表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/234

UFO、激写される!

 朝のオフィス街。

 ビシッとスーツに身を包んだサラリーマンが、まるでアリの行列のようにぞろぞろと行き交う。

 1人が空を仰ぎ、いきなり大声を出した。

「あれはなんだ!」

 近くにいた者も思わず見上げ、口々に叫ぶ。

「鳥だっ!」

「いや、飛行機だっ!」

「違う、あれはUFOだっ!」

 辺りはたちまち大騒ぎになった。

「写真を撮っておこう!」

「そうね、そうしましょうっ!」

 誰も彼もがその場に立ち止まり、ポケットやバッグからスマホを取り出しUFOに向ける。パシャパシャというシャッター音が界隈に響きわたり、さながらアイドルの撮影会のような様相を呈した。


 当のUFOはといえば、赤や青、黄色や緑のランプを点滅させながら、ビルの上空をあっちへふらふら、こっちへふらふらと漂うばかり。

「すごいなあ、撮ってくれと言わんばかりじゃないか」誰かがつぶやく。

「ほんと、UFOって意外とかまってちゃんなのね」

「おれ達って、撮り鉄みたいだよな」

「いやいや、ありゃあUFOだぜ。言うなれば『取り皿』といったところか」

 会社に遅刻することも忘れ、たっぷり30分、そうした賑わいが続いた。


 その数日後のことである。

 日本政府に公式な抗議文書が届いた。

《ワレワレ ハ ウチュウジン デアル。センジツ トアル ジョウクウ ヲ ユウランヒコウ シテイタトコロ、フトクテイタスウ ノ イッパンピーポー ニヨル ムダンサツエイ ヲ サレタ。コレハ トウサツコウイ デアル。ダンコ、コウギ ヲ スル。シャザイ ト バイショウ ヲ モトム》

 官邸は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

「エラいことだ。怒った宇宙人が攻めてくるかもしれない。どうしたらいいだろうか」首相は頭を抱えながら部屋の中を行ったり来たり。

「まずは国民を代表して謝罪すべきでしょう」官房長官が提案をする。「その後、賠償額について話し合うのがいいのでは。いいですか、総理。まずは安い額から提示していくのですよ。いきなり高額では図に乗るに違いない。そうですね、10万円くらいからでどうでしょう」

「おお、それはいい考えだ。なあ、どこまで釣り上げられると思う? 15万だろうか、それとも20万を超えてしまうだろうか」

「さあ、それは存じません。なんせ、相手は宇宙人ですから。とにかく、誠心誠意、ごめんなさいと謝りましょう。金額につきましては、この際多少のことは目をつぶるとしましょう。一応、一般会計から支出するとして、万がいち大金をふっかけられたら、ほら、いつものように特別会計へ組み込んでしまえばいいんですから。」


 政府はさっそく、宇宙人に返信を送った。

《日本国政府として、この度の行為につき国民を代表して謝罪をする所存です。つきましては、一度どこかで顔合わせを願えないでしょうか。永田町周辺に、こじゃれた喫茶店がありますので、そちらでどうでしょうか》

《ワレワレ ハ ウチュウジン ダ。リョウカイ シタ。デハ ニ チョウメ ノ スタバ ニ アス デ ドウカ?》

《わかりました。時間はどうしましょう?》

《ゴゼン 9ジ ニ シタイ。モーニング ノ クラブハウスサンド イシガマ カンパーニュ ガ ウマイ ノダ。シナモンロール ト スタバラテ ノ サイズアップ デ トール モ ツケタイ》

《わかりました。あそこのスタバですね。あ、もちろん、料金はこちらで支払わせていただきます。では、よろしくお願いいたします》

 首相は額の汗を拭って、やれやれと一息つく。


 約束当日、首相はじめ補佐官、4人のSPが2丁目のスタバへ列をなして入っていく。初対面なので探すかもしれないと不安だったが、それは杞憂だった。

 奥の席で、明らかに異質な容姿をした3人が座ってお冷やをすすっているのを見つける。大昔のSF小説の挿絵そっくりな、典型的なタコ型宇宙人だった。

 宇宙人は首相に気がつくと、

「ア、ドモ」と手を挙げる。

「あ、どもども」首相もつられて返事をした。

「コッチ ノ セキ ヘ ドウゾ」宇宙人の1人が手招きをする。

「はあ、恐縮です……」首相と補佐官は向かいの席に腰掛け、SPはその背後を守った。


「先だっては、うちの国民がたいそう失礼を……」首相がまず頭を下げる。

「イヤイヤ スンダコト デス」にこやかに返してきた。

「しかし、この前の文書では、たいそうなお怒りようだったじゃないですか」

「ジツ ハ アレカラ イロイロ ト アッタノデス」別の宇宙人が答える。「ワレワレ ノ UFO ガ ドウガハイシン デ タチマチ ニンキ ニ ナリマシテ。アッチ カラモ コッチ カラモ シュツエン ノ イライ ガ タエマセン」

「はあ……」

「オカゲサマ デ シュツエンリョウ モ ガッポガッポ」

「それは何よりでした」

「アア コノホシ ニ キテ ヨカッタ」宇宙人達は満面の笑顔を浮かべて言う。

「なるほど、まさに引っ張りダコというわけですな」

 首相はようやく頬を緩めた。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ふふっとほのぼのできる夢野さんの作品の味わいを、久しぶりに読めました! ありがとうございます。 [一言] お久しぶりです~。お元気ですか? 投稿を出来る健康とメンタルがあることのしあわせ…
[一言] お久しぶりです! ずっとログインしていなくて、別の活動をしていたのですが、夢野さんの作品を見つけて飛んできました。 UFOを撮ったら盗撮で訴えられるって、その危険は考えていなかったです〜!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ