重量税が拡大する
朝起きて、いつものようにスマホで「今日のニュース」を流し読みしていたら、「本日より重量税の拡大化が決定」という記事に目が止まった。
「自動車を持っているとたいへんなんだなぁ。軽も普通車並みの重量税になるっていうし」わたしはクルマを持っていないので、人ごとである。けれど読み進めていくうち、あまりの内容にびっくりしてベッドから転げ落ちそうになった。
なんと、人間も課税対象になるというのだ。
「えー、なになに。成人男性は70キロ、女性は60キロ超から30円の重量税徴収。1キロ超過につき、さらに50円ずつ加算……って、そんなばかな!」
あわてて風呂場へ駆け込み、ヘルスメーターに飛び乗る。ふう、ギリギリセーフ。この秋はさんざん食べまくったけれど、思っていたほど体重は増えていなかった。
こうしてはいられない。いまから街の様子を見に行かなくては。きっと、パニックになっているに違いなかった。大急ぎで着替えると家を飛び出す。
近くのバス停では、緑のおばさんならぬ緑のおじさんがヘルス・メーターの脇に立って、乗車する客の体重を量っていた。
「えーと、おたくは43歳男性ですね。体重は……67キロ。はい、このままご乗車ください。お次の方。ご年齢は27歳、女性で間違いありませんね。ヘルス・メーターにどうぞ……おや、60キロを15キロもオーバーしてるじゃありませんか。30円プラス50円かける14キロで、あー……780円いただきます」
太り気味の女性は、顔を真っ赤にさせながら財布から紙幣を取り出して渡した。
うわー、公開処刑だ。思ったよりもひどいな。
わたしは無課税でパスし、バスへと乗り込んだ。車内はざわざわと剣呑な雰囲気が漂っている。
「ったく、こんなことなら朝飯なんか食ってくるんじゃなかったぜ。80円も損しちまった」
「しくしく……。せっかくさばを読んでこれまでやって来たのに、もう生きていけないわ」
「とんでもない税金を導入しやがって。消費税が上がったばかりだってのに、そのうえこれだ。やってられない」
内心、うんうんとうなずきながら、わたしは最後尾の席に着いた。
〔次は~ニャオン前~、ニャオン前~〕
わたしは降車ボタンを押す。世の中の状況を見るには、ニャオンのようなショッピング・モールが一番だ。
バスを降りると、目の前はすぐにモールの入り口である。例によって緑のおじさんがヘルス・メーターを前に出張っていた。
「はいはい、あなた、ヘルス・メーターに乗ってってね」と緑のおじさん。
「バスに乗る前にも体重を量りましたよ。規格内です」そう言い返す。
「まあまあ、とにかく乗ってね。規則なんで」
わたしはムスッとしながらもヘルス・メーターに乗った。当然のことながら、さっきと同じ数値を示す。
「はい~、いいですよ。何度もヘルス・メーターに乗るんじゃたいへんだよねえ。チケットを発行するんで、次からはこれを見せてね」おじさんが腰に下げた端末から青い紙片をプリントして差し出した。紙片には「体重○○キロ、本日のみ有効」と書かれている。
ニャオンはいつも通り混雑していた。あまりにも巨大なので、まるで1つの都市のようだ。人をよけながら歩いていると、先の方で何やら騒いでいる。どうしたのかとのぞいてみると、スターバックスの前でスタッフと言い争いをしていた。
「だからよう、ニャオンに入る前にも体重を量ったっていってるだろ。ここでもまた徴収するっていうのかよ」
桑田孝夫だった。重量税を払え、払わないでもめているらしい。
「桑田ー、そんなところで何してんの?」わたしは声をかけた。
「おう、むぅにぃ。モールに入る前に金払ったのによ、またよこせっていうんだぜ。ふざけてるよな」かなり憤慨している。
「申し訳ございません、お客様。ニャオンの入場と各店舗への入場とで、別々に重量税をいただいておりまして……」
「だってさ、桑田。あきらめて払いなよ」ぽんと肩を叩いてなだめた。ポケットからさっきもらった青いチケットを取り出し、スタッフに見せる。「1名、無課税で」
桑田の悔しそうな顔を横目に、わたしは店の中へと入っていった。