒ぎがして、言葉をかける。

 桑田が店を出て行くと同時に、またドーンッと音がした。通路を人が大勢駆けていく。誰もが、恐怖に引きつった表情をしていた。


「やべやべやべっ!」大声を発しながら、桑田が駆け込んでくる。「おい、むぅにぃっ。逃げるぞ、今すぐだっ!」

 ただ事ではないと理解し、グリルチキンパンをわしづかみにして、桑田のあとへと続く。

「何があったの?」走りながらわたしは聞いた。

「わけのわからねえメカが暴れてるんだ」息を切らしながら答える。

 後ろの方でガラスが割れたり、重機のようなものが床を叩く音がする。振り返ると、人の倍ほどもあるクモ型ロボットが暴走しているのが見えた。

「な、何あれっ?」

「知らねえ。とにかく、逃げるしかねえっ」

 振動とともにホコリが吹き付けてくる。建物が崩れるのではないかと、不安になった。


 広いモールは、走っても走っても出口が見えない。

「こっちでいいんだっけ? なんか、奥に向かってない?」わたしは言った。

「合ってるって。確か、Fゲートに通じてるはず」

 ところが、その先は2階行きのエスカレーターがあるばかり。

「ほらあ、やっぱ違うじゃん」わたしはなじった。

「しょがねえ、いったん上に行って、それから反対側から回ろうっ」桑田は、動いているエスカレーターをさらに駆け上がる。

「もうっ!」わたしもそれに従った。引き返せない以上、桑田の言うルートしかなかった。

 2階でも、ほかの客達が右往左往している。中には、どっちへ逃げればいいかわからず、わたし達のいるこのエスカレーターを逆走して降りようとする者まであった。

「ダメだって、こっちは降りられない。下にバケモンがいるんだぞっ」桑田が必死になって、それを止める。


「じゃあ、どこへ逃げればいいんですかっ」相手は半狂乱でわめき散らす。

「2階のフード・コートへ回って、その脇の階段を下りるんだ」と桑田。

 エスカレーターの下の乗り口に、さっきのクモが姿を現した。赤く光る3つのレンズがクリクリッと素早く動き、わたし達を捉える。

「早く、駆け上れっ!」桑田が叫んだ。

 わたし達は急いで2階まで走り、エスカレーターから飛び降りる。すかさず、桑田が非常停止ボタンを押した。

 途中まで登りかけたクモ型メカは、ガクンッとつんのめり、重心を失って後ろ手に転がっていった。

「やるうっ、桑田。少しは時間が稼げた」ついでに、グリルチキンパンをクモ型ロボットに投げつけてやる。

「ぼやぼやすんなっ、今のうちに行くぞ!」


 フード・コートまで出てみると、数人の客がテーブルを積み重ねていた。

「早く逃げないと、すぐにやってきます」わたしは大声で注意を呼びかける。

「いや、われわれは断固としてここで阻止する。こっちには武器だってあるんだ」サラリーマン風の中年男性が威勢よく言った。

「武器ってどんな?」桑田が尋ねる。

 傍らでさっきまで営業をしていたモヌ・バーガーの店長が、大きな筒を肩に乗せて現れた。

「こいつですよ。名付けて、バーガー砲」

「バズーカ砲?」わたしは聞き返す。

「いえいえ、バーガー砲です。どうです、心強い武器でしょう?」自信満々の笑顔だった。


「それって、まさか、ハンバーガーが飛び出るんじゃないでしょうね」

「ハンバーガー屋がハンバーガーを使わなくて、どうするんです」と店長。「もちろん、テリヤキバーガーを発射するんですよ。それも連射でねっ」

 無茶だ、とわたしは思った。桑田も隣で肩をすくめている。

 そうしている間にも、例のモンスターが足音を響かせながら近づいていた。

「来たぞっ!」前線を守っている客が叫ぶ。

「まかせてくださいっ」モヌ・バーガーの店長はバーガー砲を構えると、クモ型ロボットに狙いを定める。「発射っ!」

 目にも止まらぬ早さで、次々とテリヤキバーガーが飛んでいく。

「そんなもんで倒せたら、自衛隊いらねえっつうの」桑田がぼやいた。

 ところが、意外。テリヤキバーガーは、ロボットの目であるレンズを塞ぎ、可動部の節や排気口へと入り込み、内部の電気系統をショートさせたのだ。

 派手に火花を散らしたと思うと、崩れるように倒れ、それっきり動かなくなった。


「うそっ?!」わたしは声に出す。

「うまい物に敵はなし」店長が誇らしげにバーガー砲をかかげた。

「おっどろいたなあ、とても信じられねえ……」桑田が口をぽかんと開けて立ち尽くす。

 ドドドッと不気味な揺れがモール全体を襲った。その場で喜びを分かち合っていた者は、一斉に辺りの様子をうかがう。

「今度は何?!」

 吹き抜けに黒い影がムクムクとせり上がってきた。二足歩行のロボットだ。さっきのクモ型などとは、比べものにならないほど巨大だった。


「でかいっ、でかすぎる!」

 バーガー砲では、とても太刀打ちできそうにない。

「どうする? ね、どうしようっ!」ロボットを見上げ、わたしは震えた。

「大至急、応援を頼もう」店長が意を決したように言う。

「いよいよ、自衛隊だな。一緒にアメリカ軍も呼んどいたほうがいいぞ」と桑田。

「いや、まずはバーガーモングとドメドメ。それと忘れちゃいけない、マタドナルドですな」

 ハンバーガーが、どうかこの窮地を救ってくれますように! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ