UFO、激写される!
朝のオフィス街。
ビシッとスーツに身を包んだサラリーマンが、まるでアリの行列のようにぞろぞろと行き交う。
1人が空を仰ぎ、いきなり大声を出した。
「あれはなんだ!」
近くにいた者も思わず見上げ、口々に叫ぶ。
「鳥だっ!」
「いや、飛行機だっ!」
「違う、あれはUFOだっ!」
辺りはたちまち大騒ぎになった。
「写真を撮っておこう!」
「そうね、そうしましょうっ!」
誰も彼もがその場に立ち止まり、ポケットやバッグからスマホを取り出しUFOに向ける。パシャパシャというシャッター音が界隈に響きわたり、さながらアイドルの撮影会のような様相を呈した。
当のUFOはといえば、赤や青、黄色や緑のランプを点滅させながら、ビルの上空をあっちへふらふら、こっちへふらふらと漂うばかり。
「すごいなあ、撮ってくれと言わんばかりじゃないか」誰かがつぶやく。
「ほんと、UFOって意外とかまってちゃんなのね」
「おれ達って、撮り鉄みたいだよな」
「いやいや、ありゃあUFOだぜ。言うなれば『取り皿』といったところか」
会社に遅刻することも忘れ、たっぷり30分、そうした賑わいが続いた。
その数日後のことである。
日本政府に公式な抗議文書が届いた。
《ワレワレ ハ ウチュウジン デアル。センジツ トアル ジョウクウ ヲ ユウランヒコウ シテイタトコロ、フトクテイタスウ ノ イッパンピーポー ニヨル ムダンサツエイ ヲ サレタ。コレハ トウサツコウイ デアル。ダンコ、コウギ ヲ スル。シャザイ ト バイショウ ヲ モトム》
官邸は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「エラいことだ。怒った宇宙人が攻めてくるかもしれない。どうしたらいいだろうか」首相は頭を抱えながら部屋の中を行ったり来たり。
「まずは国民を代表して謝罪すべきでしょう」官房長官が提案をする。「その後、賠償額について話し合うのがいいのでは。いいですか、総理。まずは安い額から提示していくのですよ。いきなり高額では図に乗るに違いない。そうですね、10万円くらいからでどうでしょう」
「おお、それはいい考えだ。なあ、どこまで釣り上げられると思う? 15万だろうか、それとも20万を超えてしまうだろうか」
「さあ、それは存じません。なんせ、相手は宇宙人ですから。とにかく、誠心誠意、ごめんなさいと謝りましょう。金額につきましては、この際多少のことは目をつぶるとしましょう。一応、一般会計から支出するとして、万がいち大金をふっかけられたら、ほら、いつものように特別会計へ組み込んでしまえばいいんですから。」
政府はさっそく、宇宙人に返信を送った。
《日本国政府として、この度の行為につき国民を代表して謝罪をする所存です。つきましては、一度どこかで顔合わせを願えないでしょうか。永田町周辺に、こじゃれた喫茶店がありますので、そちらでどうでしょうか》
《ワレワレ ハ ウチュウジン ダ。リョウカイ シタ。デハ ニ チョウメ ノ スタバ ニ アス デ ドウカ?》
《わかりました。時間はどうしましょう?》
《ゴゼン 9ジ ニ シタイ。モーニング ノ クラブハウスサンド イシガマ カンパーニュ ガ ウマイ ノダ。シナモンロール ト スタバラテ ノ サイズアップ デ トール モ ツケタイ》
《わかりました。あそこのスタバですね。あ、もちろん、料金はこちらで支払わせていただきます。では、よろしくお願いいたします》
首相は額の汗を拭って、やれやれと一息つく。
約束当日、首相はじめ補佐官、4人のSPが2丁目のスタバへ列をなして入っていく。初対面なので探すかもしれないと不安だったが、それは杞憂だった。
奥の席で、明らかに異質な容姿をした3人が座ってお冷やをすすっているのを見つける。大昔のSF小説の挿絵そっくりな、典型的なタコ型宇宙人だった。
宇宙人は首相に気がつくと、
「ア、ドモ」と手を挙げる。
「あ、どもども」首相もつられて返事をした。
「コッチ ノ セキ ヘ ドウゾ」宇宙人の1人が手招きをする。
「はあ、恐縮です……」首相と補佐官は向かいの席に腰掛け、SPはその背後を守った。
「先だっては、うちの国民がたいそう失礼を……」首相がまず頭を下げる。
「イヤイヤ スンダコト デス」にこやかに返してきた。
「しかし、この前の文書では、たいそうなお怒りようだったじゃないですか」
「ジツ ハ アレカラ イロイロ ト アッタノデス」別の宇宙人が答える。「ワレワレ ノ UFO ガ ドウガハイシン デ タチマチ ニンキ ニ ナリマシテ。アッチ カラモ コッチ カラモ シュツエン ノ イライ ガ タエマセン」
「はあ……」
「オカゲサマ デ シュツエンリョウ モ ガッポガッポ」
「それは何よりでした」
「アア コノホシ ニ キテ ヨカッタ」宇宙人達は満面の笑顔を浮かべて言う。
「なるほど、まさに引っ張りダコというわけですな」
首相はようやく頬を緩めた。