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謎の塔・その3

 太陽を包んでいる炎を透かして、うっすらと大地が見える。

「燃える火の玉だって聞いてたけど、天文学者の間違いみたいだね」わたしは言った。「あの青いの水でしょ? 海なんだよ。ほら、陸だってちゃんとあるし、白い雲まで浮かんでる」

 くっつきすぎの大陸をのぞけば、何から何まで地球にそっくりだ。

「うーん、奇妙ですね。実に奇妙なことです」志茂田はすっかり、考え込んでいる。

「これが太陽っていう惑星なんだよ、志茂田。今まで、誰も知らなかっただけでさ。だって、そうじゃん。行った人、いないんだから」

「なるほど、確かにそうですね。われわれは、見た目だけで判断し、わかったつもりになっていたのかもしれません」自分を納得させるためか、うんうん、と何度もうなずく。


 いよいよ大気圏に突入し、ロケットは着陸態勢へと入った。

「どんな星なんだろう。宇宙人とか住んでたりするのかなぁ」期待半分、不安半分、それがわたしの率直な気持ちだった。

「上空から見えたさっきの地表なんですが」志茂田が額に手を当てながら言う。「どうも見覚えがあると思ったら、数億年前の地球に存在していた大陸、パンゲアにそっくりなんですよ。もっとも、だいぶ分裂した姿でしたが」

「もしかしたら、そうかもね」冗談めかして返事をする。

 ふいに、船室を激しい振動が襲う。逆噴射が始まったらしい。

〔間もなく、惑星「地球」に到着します。船が揺れますので、ご注意願います〕アナウンスが告げる。

 わたし達は、お互いの顔を見つめ合ったまま、声もなく、ぽかんと口を開けるのだった。


「驚いた。ここって、本当に地球だったんだ。じゃあ、今までいたところはなんだったんだろ」やっとのことで、わたしは言った。

「これは、わたしの推測ですが」志茂田が慎重に意見を述べる。「どちらも地球なのだと思いますよ。着いてみればわかりますが、さっきまでいた地球こそ、太陽に見えることでしょう」

「どういうこと?」さっぱりわからない。

「太陽と地球、これは同一体なのです。2つで1つ、ということですね。ただ、存在する時間軸が異なるのでしょう。さっき見たのは、やはりパンゲア大陸だったのです。形からして、1億年ほど昔のようですね」

「まだ、飲み込めてないんだけど、それってつまり、1億年前に来ちゃった、ってこと?」

「早い話が、おっしゃる通りです」志茂田は結論を下した。


 かなりの衝撃を感じた。クッションが効いているはずのイスに座っていてさえ、体が2度、3度と弾む。

「着いたみたい……」わたしは顔をしかめた。

「そのようですね」志茂田も頭を軽く振って息を漏らす。

〔地球~、地球~。どちら様も、お忘れ物のないよう、お気をつけ下さい〕

「もう、電車じゃないんだから」わたしは声に出して言ってやった。志茂田に向き直り、「で、これからどうする? ずっと座りっぱなしでのどがカラカラ。コンビニでもあればいいんだけど」

「コンビニどころか、人も住んでいませんよ、むぅにぃ君。きっと、恐竜がうろうろしているに違いありません。せめて、外の様子でもわかればいいんですが……」

 答えるかのように、それまで船内のコンディションをグラフィックで示していたスクリーンが、パッと切り替わった。ロケットの周辺を映し出している。


「あれ、この景色、見覚えがある」わたしは身を乗り出してスクリーンを見つめた。「ほら、中央公園だよ、これって。生えてる木や遊歩道とかがちょっと違ってるけど、確かにそう。遠くの方に見えてる町並みも、古めかしいけど、知ってるところだよ」

「そんなばかな――」志茂田の目は、文字通り真ん丸だ。「あ、あそこのスーパー、すでにあったのですね。ふむふむ、当時は平屋造りでしたか」

 ティラノサウルスがいないことがわかったので、わたし達はロケットを降りることにした。

 エレベーターを降り、「出入り口」と書かれた壁に向かうと、わたしは合い言葉を唱えた。

「ひらけ、ゴマっ!」スーッ、と音もなくドアが開く。新鮮な空気が流れ込んできた。

「当時はまだ、入り口が地表の上に出ていたのですね」外に出て、ロケットを振り返りながら志茂田が言う。長い年月を経て、自重で沈んでいったのでしょう、というのが彼の推察だった。


 ロケットを見上げる。宇宙を旅してきたばかりだというのに、どこもかしこもピカピカに輝いていた。やはり、展望台にしか見えない。

「これに乗ってやって来たんだねえ」わたしは、しみじみとつぶやいた。

 そこへ、カートを押しながら公園番が通りかかる。

「あ、こんにちは源吉……じいさん?」顔形、年格好までそっくりそのまま、わたしの知っている公園番だった。けれど、すぐに思い出す、ここが1億年前の地球だと言うことを。

「はい、こんにちは。今、わしのことを源吉、と言いなすったか? いや、わしゃ、源太郎ちゅうもんだ。そうさのう、その名前も悪かない。孫に勧めてみるとするかな。子孫の誰かに、そんな名が付くかもしれんて」源太郎じいさんは、ニコニコと1人うなずく。

「それでは源太郎さん。あなたは、こちらの公園番を務めてらっしゃるんですか?」志茂田が尋ねる。

「おお、そうじゃよ。先祖代々からの言いつけでな。今さっき、空から何やらでっけえもんが降ってきたでな、ちょっくら見に来たんだ」


「これに乗って来たんです」わたしは言った。言うと同時に、改めて1億年という歳月の重みに気付いた。「そうなんです、もう帰れないんです……」

「乗って来たのかね、これにっ?」源太郎じいさんは、額の皺をいっそう寄せてたまげた。「乗って来たんだったらば、また乗って帰ればよかろうに。簡単なことじゃろが?」

「あ、そうかっ」にわかに明るい気持ちが戻る。

「いえ、それがダメなのですよ」それを、志茂田がふいにした。「この宇宙船は太陽に向かって飛ぶのです。あの太陽というものは奇妙な天体でしてね。なんと、1億年前の地球なんです。わたし達は、過去へ戻ることしかできないのですよ」

「ほおー、そういうもんかね」源太郎じいさんはわかった顔で相づちを打つ。

 わたしは再び、落胆してしまう。

「けんど、宇宙船ちゅうもんには、あれが――ほれ、なんつったっけ? 氷らせて眠る、なんたらって機械が備え付けてあるもんなんじゃろ。わしゃ、先だって、ばあさんと一緒にテレビの映画で観たことがあるぞ」

 志茂田とわたしは、思わず顔を合わせた。 

「それだっ!」ほとんど同時に声を上げる。


 源太郎じいさんに、この「見晴らしの塔」の管理を頼み、わたし達はロケットへ戻った。

「任せておけ。子々孫々まで、この塔はわしらが守り続けるでな」

 操縦席はリクライニング仕様になっていた。横たわってスイッチを入れれば、制御室全体がコールド・スリープ・カプセルとなることもわかった。

「1億年後ピッタリに合わせますよ」志茂田がコンソールに向かって数値を打ち込み始める。

「あ、ちょっと待って」わたしは訂正を求めた。「2時間くらい早めにしてくれる? 本屋に行くでしょ。その帰り道、ファストフードでハンバーガーのセットが食べられるようにさ」

「いいですとも、むぅにぃ君。今度は長旅になりますよ。せいぜい、お腹を空かせておくことですね」

                           (おしまい)

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